第12話
【才能なんて必要ない!】
十二話
彼女が俺を想ってくれていることは素直に嬉しいしあの言葉に嘘はない。だが、俺は誰が好きなんだろうか?
仮に誰かが好きだとして彼女のように本気で好きって言えるのか?間違いなく彼女の言葉は本物で本気だった。
それを俺がこんな半端な気持ちであいつの気持ちに答えていいのか?
「……子供の頃ならもっと簡単だったはずなのにな」
俺は一体どうすればいいんだろう?
別にあいつのことは嫌いじゃない。昔のままの感情でいえば多分好きなのだろう。だけど、今はどうなのだ?
昔のことは一旦置いておいて今だ。現在はどうなんだ?好きなのか?
考えれば考えるほど闇の中に答えが埋もれていく。分からなくなる。
そして、いつの間にか日が昇っていた。
海行ってかなり疲れていたはずなのに、全く寝てねえ……
「今からでも寝るか」
布団に入った後でも頭から離れない。が、次第に疲労からか意識を手放していった。
昼頃に俺は目を覚まし、朝飯にしては遅すぎる昼飯を作って特に何も考えずに口に運ぶと魚が甘い。
「うわ……塩と砂糖間違えて魚焼いちまった……じゃ、卵焼きもか?」
ひと口食べてみるとやっぱり甘かった。くそ!俺は塩味が好きなのに。
好き……そんな言葉思い出さなければよかった。
そんな時、寮のチャイムが鳴った。
「ん?誰だ?」
ドアの前まで行き、スコープを覗いてみるとイケメンが立っていた。
「ん?どうしたよ?」
ドアから出てそう聞くと「ちょっと話聞いてくれよ〜」と、家の中に無断で入ってきた。
「全く……なんだよ?」
「俺さ、やっぱり小桜ちゃんこと好きだ!」
人の部屋に入ってきて一言目にそれだ。本当にイケメンってこと以外は低スペック過ぎる。
「なぁ、その好きってさなんで好きなんだ?」
「え?理由?……そう言えば考えたこと無かったな……」
少し考えるような素振りを見せたあと、相川はそう言った。
「考えたことない……?」
「そうなんだよ……今考えてみても不思議でさ。こう、好きなんだよねー」
「理由はないの?」
「好きなんだから理由なんてないんじゃない?」
「俺が聞いてるんだっての……まあ、でも、よくわかったよ」
「え?いや違うから!俺が相談に来たんだよ!俺まじどうしよ!告白しようかなって思ってるんだけどさ!」
あわあわと人の部屋をうろちょろしながら叫ぶ。
「え?小桜に?」
「それ以外ないっしょ!」
「そうかよ。じゃ、頑張りな」
「ん?なんで俺を追い出そうとしてるの?」
「正直めんどくさいから」
外に奴を突き出しドアを閉めようとするが、足が閉める寸前に飛び込んできて閉まらなかった。
「た、助けてくれよまつえもん!」
「俺は秘密道具でもたぬきロボットでもねえ」
「そこをなんとか!お願いしますよ!」
頭を粛々と下げる奴に俺は負けた。
「……はぁ……しゃーねえな」
「本当に!?」
「まあ、付き合いも長いしな。ただし、この貸しはでかいぜ?」
「はい!松岡様!ありがとうございます!」
しつこいので仕方なく、渋々と請け負ってやることになった。
「話は聞かせてもらったよ!」
急に上の方から声がし、天井を見上げると銀色の綺麗な髪に燃えるような双眸がこちらを捉えていた。
「校長……?」
「だめ!梨乃って呼んで?」
「はぁ……何言ってるんですか?というか、なんで蜘蛛みたいなことやってるんです?」
「雲母だけに?」
うわっうっぜぇ……なんだこのノリは……感じだけだし読み方きららだしなんにも韻踏んでないのになぜあんなにドヤ顔ができんだろ?
「校長先生ですか!?すげえ……間近で初めて見た……」
「君は相川裕二くんだね!」
「えー!?なんで知ってるんですか!?」
「我が校の生徒の顔と名前は頭に入ってるよ!」
自慢げに校長は無い胸を張った。
「相川くん!君の恋路応援しちゃうから!」
そう言って相川が喜んでいる間に俺に耳打ちで「相川くんに小桜ちゃんとられちゃったら君は私のものだね!」なんて、嬉々とした声を上げて言う。
校長なら本当にやりかねない。あの人のとんでもない才能からしたら、俺を監禁するのだって余裕だろうしな。
最近までは全く持って気にしたことも興味もなかったあれか?女子から急激にモテてしまうという幸せな年。通称、モテ期ってやつなのか?
「都市伝説だとしか思ってなかったのに本当に実在するとは……」
「ん?なんだ?ツチノコでも見つけたか?」
「寮にそんなもんいてたまるかよ。それより相川もう今日告白するのか?」
「いや、でももう決めてるんだ!見てくれよこれ!」
そう言って取り出したのはピンク色の本だった。色んなところに付箋がまばらに貼られていて表紙には『男子必見!女子の喜ぶデートプラン!』と、書いてあった。
「うわ……胡散臭……」
「う、うるさいなぁ……女の人の意見も貰えるっぽいしどうですかね?」
相川は俺に恥ずかしがるようにそう言って先生にそれを渡した。
「うーん。まあ、悪くは無いけどこんなコースで雰囲気出るの?落ち着いた場所ばかりだけど。最近ちょっとストー……んんっ!君らのことを観察してたんだけどね?小桜ちゃんとまともに話せる?」
今絶対にストーカーしてるとか言いかけましたよね?と、目で訴えてみると先生に睨み返され一蹴された。
「そう……ですね。もっと話しやすいところがいいのかもしれないです……」
「そうだな。お前はもっと小桜に慣れろ。まあ、まだ夏休みだし遊園地にでも行くか?」
「おお!私も行っていい?」
「なんで先生がついてくるんですか……ダメに決まってるでしょ。それにもう話はとりあえず済んだので早く去ってください。どうせ呼んだら来るんでしょ?」
「まーあね!じゃ、私は一旦家に帰るよ!またね!」
そう言って先生は消えた。言葉通りに目の前から消えたのだ。
「……凄いな。流石校長先生だ」
「まあ、確かにすごいな」
「……ありがとな。次は頑張ってみるよ」
「はいはい。早く帰った帰った」
早く奴を帰して俺は白銀に電話をかけた。
「……しもしも?」
「男女共有スペースの中庭まで来てくれ。話がある」
「りょー!」
俺は電話を切ると指定した場所まで向かった。
もう、全部決めたし悔いはない。俺は彼女のことが__
「んで!ファイナルアンサー?」
声音からは全く伝わってこなかった緊張感が、ビリビリと伝わってくる。多分、俺も彼女のように顔が赤くなってるのだろう。
「__好きだ」
ほとんどあの時決まっていたが、まだ少しの迷いが俺の心にはあった。だが、もうそれはない。
人を好きになるのに理由なんていらないし、この心もきっと本物で本気なんだ。昔から一日たりとも忘れたことがない。それだけで理由としては充分ではないか。
「え、え!?マジ!?」
「……ま、お前はそそっかしいしな。一人にしておけねえんだよ」
「なんよそりゃ……」
彼女と顔を合わせ、ぷっ。と、笑顔が弾ける。
「……改めて宜しくな。白銀」
そう言うとジト目で睨まれた。
「……ちゃう。みこと!」
「……み、みこと?」
「んだ!あーしからもよしなに!」
彼女はそういうと瞳に溜まった涙を弾けさせながら、にこやかに笑った。
「あ。そういえばみことに頼みがあるんだけどさ?」
「ん?なに?」
それから三日後、俺らは遊園地へと足を運んだ。
白銀と視線を交わし頷いた。
「じゃ、俺らはジェットコースターの方行くから!」
「ばいちゃーん!」
入場を済ますと俺らはそこから全速力で逃げた。
「はぁはぁ……逃げたか?」
「ノープログレム!」
「……そうみたいだな」
「んなことより……いこ!」
白銀はそう言うと俺の腕と腕を絡まして、そう言った。
そういえばそんな関係になったんだったな。俺らって。
恥ずかしいけれど悪くない。リア充ってこんな感じなのか。本当に死ねばいいと心の底から思いました。まる。
「で?何処へ?」
「うーん……お前はどこ行きたい?」
「あーしはね!あれ!」
そう言って指さしたのはこの遊園地で人気のある真っ暗のコースを走り回るジェットコースターだ。
まあ、もう高校生だしな。そこまで怖くないよな。
「そうだな……行くか」
「ん!」
本当なら相川のあとを付けてどうなっていくのかを観察しててもいいのだが、折角の遊園地だ。出来たての彼女を連れてきてまであいつに構ってやる筋合いはない。
俺も男だしここでちょっとくらいはカッコつけたいんだ!
朝一番だからかいつも何時間もかかる待ち時間をかなり短縮して順番が回ってきた。
怖い。そんな感情を押し殺して俺はそのマシーンに乗ると、ガチャンと安全装置が腰周りをがっちりと捉え、それは動き始めた。
「ねね!楽しみだね!」
なんでこいつはこんなに楽しそうなんだ?訳がわからねえ。一歩間違えたら死ぬぞこれ。
「そうだな……」
よくわからない暗がりを登ってくマシーンの上で、なんとか声を押し出し強がってみるが、もう泣きそうだ。本当に怖い。死ぬ……って、俺死ねるんだったな。
少し気分が軽くなったところでそれは急激に落ちた。
呼吸をすることですらやめ、ひたすらに前の安全バーに必死に捕まる。
死んじまう!ほんとに死んじまうって!
だが、横からはきゃー!とかふぅー!とか意味のわからない声を上げる馬鹿。俺もさすがにここまで馬鹿だとは思わなかった。死にたいのかこいつは。
そのイカれた機械は幾千の修羅をくぐりぬけ、なんとか終わってくれた。
「ふぅ……」
「楽しかったー!」
「そ、そうだな……」
ま、白銀が楽しいならそれでいいか。
それからというもの白銀に引っ張られるかのようにずっとひたすら園内を回っていた。
本当にどうでもいいような時間なのに楽しい。俺もあいつと一緒にいて楽しいのだが、昔から全然変わらない。でも、あまりにも変わらないのだ。
「……これでいいのか?」
「ん?なんかトーク?」
「いや、なんにも」
そんなタイミングで携帯が鳴った。
「ちょっとごめん」
「あいよー」
携帯を取り出すと相川からだった。
「やべ。すっかり忘れてた……」
仕方なく通話ボタンに手をかける。
「おい!なにしてんだよ!」
「……なんだ?デート中に他のやつをお前は口説くのか?」
「だから!違うわ!俺にアドバイスとかないの?」
「そういうのは先生に任せ……」
そこまで言うと俺の携帯が奪い取られた。
「呼ばれて飛びててジャジャジャジャーン!はーい!雲母だよ!」
「校長先生!」
「……じゃ、頼みます。先生」
「じゃ、先生と交換条件!別にいいよね?」
「どうせ断っても無理なんですよね?」
「あっははー!ご明察!じゃ、雲母ちゃんいっきまーす!」
そう言って先生は嵐のように現れ、嵐のように去っていった。
敵わないものには従順であるべきだ。もうあんなに痛い思いはしたくないしな。
さっきまでいた場所まで戻ると白銀がこちらに走ってきた。
「ネクストいこ!」
彼女に腕を掴まれて回る。さすがに結構疲れてきたが、彼女はそんな素振りも見せない。
「なぁ、そろそろお腹減ったろ?」
「あー!」
そう言って彼女は立ち止まった。
「どうしたよ?」
「んだった!」
……俺もここまで自分の彼女が馬鹿だとは思わなかった。まさか自分がお腹減ってることにすら気がついてないとは……
「何食べたい?」
「うーん……ハンバーガーでいいよ!すぐそこだし!」
即決され、流れるように店内に入るとここのキャラクターなのか半分真っ黒でもう半分が真っ白の猫みたいなのが至るところにいる。
「わぁ!キュート!ミーキャだ!」
「ミーキャ?」
「え!?ここのマスコットキャラクターなんよ!」
そう言われると、確かにこの遊園地にこんなキャラクターがよく出てきていたような気がする。
「そうなのか」
「んだよ!」
席に案内されて腰を下ろすとメニューを眺める。
ミーキャ風ハンバーガーやらシャーチャ特製オニオンスープなど色んなものがあり、メニューに載ってる写真を見るに最近の言葉を用いるとインスタ映えしそうなものばかりだ。
「キュート……」
メニューを見ているだけで俺の正面に座る彼女は幸せそうだ。
俺には何がいいのかさっぱりわからねえけどな。
俺は一番上にあったおそらくおすすめであろうミーキャっと。というセット。彼女はメニューとにらめっこしひたすら考え、導き出した答えはミーキャ風ハンバーガーだった。
まあ、この中だと一番女の子受けしそうな気はする。俺にはよくわからないけど。
それから暫くして頼んだものがやってきた。
白銀はキャーキャーいいながら写真を撮って喜んでる。
「宜しければ一緒に写真撮りましょうか?」
店員がいらない気を回してそんなことを口走った。
「おなしゃーす!」
まあ、俺には関係ないな。
箸を手に取り料理に手を伸ばすと、ムスッとした顔で白銀に睨まれたかと思ったら、身を乗り出して俺の手を取ってカメラの前に引きずり出された。
「一緒に!」
「俺写真嫌いなんだよ……」
「いーのいーの!」
笑顔を向けられるとなんか反抗できない。これだから女子はずるい。
「はいチーズ」
カシャッとシャッターを切られ、撮られてしまった。
「んじゃ、いただきます」
「これいーとか……(これ、食べるのか)」
箸を入れようとしているが、躊躇っている。
「まあ、わからんでもないな」
ここまで精巧に作られてると崩すのがもったいない。まあ、食べてしまえば美味いし値が張るのも頷けるのだがね。
四苦八苦し、やっと彼女は箸を入れた。そして、何度もミーキャごめんね……ごめんね……と、泣いて謝っていた。
「ほらよ……涙拭いて食べろよ」
ポケットに忍ばせておいたハンカチを渡してやると、彼女は目の下あたりに当てた。
全く世話が焼ける。でも、そんなところが可愛いのかもしれないな。
「あんね!まーくん……」
「……あ、あぁ。ん?どうした?」
「……いんや!やっぱなんでもない!」
「なんだそれ……」
彼女は笑顔を浮かべ、なんだかその無邪気な笑顔が誰かと重なった。
そう思った瞬間に、脳裏に笑顔の可愛い女の子がフラッシュバックのように蘇ってきた。
「杏子……?」
そんな名前も口から飛び出てきた。
「杏子ちゃん?あー!まーくんの妹さんね!元気してる?」
「……なに?」
「え?杏子ってまーくんのシスターでしょ?」
白銀がなにをいってるのかいまいち理解できなかった。
「妹?」
「いえーす!シスター!」
……それはおかしい。俺は一人っ子だったはずだ。
急に頭が裂けるように痛くなり、その場に倒れ込んだ。
「う、うぅ……」
ゆっくりと目を開くと、忘れもしないあの事故の日の光景が目に飛び込んできた。トラックの下に下敷きになって原型を留めていない子供が夕日に晒されていた。そして、もう一人大怪我ではあったがその子供よりかは軽傷の男の子がその場にはいた。
「あれは……俺?」
じゃ、もう一つのあの原型も留めてないあれは誰だ?
……いや、俺は知ってる。俺はあの日、死ぬまで泣いていたんだ。
だから、俺の死因はトラックに引かれたためではない。
俺はその人が死んだから泣き死んだんだ。
……だが、思い出せない。それ以上先が全く。なにかモヤがかかってるみたいで気持ちが悪い。
「……くん……まーくん!」
そんな声に俺は起こされ、目を覚ました。
「みこと……か」
「んだ!ワッツアップ!急にグロッキーなんて!」
「あ、あぁ……大丈夫。ところでここは?」
「ホスピタル!」
「病院か……」
周りを見渡すと確かに白い病室らしき場所に夕日が差し込んで綺麗に見えたのだが、なぜか涙が溢れてきた。
あの日のような綺麗な夕日。
「え?ど、どったの?」
「い、いや……なんでだろうな?」
「おにーちゃん!」
そんな時、横の病室だろうか?そんな声がこっちの病室まで響いてきた。
「……お兄ちゃん?」
俺もそんな呼ばれ方をしていたような気がする。
そして、不意にポツリと瞳から涙が溢れた。
「え?ど、どったの?」
「あ、あぁ……ごめん。それより先生呼んでくれないか?多分、大丈夫だし」
「りょー!」
それから先生がやってきて、軽い検査をされてから一応一日だけ検査結果を待つ期間として入院させられた。
そして、一日が過ぎて検査には何も問題がなく退院となった。
その間、ずっとあのフラッシュバックで蘇った少女について考えてみたが、さっぱりわからなかった。
一応、俺には両親がいる。だが、あんな奴らとは話したくなんかない。
理由は……なんだったっけ?なんで俺はあんなに親を拒絶していたんだっけ?
でも、俺はあんな奴らは親だとは思わないし、喋ってやる気にもならない。
なんでだろう……?こんなにムカついてるのに訳が分からない。
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