がんばれ、スライム編

スライム、発つ

 わたしの名は、アレキサンドロス・ルキシアルウス・デミグロウス100世。長いのでアルと呼ばれている。ちなみにわたしは今、この世界で絶滅危惧種……いや、もはや絶滅寸前となったモンスター種、スライムである。


 スライムという種族について詳しく知るものは、ほとんどいない。いや、ほとんどというかほぼいないと思われる。われわれ含めて、その実態を知るものはいないのである。ゆえにこのような事態になってしまったわけでるが。

 わたしのように、言語を操り、思考する個体は稀の中の稀である。


 われわれスライムの寿命は短かったり長かったり、定まっているわけではないが……平均して10年ともいわれている。単細胞生物のように分裂をして個体を増やすものや、他の動物のように雄雌が交わり繁殖するものもいる。

 1000種類ほどのスライムが存在していたのだが、今は1種を残すのみとなった。

 要因はいくつかある。

 われわれを守護していたモンスター族がいなくなってしまったことや、われわれの根源である、通称『マスタースライム』が勇者によって倒されてしまったことなどもあるが……最大の要因は冒険者たちに狩られすぎてしまったことにあるだろう。


 われわれは次の代、子孫を残して種を存続させていくということに無頓着というかほとんど何も考えていない。加えて一部の種を除き弱い。初級冒険者たちのレベルアップのための糧となっていた。

 気づいた時にはもう手遅れ。

 冒険者ギルドがスライムを絶滅危惧種と認定し、狩ることを禁止した時にはもう絶滅寸前となっていたのである。

 そんな時である。わたしに『言語理解』というスキルが発現し、知力が高まったのは。


 わたしはスライムという種を救うための方法を探すことにした。古代の図書館、大賢者、龍族など様々な知識を頼ったが……われわれを救う手段を見つけることはできなかった。

 人間たちはすでに、人の手によるスライムの繁殖――交配も試みていたようだが、上手くいかず。今もなお研究は続いているが、われわれに残された時間はどうやら少ないようだ。直感的にというか、本能的なものとしてそう感じている。

 途方に暮れるわたしの前に、一人の冒険者が言った。

「未開のダンジョンなら、もしかしたらお前たちを救う、まだ誰も知らない手段が眠っているかもしれない」


 ――ダンジョン。

 

 闇の一族や『創造主』、古代人が作り出した、または自然が生み出した……迷宮や遺跡。モンスター種の巣であったり、突然何もなかったはずの場所に出現する塔や洞窟などなど。

 そこには誰も見たことのない宝やアイテムが生成されることもある。それらを求めて冒険者たちはダンジョンに挑んでいるという。


 わたしがあとどれだけ生きられるのかはわからないが、そう時間は残されていない。その時間の中で、種を救う方法を探し当てられる可能性は限りなく低い。だが、やらなければ確実に滅びるだけだ。


 わたしの足(というものはないのだが)は、自然と冒険者ギルドへと向かっていた。



 わたしの冒険が、始まる。

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