螺旋階段

螺旋階段を昇る彼女、ひたすら後を追う僕。


なぜこんなことになったのだろう。




今朝はいつもより早く目が覚めた。


というよりも、彼女との初めてのデートに興奮してまともに眠れなかったのだ。


レザーのセットアップに身を包み、いつもより丹念に髪形を整えると、僕は待ち合わせの場所へと向かった。


駅の改札を出ると、すぐに彼女が駆け寄ってきた。


ボルドー色のスーツがいつもより彼女をおとなっぽく見せ、僕は改めて彼女に魅かれた。


そしてふたりは映画館へと入っていく。




階段はどこまでも続く。


第一、なぜ彼女は僕から逃げるのだろう。


サイドゴアブーツの重さが運動不足の体にこたえる。




映画館を出たふたりは、レストランを探してしばらく歩いた。


そして、僕が何気なく後ろを振り向いたその時だった。


彼女は身を翻すと、人込みの中へと姿を消した。


慌てて後を追う僕。


そのうち彼女はひとつの建物へと入っていく。


そして、階段を昇り始めた。




そもそもこの逃走劇に終わりはあるのだろうか。


僕があきらめかけたその時、彼女は立ち止まり下を覗き込む。


僕は大声で叫ぶ。


「どうして君は逃げるんだ」


驚いた様子で彼女は僕に言った。


「あなたこそどうしたの、カメラは回っているのよ。」

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