第7話

【才能なんて必要ない!】


七話


前々から思っていたが、校長先生の才能ってちょいと便利すぎないか?

人動けなくするわ瞬間移動するわ雨降らせれるわでずるい。

そして、その中の才能でも一番使い勝手のよさそうな瞬間移動で、ある場所についた。

日本の学校と違い外装も洋風で綺麗だし、校庭……いや、庭のような広いスペースがある。今は丁度登校時間なのか色んな外国人がその庭のようなスペースを抜けていっている所だった。

……って、あっちからすれば俺が外国人か。

にしても、日本とアメリカではここまで発育が違うのか。体付きが男女共にまるで違う。それもかっこいいし……可愛いし僕もアメリカに生まれたかったなぁ。

なんて思いつつ、先生に手を引かれてついていく。

あんな美人な女の人なんて日本じゃめったにみれないんだし、今のうちに目に焼き付けておこう。色々ガン見しすぎたか、ロリに手を引かれる高校生に視線が向いているのかよくわからないが、とにかく視線がこちらに向く。

「……先生ってこっちでも有名なんですか?」

「まーあねー。とりあえず、ジェニちゃんに挨拶行くよ!」

「誰ですかそれ?」

「いーからいーから!」

幾多の視線を浴びながらも俺はある部屋の前で立ち止まった。

「……プリンツボオフィス?」

「まあ、発音がゴミだけど正解っちゃ正解だね。日本語で言うと校長室だよ」

そして、そこのドアを開き先生はおー!とか言いながらその金髪ロングの碧眼の泣きぼくろがエッチなお姉さんに抱きついた。

絵面だけ見ると親子のようにも見えなくもない。

あれで先生は英語がペラペラらしくそのジェニーちゃん?とやらと話していた。

……こんなんだが校長先生なんだよな。二人とも。

最近の校長は進んでんのか見た目じゃ片方は幼女、もう片方は二十前半くらいに見える。

勝手な偏見で校長は変な年寄りみたいなことを思っていたが、それは違うらしい。

「あれ?その子は?」

まるで知らない声が聞こえてきた。でも、うっとりしていて艶かしい声だった。

「あれはね!私の連れ子です!」

「意味のわからない嘘はやめてください。俺は才能学園の松岡 雄護。才能は不死……」

そこまで言うと、急にやわらかな感触に襲われ、何も見えなくなる。

「この子ね!きらの言ってた子は!」

「フゴゴ……」

「あー!ずるい!ちょっと胸が大きいからってぇ!」

「この夏に暑苦しいだろうが!」

二人に抱きつかれたが、どうにか振り払う。

「おお……やるねぇー。私の拘束から逃れるなんて。流石きらの見込んだ子ね」

「まあねー!」

俺が誇るべきなのかもしれないが、この先生、やっぱりどこか胡散臭い。易々と嬉しがるのもどうなものなのか。

「君は本当に猫のようだね。でも、可愛いから許しちゃう!」

「いちいち撫でようとするのやめてください……」

「そうやって回避するのも猫っぽい!」

「じゃ、貴方は嫌われてるんでしょうね。猫に」

「そんなことないよ!なんか逃げるだけだし!」

嫌味たらたらで言ってやってるのに、先生は頬をふくらませてるだけだ。

「それを嫌われてるって言うんじゃないか?」

「えー!ジェニーまでそう言うの!?もういいよ!バカ!」

「そんな拗ねないでよ。ほんと子供の頃から変わんないのね」

頬を膨らませてジェニ先生に怒るあの感じはもうまさに子供だ。

「うるさいうるさいうるさーい!」

「まあまあ、そう怒らないで?あとでお菓子あげるから」

「……ほんと?」

「ほんとほんと!」

なんというか、このやり取りを見てると、本当に親子に見えてきたな。勿論、ジェニーが母親で雲母校長先生が子供だ。

「じゃ、仕事頑張ってくれるかな?」

「いいとも!」

こんなのが先生だなんて世も末だな。なんて思いつつ、俺は二人について行くとここにも才能学園や野球場の地下にもあったあの試合場があった。

そして周りには多くの観客。と、思ったがみんな同じ服を着ているところを見ると、同じ学生らしい。

アメリカにも制服制度なんてもんがあるのか。

二人は試合場に登ったが俺は登らず、すぐ横でそれを眺める。

英語で何かを言ってるがよくわからない。けど、歓声が上がってるところをみると場が盛り上がるようなことを言ってるのだろう。

そして、二人はなぜかこっちを見て手招きをする。周りを見てもここには俺しかいない。

恐る恐る登壇すると、歓喜の声が上がった。

何を喋ったんだろう。よくわからねえけど、気分は悪くない。

「……で、何言ったんです?」

「えっと、今から二対一で対決するって。勿論、一の方は君ね!」

「は、はぁ!?」

「君のこと期待してるから。あ、別に手加減はいらないわ。本気でかかってらっしゃい?」

「そう言ってくれるならわかりました……」

別に死なないし校長先生だって殺すことはしないって言っていた。

なら、強敵と戦うのも実戦経験ってやつだ。別に問題ないだろう。

「じゃ、手加減はしませんからね!」

初っ端から六百パーセントで飛びかかったが、簡単に躱され、見落とした。……どこいった?

「うーん。威力、正確さ、悪くないわねー。でも、そんなノロマな攻撃じゃ当たらないよ?」

「後ろか!」

後ろ蹴りをかましてみたが、それも空を切る。

なぜ二人ともあんなに早いんだよ。雲母校長はもうどうしようもないが、ジェニーさんの才能はなんなんだ?

雲母校長は姿を現さない。まあ、そうしてくれないと困るけどな。

「じゃ、こっちから行くね!」

そういうと、先生は瞬きもしてないのに俺の視界から消えた。

「スプラッシュ!」

真上から声がし見上げると、銃弾のような威力で何かが降ってきた。

「よ、避けきれねえ……」

ステージに小さな穴が無数に開き、俺の腕にも同じようなアザができる。

「なんとか皮膚強化が間に合ったか」

「おお!凄いね!普通ならもうそれだけで瀕死になるんだけどなぁ……流石キラの子!」

皮膚を元に戻すと、そのアザの場所から水が溢れてくる。

「な、なんだこれ!」

「ふふっ!圧縮した水分を当てたからその痣一個に小さいペットボトル一本分くらいの水が入ってるのよ」

俺と体とステージから水しぶきが上がる。

「good night!」

上空を見上げると、さっきまで居なかった校長先生が青いオーラを放って降りてくる。会場を包み込むほどのこれまで見た事のないスペックのオーラだ。

そんな先生がこちらに向かって何かを打ってきた。

「ぎゃぁぁぁ!!!」

直撃はしなかったが、熱い痛い熱い痛い熱い……

早く意識が飛んでしまえれれば楽なのだが、そんな苦しみがループする。

皮膚硬直なんてなんで使っちまったんだ。

鍋の中のような状態で、体の内側がグツグツと煮込まれやがる。

「う、うう……」

ただそこに倒れることしか出来なかった。でも、まだ意識はある。

なら、再生してしまえば勝機はある!

「あれ?まだ生きてるの?」

「ゴキブリ並みの生命力だね!私感激だよ!」

左腕だけでも治してどちらかに一発御見舞してから死んでやる……

「く、くそ……こんな無理ゲーやるんじゃなかった……」

だが、俺は再生することも出来ず俺の意識は途絶えた。


目を覚ますと、横には雲母校長が眠っていた。突っ込む気にもならず、ふかふかの大きなベットをおり、外を見るとちょうど夕日がビルの街並みに落ちていくところだった。

視線を落とし下を見ると、足がすくむほど高い場所だ。人やクルマがほぼ点である。

「……おはよ」

後ろを振り返ると、むくりと起き上がった先生が目を擦っていた。

「おはようございます」

「ふぁぁ……ここの夜景、綺麗って有名なのよ?」

大欠伸をしたあとに続けた。

「へぇ……そりゃ楽しみだ……って、先生!なんであんなことにならないといけなかったんですか!」

危ない危ない。あまりにも普通すぎるから俺が死んだことなんてないことになってるのかと思ったぜ。

このまま夜景なんて見てたら思いっきりスルーしてたな。

この先生、意外と策士だ……

「まあまあ!過ぎたことはいいじゃない!それより外見てみなよ!」

先生にギリギリまでガンを飛ばして振り返ると、本当に綺麗な夜景が光景が広がっていた。

「こんなところ、私以外連れてきてあげられないよ?」

「それは告白かなにかですかね?」

「そんなところ!」

そう言って、先生は俺の手を取った。

「あのですね。大変恐縮なんですけど、そりゃ無茶がありますよ」

「……え?」

「俺は金とかそういうの以前に中身が大事だと思うんですよ」

「つまり?」

「きっぱり言わせてもらいますけど、中身のない貴方の言葉じゃ俺は揺るぎません」

「へぇ……そっか。軽いか……」

そう言って先生は笑いながら何かを考えるような素振りを見せる。

「……でも、感謝はしてますよ。先生とあの日戦わなかったら俺はあの時、トップランカー共を蹴散らしたり出来なかったでしょうし」

言ったはいいがもう先生は俺の後ろにはいなかった。

「…………」

……まさか、さっきの告白とかいうの本当だったのか?冗談っぽかったから適当に乗っておいたけど、マジか?

いや、そんな馬鹿なことはない。だって校長先生だぞ。そんなことはないはずだ。

ぐぅぅぅ……と、大きな音を立てて腹が鳴った。

そういえば才能使いすぎたかもな。無性に腹が減ってやがる。

こういうところってルームサービス的なのが使えるよな。どうせ先生持ちなら頼んでもいいか。値段ドルだからよくわからんけど。

そして、置いてあるタブレットでメニューを見る。どうやら電話じゃなくてこれで注文までできるらしい。さすが現代進んでるぅ!

ここで電話とかならば俺は間違いなく注文出来ずにここで餓死ってただろう。

注文が終わってから十分ほど経ったあたりでドアがノックされ開けると、可愛らしいウエイトレスさん達が料理が運んできてくれた。

ピザであろうとハンバーガーであろうと全てがキングサイズ。おぼつかない英語で「Thank you !」いうとスマイルが帰ってくる。いや、あれは苦笑いだったかもしれない。

……もういいや。早く食べよう。

温かいうちにハンバーガーを口に運ぶ。

すると、身体が唸りを上げた。

……さすが本場というか味が全てストロングで破壊力がある。日本とは違う美味しさがあった。

そして、なんと言ってもこの食べ応え……肉を食べてるって感じがする。

大きなピザもハンバーガーもいつの間にか全部平らげ、コーラをがぶ飲みする。

「ぷっはぁぁぁ!!くぅぅ……うめえ……さっきの刺激的な味を全部流してくれるコーラ……痺れるぜ……」

腹も脹れ、美しい夜景を見ていると次第にうとうととしてくる。

金持ちってのも悪くないな。


******


ピピピッ!ピピピッ!

そんな規則正しい鬱陶しい音に鼓膜を揺らされて俺の意識は覚醒した。

目を開き音の元凶を殴って止める。

「まだ七時くらいか……」

昨日までアメリカにいたはずなのだが、散らかったゲーム機や衣類……見覚えのある景色。ここは……俺の寮だ。

今日まだ日曜だろ。なら、なんで返してもらえたんだろうか?

携帯を開いてみても日曜という表記だ。

考えられるとすれば、先生が飽きたのか諦めたのか、もしくは気まずいとか思ったのか……

いや、最後のはないな。あの校長に限ってありえない。

でも、帰ってきたんだ。やっと。

まだ起きたばかりだが、休みだから出来ることを決行する。とてもじゃないが平日にできないことだ。

「すぅ……すぅ……はっ!」

再び俺が目を覚ましたのは昼を回ったあとだった。この流れに乗って三度寝も考えたがご飯を食べないことには始まらん。とりあえず飯だ。

とはいえ、家には何も無いし待ってても出てくる訳では無い。俺に料理の上手い彼女の一人いれば飯の心配なんてしないが、あいにく俺にはそんな人はいないし好きな人ですらいない。

本当に大昔にいたことはあったが、今あってもわからないだろうな。

「……とりあえず、寮出るか」

すると、外には才能学園の生徒だろうか男女共有スペースでイチャコラしてるくそカップル共が居た。

いつもいつも休日だからって見せつけやがって……!

いや、別に羨ましいわけではない。でも、普通の男なら、誰かしらを好きになって告白したりそれ相応の対応をするべきなのか?

いや、俺にはまだ出会いがないだけだ。だから、別に今は気にしないでいいんだ。

「あれ?松岡じゃん。ベリッチング久しぶりじゃん!」

「お前は……」

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