人物・設定④

人類孵卵器インキュベーター―――資源が限られており、野放図な人口の爆発が慎まれるコロニーで、計画的に人類を“生産”すべく開発された。


 かなり精密なゲノム編集によって、能力が高く、美形なサピエンス型人類が作れるが、ある程度の多様性確保のため、遺伝子には意図的に“汚し”を入れ、少々の欠点を持った者が生まれてくる。


 その操作のせいで、基本的には善良なコロニアンの中に、


・立ってしたあと便座の蓋を下げない。

・たけのこの里を排斥するきのこの山狂信者。

・お酒の席で間髪入れず唐揚げにレモンを投入する。

・「お任せで」の一言を最後にすぐさま強烈なパーマをかけようとする床屋。


 などといった小悪党が一定数含まれるようになった。


 そして、最初の頃は普通にあった生殖機能がいつごろからかなくなり、インキュベーターなしでは立ち行かなくなってしまった。


 しかし、今は遠き星系外探索に消えたサビゾーの両親が、共に死ぬ一歩手前の人体改造手術を自らに施し、生存率百万分の一未満の確率に気合一発で賭けて受胎と分娩を果たした。


 生まれてきた男の子を、本人たちなりには愛していたが、ある日突然その息子が「オッスオラ宇宙のニンジャになる」などと言い出し修行の旅に出てしまったため、子育てをかたる各種人体実験は陽の目を浴びなかった。


 両親はその後、サビゾーが見習いニンジャとして太陽系をぐるっと一周している間に、またも気合一発、星系外開拓の片道旅行に出立したため、親子の間に別れの挨拶は無かったという。とはいえ、サビゾー本人は特に何とも思っていない様子。


 一説には、マッドな実験の産物として生まれたサビゾーの将来を慮って、帰り道の無い開拓民に立候補したのではと言われるが、


「あれらがそんな殊勝な心掛けで宇宙のふしぎ発見旅行に出発するわけがござらん。早めに自立したのでこれ幸いとウキウキで参加したに決まってるでござる」


 と、当の息子から全面否定を出されている。


 当小説でも、そのあたりの機敏が書かれることはない。何故なら、サビゾーの両親自身がそれを望んでいるからである。

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