十年前の日記帳3
8月5日
宇宙人のイブちゃん、やっぱりカワイイ。
あとイブちゃんは地球をたすけに来てくれたらしい。
今月のおわりに、地球にいんせきが落ちるんだって。
これはピンチ!
「タカピー、アルマゲドンの見過ぎだ」
「いやいやそんな事はないはず。第一俺はディープインパクト派だから」
既に話は、一般人が簡単に納得出来る範疇をとうに越えていた。
もはやこれは日記帳ではなく、日記という手法を使った新しいSF小説じゃないだろうか。
ま、こんな稚拙な文章で小説とか言われても鼻で笑っちゃうけどな。
段々と興味を喪失し始めた俺だが、とりあえず最後まで読んでみる事にする。
8月10日
地球を救うために、みんなで力を合わせることになった。
僕たちが地球を救うんだ。
8月18日
イブちゃんもすっかり僕らの仲間入り。宇宙ってホントにすごいところなんだなぁ。
8月26日
いよいよ決戦前夜。
みんなの前では強がったけど、やっぱり少しこわいかな。
僕らがしっぱいしたら、世界のいろんなとこでたくさんの人が死ぬ。
もしかしたらこの北嵩部にも落ちてきちゃうかも。
でもそんなことはさせない。
きっとうまくいくよ。
8月27日
やった!世界を救った!
僕らが力を合わせれば出来ないことはない!
8月28日
僕らが世界を救ったことを誰も知らない。
たぶん、この先誰も知らないと思う。
がんばって世界を救ったのに注目されないなんて、なんかもどかしい気分。
8月29日
夏休みももう終わり。
今年の夏休みはホントに楽しかった。
イブちゃんとも会えたし。
でもイブちゃんこれからどうするのかな?
タカピーの日記は8月29日を最後に途絶えていた。
最初はタカピーの頭がおかしくなったのかと思ったが、そこまで読んでみると、なんだかあまり絵空事のようには思えなくなっていた。
十年前と言えば中学校三年生。
思春期と受験の真っ盛りの時代だ。
思春期に色んな妄想を繰り広げるのは仕方のない事。
もちろん俺も中学の頃は色々エロい事を妄想したものだ。
そしてこのタカピーの日記帳も、いわゆる『厨二病』の副産物かと思っていたが、それにしては妙に説得力がある。
中学生の作った設定にしては意外と出来がいい。
もし、仮に、仮にだ。この日記帳に書いてある事が、すべて事実だったとしたら……。
「お、お待たせしました……」
「お~恋南、お兄ちゃんの為に麦茶を持ってきてくれたのか。さすが俺の妹」
部屋に入ってきた恋南は、氷でキンキンに冷えた麦茶を持ってきてくれた。
「別にお兄ちゃんの為じゃないし。ど、どうぞりょー君……」
「ウヒャホー!待ってたぜ恋南!お前の愛、この俺がすべて飲み干してやるぜっ!」
「え、あ、そんな……」
麦茶を一気に飲み干して至福の時を存分に味わう俺。
四肢に伝わるこの爽快感、死亡寸前だった俺の体が完全に蘇った。
「生き返るとは、こういう事か……。よくやってくれた恋南。お前の愛が、世界に必要不可欠な存在であるこの鹿嶺龍太の命を救ったのだ」
「りょ、りょー君が喜んでくれるなら……それだけで……私……」
よく見れば、いつの間にか恋南はさっきと違う私服にシフトチェンジ。まぁさっきのは恐らくパジャマだろうな。
そしてさっきまでボサボサだった髪型も、今では綺麗に纏められている。
それだけではなく、無かった眉毛も書かれてるし、ファンデも薄く塗られているようだ。
「恋南、一緒に旅行でも行くか。二人で」
「え!えぇ!!そ、そんな!急に言われても!」
とか言いながら、恋南は顔をニヤツかせた。
あれ?意外に脈アリ?
「うわぁぁぁあ!許さん!そんなの絶対にお兄ちゃんが許しません!」
ヒステリックな叫びを上げて、俺たちの空気をぶち壊すお兄様。
重度のシスコン患者であるタカピーは、妹への束縛や嫉妬心も最高レベルなのだ。
「お兄ちゃんには何にも、少しも、これっぽっちも関係ないじゃん!」
「俺のカワイイ妹が間違った道を歩くのを見過ごせない」
お前!俺を変人扱いしやがったなコンニャローめ!
「お兄ちゃん……ウザイよ、そういうの」
「ふぉぁっ!」
恋南のタカピーを見る視線と言ったら、それはもうまるで腐敗したゴミを見るような目だ。
妹愛のこいつからしてみたら、今の一言は恐らくチ〇コに毛が生えた時並みの衝撃だったに違いない。
「りょー君、ごめんなさい。ダメな兄なんです」
「いやいや、俺は海よりも大きな心を持っているから大丈夫だ」
「ふふ、そうなんですか」
笑った恋南JK、若くてめっちゃカワイイやんけ。
とりあえずタカピーの姿が痛々しいので、出来る俺はすかさずカバーリングしておく。まさにプロ。
「あ、あの……りょー君……良かったらでいいんですけど……番号……教えてもらえないですか……?」
顔を真っ赤にした恋南。ヤバイ!恋に落ちてしまいそうだ!
何これ!モテ期!?ついに俺にもモテ期到来!?バラ色人生開花!?
「あ!イヤならいいんです!断ってくれて!私の番号なんて知りたくないですよね!ごめんなさい!」
「これだ!いつでもどこでもどんな時でも連絡入れてくれ!人生退屈で困っていたのだよ!」
「え、あ、ありがとうございます~!」
そんな俺たちのやりとりを見ずに、ぼんやりと外を眺めるタカピー。
「あ~……笑ってるよ~……太陽の奴が『ざまぁ』って鼻で笑ってるよ~……」
どうやらやはり、タカピーは精神を侵されてしまったようだ。
そりゃああんな日記を書くぐらいだからな、中学の時から既に予備軍だったという事か。
「りょー君、じゃ、じゃあ……連絡しますね……」
笑顔でタカピー部屋から去っていく恋南の足取りは軽い。
そして友人の妹とはいえ、女の子と番号交換出来たという満足感で、俺の心はとても健やかだった。
今なら悟りを開けそうだ。
「タカピー……」
「……」
「ドンマイ!いい事あるさ!」
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