鉄槌機神モーターメイス -碧瞳の復讐姫-

森河尚武

第1話 黒い巨人騎士




――敵襲警報サイレンがけたたましく鳴り響く。

近づく砲撃/爆発音。対帝国最大の前線基地は騒乱の渦中にある。

「なんでもいい! ありったけの地雷と砲弾を出せ!! 急げっ!」

「装薬はやくもってこいっ!」

甲高い騒音と重低音が響く基地の武器庫や弾薬庫の扉が大きく開かれ、あらゆるサイズの木箱が持ちだされては箱台車カーゴへ乱暴に積まれていき、満杯になったら魔動力車で引っ張っていく。

狂乱のように人員が走り回る古代遺跡を利用した格納庫コンクリートバンカー内でひときわ大きな甲高い音が轟く。

MMエムツー移動中!! MM移動中、道を開けろっ!!!』


誘導手が拡声器でがなり立てて、迎撃態勢の準備に駆け回る人員をどける。

甲高い駆動音を轟かせ、地響きとともに半壊した銀色の巨人が姿を現す。

――モーターメイス

それは魔導工学の申し子、全高16メートルを超える巨大人型兵器。

だが人類最大最強の兵器であるはずのそれの角ばった装甲には多数の傷、破損部分を応急処置で無理矢理固定されて、右椀部の手首から先は無くなり、代わりに小型の方形盾を強引に装着している。

『イーノウ、出撃する!!』

銀色の巨人は兵装輸送車から立ち上げられた巨大な杖棍を掴み、関節や各部から悲鳴のような不協和音をがなり立てながら、外に向かう。

『再出撃整備はまだかっ!!!』

「待ってくださいっ!!! 主炉回転数が安定しませんっ!!」

『かまわん、動けばいいっ!! 急いでくれ!!』

奥のスペースでは整備員たちが別の巨人に取りついて再出撃準備を総力で進めていた。


――この基地は今、全力で迎撃態勢に入っていた。

対帝国包囲前線でも最大の戦力を誇るこの基地に、突如帝国軍が攻撃を仕掛けてきたのだ。

人類最強兵器”モーターメイス”一個大隊二十七騎以上が駐屯するこの基地を強襲するなど、参謀本部は想定はすれども、あり得ないと考えていた。

だが現実は想定をはるかに超えた。

哨戒班からの報告により、緊急迎撃出動した一個小隊が接触後「敵は一騎のみっ!」という悲鳴のような報告を残して通信途絶。きな臭いものを感じた司令が稼働全騎による全力迎撃を下令。


――だれが想像しただろうか。

二十数騎以上のモーターメイスが、わずか十数分で撃破されるなどと。

魔導無線器から響く操騎士たちの断末魔の声に基地は混乱の渦と化した。

残存戦力がかき集められ、迎撃態勢を構築しつつ、後方要員を退避させていく。

けがの少ない撃破された操騎士が基地に駆け戻り、予備機を稼働させ始める。

モーターメイスも予備機や定期整備中のものすら使えれば良しとばかしに投入しようと整備員たちが駆けまわる。


そうして混雑を極めている格納庫の中を、黒髪の少年が駆けていく。


(だめだ―― 足りない、あれだけじゃ足りないっ!!!)


ぱぱらぱぱらぱぱらぱーっ!!!

「ばかやろうっ!! 前を横切るな! 轢くぞっ、ばかやろうっ!!!」

彼が横切ろうとした魔導動力車が、けたたましくラッパを鳴らしながら走り去る。後ろにはありたっけの武器が放り込まれた箱台車カーゴ

大口径砲の砲身だけでなく、対人用の旧式火縄銃まで積まれている。


そんなものがあれ・・に通用するはずがないというのに――


(もっと戦力が――必要なんだっ!!)

ごったがえす格納庫を人を掻き分け、ぶつかり、機材を避けて、それを目指す。


――格納庫の奥に鎮座している巨人へたどり着く。


整備中なのか、全ての装甲が取り外され、骨格だけの巨人。主炉を落とされており、今は静かに待機態勢正座になっている

整備服姿の彼は躊躇なくそれに取りつき、剥き出しの骨格に手足をかけてするすると昇って操縦槽に飛び込む。

整備用機材が乱雑に置かれた操縦槽内で次々にスイッチを入れていき、電源の入った拡声器で怒鳴る

『おやっさんっ!!! こいつに主炉稼働を入れてっ!!』

「坊主かっ!! ばかやろうっ! そいつはまだ一次装甲もつけてねぇぞっ!! 降りろっ!!!」

声に気が付いたおやっさん整備班長が見上げて、怒鳴り返す。

『そんなこと云ってるじゃないでしょっ!! 今動かさないで、いつ役に立つっていうんですか!!』

騎体各部の情報端子センサ状態表示ステータスランプ板は赤ランプで真っ赤、まともに動くのも難しい状態。だが、そんなのは手動で補正すればいい。自分ならそれが出来る。

「判ってんのかっ!! 槽前装甲ハッチもないんだ、破片一つ飛び込んでくりゃ死ぬぞっ!」

『判ってます!! それでも囮くらいできますっ!! お願いしますっ!!』

一騎でも多く戦場に――。必死になって頼み込む。

班長は盛大に顔をしかめ――怒鳴った。


スゴー副班長っ!! こいつも主炉起動準備だっ!!! 急げ、もたもたすんなっ!!!」

「了解っ!!! 三号発電車こっちに回せ―!!!!電纜、墳進雷管準備急げっ! 」

手が空いた整備班員が取り掛かり、起動用発電車を押し転がしてきて、電纜を接続していく。鍋で煮えたぎった潤滑油を手早く補機に流し込んでいく。

「関節部の点検!! 消耗品量チェック急げっ!!!」

整備員たちが慣れた手つきで貯蔵缶ドラム缶から手押しポンプで衝撃緩衝剤や冷却材、油脂を注入していく。

「おやっさんっ! 一〇三号機の主炉起動準備完了しましたぁっ!」

接続点呼を終えて、副班長が報告すると間髪入れずにおやっさんが怒鳴る。

「よし、主炉起動手順はじめろぉっ!!」

「主炉起動手順を開始する!! 電纜接続確認っ!!」「発動機車、よし!!」「中継器、よし!」「分離中継器、よし!!」

「補機回せーーー!」

慣性はずみ車フライホイールを徐々に回し始める。

慣性がついた弾み車がうなりをあげ始め

「電圧規定値内……いけますっ!」

「接続いけっ!!」「接続っ!!」同時に弾み車と内燃機関の接続コマクラッチを絶妙なタイミングでつなぐ。

ドゥッ、。バルルルンッ!!、

重々しい爆発音ひとつ。こかんこんきんと甲高いシリンダ―音を響かせ、直結排気管からぱんぱんぱんっ!とマフラーから黒煙を吐き出しながら内燃機関が始動。

発掘された超古代遺物の一つ。 V型8気筒32バルブが甲高いカム音を響かせながら回転数を上げ始める。

機関担当員が慎重かつ大胆に回転数を上げ始める。熱した潤滑油を入れたとはいえ、冷えた内燃機関を無理に動かせば焼き付く。

油圧・温度・機関から発される熱量を肌で感じ取り、調子に合わせて回転数を調整。そして「――回転数上昇いきますっ!!!!」スロットル弁を大胆に開放する。

爆発するように黒煙を上げて吹き上がるエンジン。

「五千五百……六千!」ガキィンと甲高い音を立ててバルブ・カムが切り替わる。

高速回転モードに入ったその音を聞き、スロットルバルブを全開に。

発掘エンジンが震える。気化器とカムとシリンダーヘッドが奏でる軽快にして重厚なエンジンサウンドとともに更なる高回転領域へ――

「一万二千!!!!――」

「二次フライホイール繋げっ!!」「二次フライホイール接続っ!!」

防炎服を着た男が操作ハンドルをぐるぐる回して大型接続コマを接触させる。

不快な金属擦過音、クラッチ板から白煙発火しながら巨大なフライホイールをうぉんうぉんと回しはじめる。

「フライホイール回転数!!」「三百……四百……六百……六百六十…規定数超過っ!!!!」

「ナァカムチャンバー準備――」『ナァカムチャンバー準備――』

副班長のかけ声に、操縦槽の少年騎士も丹田で練っていた魔力を回路に一気に流し込む。「ぐぅううううっ!!!」

気合とは裏腹に両手両足の感覚が冷たく/自らが希薄になっていく――


励起イグナイト!!」

「点火ーーーーっ!!」

耐衝撃装甲服を着た整備員が咆哮をあげて大ハンマーを振り下ろす!

がぎぃんと甲高い音をたてて、ぶったかかれる大型雷管。

数百万ボルトの瞬間起電力が墳進回転子ロケットホイールを一斉に点火、盛大な火焔を引きながら膨大な慣性回転を拡散ターボポンプに叩き込む。

少年の流した魔力に反応して解れた圧縮魔力ナァカム・マキア燃料が初期加速開始、キャパシターへとたたきつけられて、連鎖励起イグニッション

チャンバー内で急激に高まった高圧高濃度魔力が主炉の三連ローターへ叩き込まれ魔力回路ナァカムマキア・コントラ・パタルを刻まれたローターを超高速回転させる。

低いうなりをあげて震える主炉。高回転する魔力回路によりただ一つの魔術が超々多重起動、そして――


ビイイイイイイイイイイッ

突如ブザーが鳴り響く。

『あがぁああああああっ!!!!!!!』黒髪の少年騎士が絶叫をあげて躁縦槽内でのたうち回る。流し込んだ魔力が逆流してきたのだ。

くるくると回る警告灯。

「炉心規定回転数に達しませんっ!!」「ピークパワーが届いていませんっ!!」「ランダムスレートが不規則開放してます!! チャンバー内圧力低下!!」「だめです、循環ゲートバルブが開きませんっ!!」

次々に報告が悲鳴のようにあがる。

「起動失敗かっ!! こんな時にっ!!!」

「慌てんじゃねぇ! 積層素子キャパシターを換えてもう一度だっ!!」

腕組みしたままの班長が怒鳴る。補機不安定で起動失敗など、よくあることであり、まだ焦る段階ではない。「素子交換だ、ぼやぼやするなっ!!」

整備員が電源アーペーユー車に剥き出しで搭載された大鍋形状の積層素子容器を掴む革手袋から白煙が上がる。膨大な熱を持っているのだ。

「ぬぉおおおっ!!!」

整備員はかまわず引っこ抜き、別の整備員が新しい積層素子をがこんと取り付け、墳進雷管や圧縮魔力槽が手早く交換される。

「もう一度だ、行けるか、坊主っ!!」

『い゛、げま゛ず゛っ!!!』

班長の問いかけに拭う口から胃液の糸を引きながら、彼はそれでも続行を望む。

「――はじめろぉっ!」

ぶぉおおおおっ!!!

再びV8サウンドが大きく轟く。直管マフラーからサイクロンのように排気煙を噴く古代の傑作エンジンがカムがガキンと切り替わり天井知らずに吹き上がる。

「ナァカムチャンバー励起イグナイト!!」

「点火っ!!」『うごけぇええええtぅ!!!!』

フライホイールの接続独楽クラッチが火焔を噴き上げ、その運動量が主炉を目覚めさせる。

爆発にも似た起動音がこだまし、徐々に高周波音にシフトしていく主炉駆動音

「魔力転換炉起動成功!!!」

「よし坊主っ!! 関節起動点検だ、落ち着いて急げっ!!」

『はい゛っ!!』

状況表示盤を読み取り、不具合のある箇所を予備回路へ切替えたり、バイパス回路に変えて使用可能な範囲にもっていく。

「関節部、一部不具合有れど、よし! 映像器は接続できず遮断、各部感触器センサの八割が不良、バイパス回路形成、左腕動作、いきます!!」


操縦棹スティックの動きに併せて滑らかに動く巨大な左腕と右腕


「入力/出力比数修正、平衡感覚器オートバランサー補正」


次々に出撃前動作チェックリストをこなしていく。


『有視界戦闘可能!! 行けます、出撃できます!!』

「よぉーし、やろうども、出撃準備っ!!!」

「了解!!!」


騎体の胴体に繋がれていた吊索が外され、完全に自立する。

整備員たちが取りついていた整備台車や梯子を外し、脇に退避する。

骨格だけの巨人が立ちあがる。

おやっさんが親指をびっとあげ、大きく出口へ振りかぶった

「坊主、いって来い!! 必ず帰って来いっ!!!」

『いきま――』

出撃の掛け声をあげようとした瞬間


巨大な影が彼の眼前を一瞬で横切った。

爆発じみた破砕音とともに飛び込んできたそれは、格納庫内部を薙ぎ払って盛大な音を立てて隔壁に激突。

何もない、目の前の床。いや、いくつもの赤黒い線模様

「おや、っさん……?」

眼前で起きた惨劇に少年は放心したようにつぶやく。

低い重低音を伴う主炉音が、何もなくなった床に反響している。

彼は見えていた。飛び込んできたひしゃげた巨人の上半身が、機材を人員を副班長を班長を轢き潰していったのを。


いつのまにか砲撃音が途絶えていた。耳に響くのは己の騎体の動作音。だが彼はなにも聞こえていなかった。


壁際にある巨人の胴体/残骸。

周囲には電源車や工具や部材や千切れた腕や足が乱雑に転がっている。

彼の騎体とは、別の動力音と地響きが外から響く。巨大な物体が近づいてきている。


巨大な人影が半壊した格納庫入口に現われる。


巨人の頭部を掴んだ、巨大な黒の甲冑騎士

「黒いモーター迫撃メイス《騎士》……っ!!!!」


――それは、戦場を支配する人類最強兵器。


かの黒騎士の胸部に立つ、金髪の首輪少女を彼の眼は捉えていた。

身体にフィットしたネイキッドスタイルの魔伝導衣服ハイレグスーツ

頭部には長いセンサーアンテナが二つついたヘッドセットバニーイヤー・ヘッドセット

そして、ごつい革首輪に付けられた囚人鑑札

無表情な金髪の少女が腕を無造作に振った。

黒の巨人が遅延なく追従、掴んでいた白銀の頭部を放り投げる。

壁に激突し、轟音を上げながら鉄骨をひしゃげて地に落ちた。


彼女は周囲を見回して――一瞬だけ止まる/彼と目が合う。

蒼碧の瞳と黒瞳が交差し――彼女は目をそらして・・・・・・地上を見下ろす。


物陰に隠れ、火器を構えた何十人もの兵士たち。

「撃てぇっ!!!」

指揮官の号令一下、激しい銃撃が金髪の少女へ。いくつもの火花が装甲に咲く。

だが、金髪の少女は微動だにせず腰に佩いた双刀に手を置いたまま平然と立ち――

『クスクスクス……』幼い少女のような声の嘲笑が戦場に響く。

同時に黒い巨人の肩部装甲がスライドし、平たい宝玉多収束光学レンズが露出。空中に浮かび上がる古代文字ジュネーブ4協定に魔法陣基づく警告表示


キィイイイイイインン――


高周波音と共に射出される幾条もの緋色の光線レーザー。雨のごとく濃密なそれらは、包囲している兵士たちを無慈悲に正確に撃ち抜いて一瞬で絶命させる。

「ぉおおおっ!!!」

斉射を生き残った男が腰の手りゅう弾のピンを引き抜き、巨人の胸部に立つ少女に向かって投げつけようと腕を振り上げた瞬間、額を撃ち抜かれて絶命する。崩れ落ちる彼の、その手からこぼれた手りゅう弾が虚しく爆発する。

「しねぇぇえええええっ!!!」

別の勇敢な男が巨人の背後に躍り出て肩に担いだロケットランチャーをぶっ放す。

黒の巨人は振り向くこともなく、背面から射出された光線がロケットごと割断。悲鳴をあげる間もなく絶命し、ロケットが爆発四散する。


『きゃはっ♪』


黒騎士は仁王立ちしたまま、等位相光線を乱射して地表を、兵士たちを薙ぎ払う。何の容赦も躊躇もない虐殺。遥か頭上から雨のごとく降り注ぐ光の槍衾で瞬く間に殲滅されていく。


『きゃはははははっ♪』


嗤いながら虐殺を続ける黒騎士ラフィング・デーモン。金髪の首輪少女は無表情のまま、踊るように剣をふり、舞うように魔導兵装の光で薙ぎ払う

ただ死んで/壊され/灼かれていく仲間たち。



「――黒騎士ぃいいいいいいっ!!!!」

少年は絶叫とともに踏み込む

迫撃騎士が跳ね飛ぶように加速ダッシュ。黒騎士へ飛びかかり――






























「彼がそうなのかな?」

「はい、唯一の生存者サバイバーです」

だらしない白衣を着た痩身の男性に女性看護士が痛ましそうに応える。

窓の向こう側の部屋には、手足を拘束された少年がベッドの上に。

頬はこけ、白髪の混じるの前髪に隠された目線。

口元はぶつぶつとなにごとかつぶやいている。


「ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる」


「食事もろくに摂らず、強引に流動食を流し込むことでかろうじて生きています。ああやって日がな一日つぶやくだけで……よっぽどの地獄を見たのでしょう」

「壊滅した第三方面軍本部の唯一の生き残り。仲間が全て皆殺し、か……ふむ……」

男は手にした資料を眺めながら何の感慨もなさそうにつぶやく。

「使いものに……なる……か……?」




少年は虚空を見つめながらぶつぶつとつぶやく。

「ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる」

「ふむ、何を殺してやるのかな?」

いつの間にか彼の傍らに立っていた白衣の痩身男――博士ドクトルが問う。

「決まってる。あいつ――あの黒い騎士」前髪の下かららんらんとぎらつく黒瞳

「それは、あの黒いモーターメイスの少女かな?」


みぢぃいいいっ!!!!

拘束ベルトが悲鳴をあげる。見習いといえども操騎士、その筋力は一般人の比ではない。

「そうだ!!!! あいつは――みんな殺したんだっ!!!! 笑いながらっ!!」

彼は脳裏によみがえった光景に絶叫する。


吹き飛ぶ手足/吹っ飛びひしゃげる機材、スパークする発電車/床にひかれるいくつもの紅い筋、揮われた巨剣の豪風/圧潰していく格納庫、爆発する燃料、燃え盛る基地/『くふふふふ、きゃははっはっ♪』黒騎士から発されるくぐもった嗤い声がこだまする。――無感情な蒼碧色の瞳が見やるものが壊されていく。


先輩操騎士、整備士、おやっさん……誰一人生き残らなかった――俺だけ見逃された。

なんのため? ――決まっている。

惨劇の目撃者を一人は残す。力と恐怖を見せつけ広める、それが奴ら――帝国治安維持管理局のやり方


全滅させては、惨劇が伝わらないから。流れる血と恐怖を見せつけて支配するのが奴らの手段――

「俺にもっと力があればっ!! みんなを殺させなかったっ!」

何も出来なかった。時間稼ぎすら。

ただの一刀で両断され、宙に浮かぶ上半身を蹴りとばされ、激突の衝撃でMMの骨格が潰されて気を失った。

憶えているのは、感情一つ浮かんでいない紅い瞳の少女。


力を。もっと力をっ!!!!

あいつを殺せる力を――!!!!!!


「そうか。力が欲しいか」

「欲しい――」 ――あの黒騎士を殺せる力がっ!!それは、魂からの慟哭。血涙を流しながら彼は欲す。


「ならば、問おう――少年よ」

博士が、口元を三日月のように哂いながら告げる。

「キミは命を、すべてを捧げる覚悟はあるかね?」


腕を大きく振って広げて。


「あの管理局帝国治安維持最強戦力! 不遜にも迫撃の神モーターゴッドを名乗るあれ・・を倒せる力!」


痩身の男は、瞳に狂気を宿して告げる


「 あるというのならば――与えようっ!! 我が最新作にして究極の、最高にして最強の傑作!! ”モーターメイス”を超えた”モーターメイス”っ!」


がしっと彼の頭をわしづかみ覗き込む。狂気を孕んだ紫の眼が爛々と射抜く。


「最新最高の力と恐怖! 史上最強のモーターメイスをっ!!! 」



ギシリと彼の頭蓋骨が軋む。


「騎士オスカー・ミッドラント!!! キミは、そのすべてを捧げるかねっ!?」









――その日


彼は悪魔と契約した。








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