心配性

たいした用もないのに毎晩掛かってくる君からの電話。


うんざりだなんていえるわけもなく、今夜も長電話の覚悟を決める。


これがいつもの僕ら。


珍しく君から切った夕べの電話。


どうやら僕のそっけない返事が彼女を怒らせてしまったらしい。


ほんのささいなことで傷つくのも知ってるから気にかかる。


満足に眠れもしないし、何をしてもろくに手につかない。


結局、今夜は電話の前でずっと待ってる。


こんな日に限って掛かってこない。


いくら待っても掛かってきやしないから、心配でやきもきしてくる。


こっちから掛けようか。


習慣をやぶるのにすこしためらう。



根拠のない不安がよぎり、慌てて彼女の番号をコールする。


電源が切られているか電波の届かない場所にいるというアナウンスにいっそうの焦りを覚える。



いてもたってもいられず、ジャケットをひっつかむと駅へと走る。


電車に乗り込みドアにもたれ掛かると、今の彼女の状況を考える。


想像の中の彼女はうつろな表情を浮かべて、その横に僕の知らない男が彼女の髪を弄んでいる。


自分の勝手な空想で自分を追い込んでいる自分の情けなさ具合にほとほとうんざりしてしまう。


電車が動き出すと、だしぬけに携帯が振動する。


びっくりした僕は小さな声をあげてしまう。


向かいにたった男の視線が冷ややかだ。


慌てて携帯を取り出すと通話ボタンを押す。


期待したのとはほど遠いがさつな男の声だ。


気がたっている僕は用件だけ聞くとすぐに電話を切る。


一瞬彼女からだと期待してしまった分余計に寂しくなる。


あの時どうして彼女に優しい言葉のひとつも掛けてやれなかったのだろう。


今では昨日のことを悔やんでも悔やみきれない。


もはや彼女とはこれきりなのではないか。


そんなことで頭が一杯になっていた僕は携帯のバイブにも気付かなかった。


現実に立ち戻った僕はすぐさま携帯を手にとる。


「もしもし」


恐る恐る電話に出ると、電話口で彼女の笑い声がする。


「どうしたの、深刻そうな声なんか出して」


いつもと少しも変わらない様子の彼女は、いろんなことをまくしたてる。


昨日の夜のことはどうやら少しも気にしていないらしい。


次の駅で電車を降りた僕は反対車線の電車に乗り込む。


いつまでも終わらない彼女の話しに、寝ぼけた僕は適当な相槌を打つ。


人影まばらな終電車に彼女の声が響く。

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