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 一応、やれるだけはやった。むしろ国語以外の勉強量は高校に入ってから一番だったと思うし、苦手だった国語も友里恵の助言通り、慣れないなりに登場人物の気持ちになってやったつもりだ。結局はしっくりこなかったのだけど。


 そして模試の結果が返ってきた。


「えっ……」


 今回の模試の成績を見て、私は一瞬信じられない気持ちになる。


 特段成績が悪かったわけではない。元からそれなりの点数を取れていた上に自信があったので、今まで以上に点数を取れていたことは上出来だと思うし、志望校欄に何気なしに書いた難関大の判定も軒並み上がっていてこれも想定内だった。


 しかしそれ以上に頭にこびりついている箇所が一つ。


――学年順位、二位

――クラス内順位、二位

 「なんで?」と一瞬思った。あれだけ勉強して前以上の点数を取れたのに、また誰

かに負けた。そして負けた相手は誰かを私は知っている。


「栄子また一位なの?」


 後ろの方で声が聞こえた。また一人の女子を中心に群れが出来ている。


「すごくないよ。今回はほんとにやばかったんだから。これでもちょっと点数落ちてるし」


「それじゃ余計にすごいじゃん。模試の日、風邪引いてたんでしょ?」


 その言葉を聞いて私はとっさに後ろを振り向く。群れの中から見えた岸花栄子はマスクをしていた。模試が行われてからすでに二週間は経過している。なのにまだ風邪が治りきっていないということなのか。


「ほんとに死にそうなぐらいしんどかったんだから。模試のときも頭まともに回らなかったし」

「いやいや、じゃあなんでこんだけ点数取れてんですか。おかしいでしょ?」

「頭回らないなりになんとか頑張ったんだよ」

「……やっぱ超人だわ栄子」

「いや私普通の人間ですから」


 それ以降も後ろで何か話していたようだったが聞きたくなかったので机に突っ伏して成績表を見る。


 得点は悪くない。むしろ上がっている。そして岸花栄子は風邪を引いていた上に点数も下がったと言っていた。でも岸花栄子は一位を取っていた。


 また私は負けた。しかもこちらのコンディションは過去最高。そしてあちらは最悪。


 でも負けた。


 私は努力したはずだ。そして勉強は努力した分だけ返ってくるはずだ。実際に点数は上がっていて、今回の点数は過去最高だった。


 なのに私は岸花栄子に負けた。


――私は岸花栄子に勝てない?


 疑念が湧いた。今まで幾度も感じながら抑えつけていた疑問。しかしこれまで負け続けていた現実が走馬灯のように思い出され、それが確信へと変わっていく。


 私と岸花栄子には埋められない差がある。例え岸花栄子が風邪を引いていたというハンデがあっても、私は彼女を追い越すどころか追いつくこともできない。


 これから先のことを想像する。私はずっと彼女に負けるという事実を突きつけられるのか。その度に私は劣等感を感じ続けなければならないのか。


 私の胸に言いようのない感情が広がっていく。黒くどろりと粘ついた感情。底なし沼のように一度入り込んだら二度と這い上がれなくなるような情動。


 私は負けを認めてしまった。私の心は折れてしまった。


 私は初めて『挫折』した。 

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