第8話
【才能なんて必要ない!】
八話
はっきり言おう。本当に見覚えがない。というか、今更ガングロ系ギャルなんて……俺の頭がいくら悪いとはいえ、流石にこんなに破壊力のあるやつを忘れてるわけもないし……
「あー、忘れちゃった?それまじチョベリバって感じー?」
「何語なんだよ!」
そんなツッコミをした時、妙な既視感を覚える。
「ベリベリぃ?」
「チョリベリィー?」
「おっ?メモリーリカバリーじんぐぅ?」
「チョリベリビリィ……だったか?」
「そう!それそれ!」
そのガングロ系の長いネイルをはやした彼女はそう言ってにこやかに笑った。
スラリとした綺麗なスタイルから見て絶対元は美人であろうが、黒くなっててそこまで中身はわからない。いや、着飾ってるだけなのかもしれないし最近の化粧はまじ人変えるしな……
「チョベリバでチマリコだしちょっとスクリームする?」
これらはもう覚える必要も無いような意味不明な言葉だということだけ捉えてくればいい。俺だってこいつが何を言ってんのかさっぱりだけど、なんとなく分かる。こればかりは説明しろと言われてもわからん。なんか、わかるのだ。
だから、一応説明しておくと「久しぶりだし暇だからそっちでアイスでも食べない?」的な意味だ。
これで誰かと会話できているとするならば、この世界は終わってると思う。あれで通じるならば言葉なんていらねえ。単語なんて要らねえ。意味もいらねえ。全て無に帰ればいい。
「松岡ー?リシカイック?(聞いてるの?)」
「……あー。いいよ。わかった」
こんななりだが悪いやつじゃない。なぜ知ってるのか?こいつは俺の幼馴染みだ。相川もそうだが、相川はこいつのことを知らないだろう。まあ、俺の知ってる頃のこいつはこんなガングロ系ギャルではなかったけど。
「あー!あーし!なうドルナッティング!」
丁度、アイスクリーム屋に着いた時、彼女は片手でごめんという手話らしきことをしながら、申し訳なさそうな顔をし言った。
おっ。これは比較的わかりやすい文例だ。英語で言う中学校一年くらいで出てくるような簡単な文。私今お金ない。という意味になる。
「しゃーねえな。なにがいい?」
「チョベリバ……ストッローかにぁ?」
「苺な。わかった。じゃ、苺とバニラください」
店員さんに不審な顔をされたが、こいつと付き合う以上それは避けられん。子供の頃からの付き合いだから慣れてるし別にいいけど。
お金を払って物を受け取ると、近くのベンチに座る。
「ほれよ」
「ありえってぃ……(ありがとう)」
顔を赤くして小声で彼女はそう言った。その顔でそう言われてもドキッとしない。
元々はこんな金髪じゃなく黒髪で綺麗なストレートだったのに!恥ずかしがり屋の女の子だったのに!なぜあーなったよ……
昔はこいつが好きだった……と思う。まだあの頃は好きとか嫌いとかそういうの分からなかったけど、多分俺はこいつが好きだった。でも、今のこいつには靡かねえ。
「ね、松岡……あーし、きゃわきゃわ?」
「……私、かわいい?」
な、なぜ、そんなことを聞いてくるんだ?
「……ね、どなの?」
「ど、どうって……」
難しい質問だ。あの声音からしても本気。ここでの選択はミスれねえな。
ここで嘘をつくのはバットだろう。なら、本当のことを言うか?いや、それも違う気がする。
「……どうだろうな?人それぞれじゃないか?」
そう答えると彼女はむぅっと頬を膨らませた。
「あーしは松岡のハートをアンダスタディンドン!」
彼女の瞳が俺のことを真っ直ぐ捉える。でも、彼女の瞳は濡れていた。
「俺は……そういうのよくわからんけど、昔の方が好きだったかな?」
「……嘘つき」
「え?」
「もうええんじゃけん!だまりゃんしゃい!ばいばい!」
彼女はそう言うとアイス片手に走っていってしまった。
「……あいつ、泣いてたか?」
いや、気のせいかな。あいつとは確かに仲が良かったとはいえ、俺のことが好きだったとかそんな売れないラノベみたいなご都合主義らしい設定なんてあるわけがない。勘違いなんて俺はしないからな。
というよりあいつ、俺と同じ才能学園なのか?ここは才能学園の男女共有スペースだ。休みだから外に出ていいことにはなってるが、部外者は立ち入れないはず。一応、選ばれた人間しか入れないことにはなってるのだ。
この中にはスーパーやコンビニ、漫画喫茶とかゲーセンまで揃ってるのだ。だからあまりこのスペースから出ることは無い。洋服を買うとかは外でしか出来ないが別にそこまで必要じゃない。ここでは制服さえあれば問題は無いのだ。
今日は気分転換に外に出ようと思ったが、もう時間も時間だし面倒なのでやめておこう。明日も学校だし。
翌日、学校に行くとなんか雰囲気がいつもと違った。いつもよりみんながみんな落ち着きがない。浮き足立ったようなそわそわしているようなそんな感じ。一体何があったのだろうか?
でも、その理由はすぐわかることになる。
いつも遅刻スレスレまで学校に行かない俺が、席についてすぐにチャイムが鳴った。
いつも通りカツンカツンと廊下のタイルを鳴らすあのハイヒールの音が聞ける。
……と、思ったのだがもう一個、足音があった。これが聞こえるのはいつもみんながこのチャイムがなったら、誰も居ないかのように静かにするからだ。
理由は簡単、先生の足音でも聞き落としたくないからだ。
でも、その足音が掠れて聞こえる。なんだよ……使えね。
そして、俺のいる教室の前でそのふたつの足音は止まり、引き戸がガラガラガラ……っと、開く。
「おはよう。みんな!今日は転校生を紹介しちゃうのだ!」
急な先生のキャラ変えなんかは別にいつものことなので気にならない。でも、やっぱエロいのは変わらない。
「いいよー入っておいでー」
先生が動く度に上下左右にぽよんぽよんする胸に気を取られ、転校生の方なんてちっとも向かなかった。
そんな時、俺の視界を遮る何かが俺の前に立ちふさがる。
障害を交わしながらも先生の方に視線を送る。が、その壁は動いて俺の視線を遮り続ける。
「見えないだろうが!」
そう言いながらその壁に視線を送る。すると、そこには知った顔があった。
「チョベリバー」
「お前……」
あんなガングロ系ギャルではなく、スラリとした体躯に黒髪の綺麗な可愛らしい女の子。俺の知ってる頃の白銀 みこと(しろがね みこと)だった。まあ、どんな状態であれ相変わらずの口調だが。
確かにこいつの通訳者は俺しかできるわけがない。頭をポリポリと掻きながら俺は彼女と先生の方へと行く。
先生の才能が発動してないからかまだまともに立ってられる。
女には発動しないのか発動するけど異性よりかは度が低いのかやつはキョトンとしていた。
「とりあえず、お前自己紹介しろ」
「りー!あーし、しろがねみことっちゅーねん!おまんらばりばりしちょーとんで、よりょしきゅぅ!」
やっぱりまだ人前に出るのは緊張しているのか、声が最後の方に裏がえる。
先生が後ろの黒板に名前を書いていてくれたので名前だけはなんとか伝わっていただろうが、ほかはさっぱりだろう。みんな首をかしげていた。
「……えっと、翻訳しますと、私、白銀みこととと申します。みんなと仲良くしたいのでよろしくお願いします。という意味ですね」
そう言ってやるとその角度がもっと急になった。
「松岡くんは白銀みことちゃんと知り合いなの?」
「あー。はい」
「じゃ、みことちゃんは雄護くんの隣ね!雄護くんお世話お願い!じゃ、ホームルームを始めるね!」
俺らはさっさと席に戻り、ホームルームを聞く。
いくら転校生がこいつだったとしても、この先生の音一つでも聞きそびれたら人生がもったいねえ!全部録音してても無駄じゃないとまで思う。
内容はほとんど入ってないが、今日も癒された。そんな幸せに浸ってると横の席のが話しかけてくる。
「どした?」
「あーし……あーし……」
彼女はそう言いながらもじもじ身じろぎし、俺と目が会った瞬間に、顔をりんごみたいに紅色させて廊下へと駆けていった。
転校初日だというのに彼女の周りに人集りが出来るとかそういうこともなく、俺から逃げてった。
……なんかしたかな?昨日のあれから見ると……いやいや。そんなわけないだろう。小学校卒業から早六年。もうあいつとは六年前の仲になる。仲はよかったけど流石にそれはないだろう。
もしあの頃あの子が俺のことを好いていてくれたとしても、流石に心変わりしているはずだ。久しぶりにちょっとドキッとしたけど、これだってどうせ勘違いってやつなんだ。
「……あ、やべえ!あいつ方向音痴なんだった!」
廊下に飛び出してみたがいない。右にも左にも。
「相川!さっきの転校生どこ行った?」
「さっき泣いて出てきた人?お前、女の子泣かせちゃだめだぞ?」
「いいからどっち行った!?」
「あっちの方行ったぞ」
そう言って奴は右の方を指さした。奴の言うあっち側には階段しかなく、ここより上に行ったとしても最上階なので屋上があるだけ。外には出れないようになってるので消去法で下しかない。
「ありがとう。じゃあな」
さっさと駆け出し、一通り校内を走り回るが彼女の姿は見当たらない。やがて、一限の始まりを告げるチャイムも鳴りやがった。
出来た小説とかなら思い出の場所に居るかもとかなるのかもしれんが、これは現実だしそんなもんがあったとしても六年も前だし実家付近だ。とてもじゃないがここから行ける訳が無い。
あと探してないって言ったら屋上と女子トイレくらいか。
俺が足を犠牲にすれば屋上くらいなら跳べるかもしれない。ちょっと行ってみるか。
上履きのまま外に出ると300パーくらいで飛ぶと、ちょうど屋上に手が届いた。
軽くよじ登ると、そこには見覚えのある黒髪が膝を抱えて丸くなっていた。
「……ここ、立ち入り禁止だぞ」
「え?まーくん?」
「……懐かしい呼び方するな」
「なんでこちゃにいりゅの?(なんでここに居るの?)」
「先生に頼まれちまったからな。お前のお世話」
「昔んじゃないもん!(昔とは違うもん!)」
なんて言って頬を膨らます。
「変わらねえよ。昔からお前は世話ばっか焼かしやがって」
頬をつねってやると「ひゃいふぃい(いたい)」と、言ってたがもう知らん。
「ラリ申したなぁ!?(やり申したな!?)」
「おいやめ!」
俺はやつに飛びかかられ、甘んじてそれを受ける。
「いってて……ん?」
なにか柔らかなものが俺の手に収まっていた。
「昔んじゃない……しょ?(昔のままじゃない……でしょ?)」
俺の手は、彼女の慎ましやかだがふんわり柔らかな手触りをした胸に鎮座していた。
「ご、ごめん!」
「べーにええよ!……松岡なりゃ……(別にいいよ。松岡なら……)」
「は、早く行くぞ……だから、立て」
そう言うと彼女は少ししょんぼりとした後、ゆっくり俺の上から立った。その時、スカートの中が不覚にも見えてしまう。
「ピンク……」
「え?……あ」
彼女も何かを察したのか顔を紅色させたが、何も言わずに逃げてしまった。
「あ、やべ!」
こいつをここで逃がしてしまうとさっきと同じ羽目になる。早く捕まえておかないと……
だが、やつの逃げ足が意外と速く結局、彼女をとらえた時には一限目がおわるチャイムが鳴った後だった。
席に座ると同時にチャイムがなり鬼塚が入ってきた。
「全く……手を焼かせやがるぜ」
「んぁ?きゃにかいっちゃ?(ん?何か言った?)」
彼女はそう言っていたが、黙っとかないと鬼塚チョークを喰らう羽目になる。やめておこう。
「ねーねー!松岡ぁ!」
「……静かにしてくれ」
「おいそこ!静かにしろ!」
「ほら言わんこっちゃない……」
いくら席が後ろだとはいえ、あの先生の目から逃れることは出来ない。
「……松岡。一限をサボった分際で女とイチャコラか?」
先生の後ろになんか悪いオーラのようなものが見える。ここで選択を間違えたら終わる。間違いない。
「い、いえ……そりゃ誤解ですよ」
「問答無用!」
「理不尽だぁぁ!!」
多分、どんなことを言っても俺はこうなる運命だった。それは変えられない。
軽く悟って俺はチョークを受ける予定だった。だが、なんだ?鬼塚先生から放たれたチョークが遅い。どうしたんだ?スローモーションに見える。
首を少し曲げて避けると俺の耳付近をスーパーカー並の音を立てて抜けていった。
「避けた……だと?」
まず先生のチョーク投げに狙われて逃げられた奴は存在しないと謳われる程の腕を持つ百発百中の先生が外したのだ。
クラスの中もなんだかざわついている。
「今の感じ……なんなんだ?」
「それも僕、いや、君の能力さ!集中力を高めればそのくらい余裕でしょ!」
「……また俺は才能の無駄遣いをしたのか?」
もうあんなに腹が減るのは勘弁して欲しい。だから、極力才能は使いたくないんだけどな。
「まあ、このくらいなら別にいいよ!死ぬほうがスタミナ使うし!」
「そりゃそうか……」
「……手加減してやってたけど、不良児にはそれなりの制裁を加えるのが先生としての役目だよな」
そう言いながら鬼塚は指の間にチョークを滑らせ、片手に四本ずつ持って不敵な笑みを浮かべた。
やばい……さっきの先生じゃない!
計八個、俺に向かって飛んでくるチョーク。これ、完全にマトリ……じゃねえか!
まあ、余裕で避けれるか。そう思い、身体を動かしてみると急に弾速が上がった。
「嘘……」
俺は痛みを感じる間もなく頭を吹っ飛ばされた。
……本当に俺は何度死ねば気が済むのだろう?
確かにさっき一つだけ飛んできた時も、そんなに動けなかったしな。そこで気付いておくんだった。
無理して動けば死ぬに決まってる。そんなのわかりきったことではないか。
あの世とこの世の境、幽世(かくりよ)で俺は一人反省会を開き、再びゆっくりと目を開く。
「あ、おっきおっき!松岡!」
むにゅっとした感触に包まれ、同時に呼吸が出来なくなる。
「ふごっ!」
「そんなに絞めたら松岡また死んじゃうって!」
今のは声からして小桜か?いや、今はそんなことはどうでもいい。早く解放してくれねえと本当に死んじまう!
「あ、そうきゃぁ!(あ、そっか!)」
「はぁはぁ……」
本当に危ないところだった。てか、なんで起きた瞬間に首締められなきゃいけないんだ!
「死ぬのだって体力使うんだぞ……」
「めんごめんご!」
「本当にわかってるんだか……で?何故お前らがここに居るんだ?まだ授業中じゃないのか?」
いつもの保健室の時計を探してみるが、ベットを囲うカーテンが邪魔して見えない。
「ううん。もう終わったよ。で、私の決闘して欲しいなぁって思って先生に聞いたら先に白銀さんがここに居たんだ」
「人が死んだってのに気楽な奴らだな」
「そんなことより……しよ?」
そのセリフ。ほかの場面で聞きたかった!
「まあいいよ。校庭行こう」
そして、全員で校庭へと向かう。
ぼんやりした体の痛みを感じながら、コインを空高く打ち上げた。もう五時頃だろうが暑いし面倒臭いので早く片付けよう。
コインが落ち、やつを見やると速攻を変わらずに仕掛けてくる。が、いつもより速い。
いや、俺の動きが鈍いのか?
なんとか躱し、反撃に移ろうと拳を作り殴りかかろうとするがいつもより力が入らないし、当たらない。でも相手が避けてる訳でもない。
「な、なんだ?」
「……ふふっ!不調みたいだし私の能力も効いてるみたいね!」
「……なにしやがった?」
「私の能力だって甘く見てもらっちゃ困るわ!もう吸っちゃったみたいだしね!」
その言葉に咄嗟に口を抑えると、彼女は高笑いを上げた。
「もう遅いのよ!馬鹿ね!」
近くに落ちていた小指の爪にも満たないほどの小さな石ころを拾い上げ、出来るだけ距離をとる。
奴は勝ってると油断してるのかこちらへとゆっくり向かってくる。
「……闘いってのは最後までわからないんだぜ?」
「……まさか、なにかしたの?」
「今からするんだよ!」
そう言って俺は石ころを手にのせ、構える。
「……チェックメイトだ」
「ふ。ふふっ。ふはははははっ!!何それ!そんなので倒せるとでも思ってるの?」
「……言ったよな?チェックメイトだって。降参した方が身のためだぞ」
彼女は何も言わずに俺へとナイフを投げた。咄嗟に俺も意識を集中させクロックアップを使う。
彼女のニヤついた顔もナイフもばっちり止まって見える。遠くに白銀が眠たそうな顔をしているのだって。
多分、身体は動かさねえ。次が最後の一撃になる。
「……終わりだな」
俺はそれを解除し、ナイフを白刃取りした。だが、そのナイフは側面もザラっとしていて取った時、手に傷をつけた。
「なかなかやるじゃねえか……小桜……」
チェックメイトだといったあの時点で俺は既に勝ちを確信していた。それは実際そうだった。俺があの石ころをやつの放たれてきたナイフめがけて撃てば勝てた。
でも、これは別に負けていい試合だ。
もし仮にこれで俺が勝ったとしたら得るものよりも失うものの方が大きい。多分、あのナイフを弾き、石ころを撃てば石ころは弾丸並になってるだろう。俺もまだ力のコントロールができる訳でもないんだし、やって人の命を奪うくらいならやめておくに限る。
「ちょっとくらいは自分の能力使いこなせるようにしておかないとな……」
「やっとやる気になってくれたの?きみは」
真っ白で何も無い無の場所にいた。
「またここか……ん?待てよ?俺死んでねえぞ?」
「まあ、夢の中も繋がってるってことで!」
「適当なんだな」
「適当じゃないよ!私が頑張って作ったんだから!」
「あっそうかい」
「馬鹿にして!ぶっ殺すよ!」
「何度もそうされてこっちに来てんだけどな」
「そうだったね!まあ、あんたじゃ弱いからなぁ……小桜ちゃんだっけ?あれにも負けたんでしょ?」
「うっせ。わざと負けたんだよ。わざと」
「……そんなに急いでこっちに来ちゃダメなんだよ。馬鹿。だから、もう極力死なないでね?」
いつもは俺を貶すことくらいしかしないその声が、今日は珍しく怒っていた。
俺の才能の化身のクセして生意気な奴だ。ま、いいか。
ピピピ!ピピピ!という鬱陶しい音に頭をやられて俺は目を覚ます。
なんでか体が重くだるい。風邪でも引いてる気分だ。
「大丈夫?」
「あぁ……大丈夫……」
不審に思った俺は辺りを見渡すと、ピンクと白のこの部屋に目がチカチカする。あれ?というかなんなんだ?この状況は!
とりあえず、ここは俺の部屋じゃない。前にも来た小桜の部屋だ。小桜は俺の寝てる布団の横にちょこんと腰をかけている。まあ、そこまではなんとなく分かるかもしれない。小桜の才能で眠っちまったと言うなら説明がつく。
でも、白銀も俺の横のベッドの上で寝息を立てていた。どういう状況なんだ?これは。
「なぁ。大丈夫なんだけどよ?こりゃどういうことなんだ?」
「あー。白銀ちゃんのこと?同室になったんだよね。それより転校だよ!彼女!珍しくない!?」
「確かにな……」
俺は高校からこの学校に入った訳だが、小中高大と一貫性の学校だ。だから俺も転校生とも呼べる訳だが、俺みたいな奴も居るにはいるが、そこまでいる訳では無い。才能が成長に伴って発動することだってある。だから、大きくなるまでわからない人だっているのだ。
俺がこの才能を見つけたのは単なる偶然だ。トラックに跳ねられるというよくある交通事故ってやつだった。
一度俺はその時死んだ。というか、即死だったらしい。そんな状態から俺は生き返ったってことでこの学校にスカウトを受けたのだ。
ということは白銀もそれらしいことがあったってことなのか?
まあ、夢の中にいる彼女を起こすのも可哀想だし今はいいか。
「転校生ってなんか憧れちゃうよね!」
「それはわからなくもないけど、内心結構辛いぞ?みんな知らない奴だし」
「でも、みんな知らないってことは一からスタート出来るってことだよね!」
「まあ、そうなるか……じゃなくて!なんで俺はまたここに居るんだよ!」
そう問うと少し考えるような仕草をしてから、頭をコツンっ!と叩いて舌をちょこっと出してみせた。
不覚にもちょっと可愛いとか思ってないけど、やっぱりこいつは苦手かもしれない。馴れ馴れしいんだ。
「別にいいじゃん!だって、君は優しいからね!」
「はっ!そんな訳ねえだろ?今だって何考えてたか……そうだな。当ててみろ」
「エッチなこと!」
「即答だな……まあ、それに近いから正解……」
「やった!なんかご褒美は?」
「そんなもんあるか!」
女の子ってこんなもんなのか?エッチなことを想像されたら大体前を隠すか顔を赤くするか……
いや、さっきよりも顔が赤くなっていた。
「と、とにかくそういうことだから。男をほいほい家に上げちゃダメだぞ」
「はーい!」
「本当にわかってるんだか……」
でも、こいつの場合は唾液に即効性の睡眠薬効果があるんだよな……ならそんな行為に至ったとしても相手は眠っちまうし、大丈夫なのか?
いやいや!何考えてんだ俺は!
「顔真っ赤だよ?」
「う、うっせ!」
なぜか視線がハリのある柔らかそうなピンク色の唇にいく。いやいや。別にこいつのことなんて好きなんかじゃない!ちょっと意識しただけだ!
そっぽを向き冷静になろうとするが、奴が視界に入り込んでくる。
「なんだよ……」
「そっちも顔赤いし……」
「う、うるさい……こっち見んな」
「でも、優しいよ。だって、戦いの時私負けてたもん。弱ってるところを狙ったのに……」
そんなことを言いながらこちらに寄ってくる。肩がふれあい心臓が跳ねる。
「お、俺は負けたんだよ。お前は強いぜ?」
もう座ってる訳にも行かずに立ち上がり、距離をとる。
だから、男子に近付く時はむやみに寄らない。当たらない。そういうところ徹底してください。じゃなければ勘違いして告白してフラれる犠牲者が出るんです。
「あはは……ありがと……」
「まあ、なんもしてないけどな」
「……あ、そうだ。紅茶淹れてくるね!」
「おう」
足早に彼女はキッチンの方へと駆けて行った。
「小桜まつり……か」
先生に言った時は嘘のつもりでいたけれど、本当にそうなのかもしれない。
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