羽根
ひどく暑い日の午後、私はぶらりと街を歩いている。
汗で重くなったシャツをバタバタと扇いで、少しでも暑さを遠ざけようとした。
ふと視線を上げると、向こうからひとりの若い天使が近づいてくる。
めずらしいな、こんな田舎で天使を見かけるなんて。
私は考えた。最後に天使を見たのはいつだったろう。
まだ雪が降っていた頃だ。
ある街のタクシー乗り場で颯爽と車に乗りこむ後姿を見たのが最後だった。
そうすると、私はこの半年間天使を見ていないことになる。
そんなことを考えてるうちに、天使は私のすぐ手前にまで近づいていた。
すれ違いざま私は何よりもその美しい羽根に目を奪われた。
気が付くと私はもう彼女に声をかけていた。
「この辺りは初めてですか?」
彼女は振り向くと微笑した。
これはいける。そう思った私は夢中で彼女を口説いていた。
近くの喫茶店に誘うことになんとか成功し、話していくと彼女もまんざらではない様子だ。
そのうち彼女は自分から別の店に行こうと言い出した。
ちょっと落ち着いた雰囲気のバーに案内すると、彼女は私の作戦どおりにすぐに酔ってしまった。
わざと早いピッチでお酒を飲み、相手もそのペースに巻き込むいつものテクニックだ。
その結果、彼女をいとも簡単に私の部屋へと連れてくることができた。
彼女は思った以上に積極的で、自分から私を誘ってきた。
彼女の唇は今までに出会ったどんな天使よりも暖かく、不思議な感じがした。
私は彼女の美しい羽根が、服を通りぬける時のあの瞬間を見たかったのだが、彼女はちょっと待ってと私に背を向けると、バスルームに入っていった。
私は思わずその様子を覗いてしまった。
彼女はそこでネックレスをはずし、ピアスをはずし、そして最後にその美しい羽根をはずした。
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