第6話 勝負
「今から行う班リーダー対鬼頭の14対1の試合のルールを説明する。参加者にはこのビー玉を身につけてもらう。このビー玉は少し特殊でな、身につけている者が一定以上のダメージを受けると粉砕するようになっている。そして、これを破壊されるか気絶させられるかしたら負けだ。もちろん殺しは無しだ」
そう言って陽一は紐のついたピンポン球ぐらいの大きさのビー玉を夜一と班リーダーに配る。
班リーダーたちはビー玉を受け取ると自身の体に身につけ、ウォーミングアップをし始める。成績がかかっているからかみんな真剣だ。
そんなクラスメイトたちとは裏腹に夜一は夏休みの間ずっと使っていた霊力で再生する刀を手に持って目をつぶり、深呼吸を繰り返し、頭の中で夏休み中に何度もした真白との稽古を思い出す。
しばらくして、怒りによって燃え盛る炎のように増幅していた霊力が落ち着きを取り戻し、夜一の雰囲気が変わる。
「準備は、大丈夫そう?」
そんな夜一をずっと見ていた真白が観客席から声をかけた。
「うん」
「夜一は術を二つまでしか同時に使えないから、使う術は考えたほうがいい」
「わかってるよ。だから普通の呪装と火の術を刀に使おうと思う」
「・・・え、自分には使わないの? それだと、一回でもまともな攻撃が当たったら砕けるよ?」
「知ってるよ。だから、攻撃に当たらなければいんだよ」
真白は夜一の事を本当に心配しているようで、いつもより感情が表に出ていた。しかも、いつも強弱がない声も今ははっきりとしている。
「で、でも、もし何かあった・・・」
「真白は信じててよ。俺は負けないから。心配してくれてありがとね」
夜一は真白の言葉を遮り、そう言って、実戦練習場の中央に歩いて行く。
「・・・なんで、こんなに心配になるんだろ?」
真白は誰かに尋ねるわけでもなく、自分にしか聞こえない声で呟いた。
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真白の言葉を遮って、実戦練習場の中央に歩いて行った夜一はそこでいろいろな人から敵意を向けられていた。
一部のクラスメイトたちからは変なことしやがってと言いたげな目線を向けられ、またあるクラスメイトからは転入生なんかに負けてたまるかと言いたげな目線を向けられている。
「じゃあ、そろそろ始めるぞ」
陽一が実戦練習場にいる全員に向けて声を発した。直後、ウォーミングアップをしていた人もエリア外の観客席で喋っていた人も一斉に静かになり、陽一の言葉を待つ。
「今から試合を始める。試合時間は一時間、ルールはさっき説明した通りだ。・・・では初めろ!」
陽一がそう言うと、殺気立ったクラスメイトたちが呪装をして一斉に夜一に襲いかかる。夜一は二つ呪装をかける時間はないと判断し、刀に強度と切れ味をあげる術をかけ一番最初に攻撃して来た男子生徒のビー玉を真っ二つに切断する。
「なっ!」
あまりの早業にビー玉を切断された男子生徒は声を上げる。が、それもすぐに悲鳴に変わった。
夜一はビー玉を切断したクラスメイトに呪装を掛け、近づいて来た他のクラスメイトに向かって勢いよく投げ飛ばす。投げ飛ばされたクラスメイトは勢いよく他のクラスメイトにぶつかり、一瞬で二人のビー玉が割れた。
これを見た他の生徒たちは唾をのみ、緊迫した様子で夜一から一定の距離を保つ。
だが、それが夜一の狙いだった。夜一は火行符を取り出し術を詠唱する。直後、刀の刀身の色が太陽のような赤色になり鍔が白黄色の炎になる。
「な、そんなにも霊力を込めているのになんで術が安定しているんだ?!」
夜一から距離を置いていた生徒のうち一人が刀にかけられた術を見てそう言った。
「え、これが普通じゃないの? 真白だってこれぐらいやるし」
「んなわけあるか!」
「そうなんだ。まぁ、今は関係ないからどうでもいいけど」
夜一はそう言って、刀を構え少し離れたところにいるクラスメイトに向かって斬りかかる。当然、夜一の攻撃をクラスメイトは自分の持っていた刀で防ぐが夜一の刀は相手の刀を溶かし刃はそのままビー玉を捉え、切断する。
「このままだとやばいな。大地よ隆起しろ、急急如律令!」
夜一を囲んでいた生徒たちの一人が
夜一はすぐに体をひねり攻撃をかわそうとするがさすがに全てをかわしきれず、右肩、左足に刃を食らい、身につけていたビー玉にピシリと音を立てて罅が入る。
(い、痛いけど、鬼にやられた時よりは全然痛くない)
右肩と左足からくる痛みに耐え、夜一は着地したばかりのクラスメイトたちに斬りかかり、4人のビー玉を砕く。
「や、やっと半分」
夜一は残りの人数を見てため息を吐く。
開始から数十分で半分まで減らせたのはいいが、右肩と左足を負傷していて夜一の動きはだいぶ鈍くなっていて、しかも、残っている7人の霊力は夜一が倒したクラスメイトたちの数倍はあり、クラス内でも上位の実力を持っている生徒たちだけだった。
「土の壁よ、我が敵を囲む牢獄とかせ、急急如律令」
残り7人のうち一人がそう詠唱すると夜一を囲むように土が隆起し、夜一を閉じ込める。
「水流よ、箱の中を見たせ、急急如律令」
夜一がすぐに土の壁を壊そうと刀を持つ手に力を入れると、夜一の足を土が飲み込み、土の壁がない天井から大量の水が注ぎ込まれた。
「水は樹木の成長を促す、急急如律令」
水が注ぎ込まれた後すぐに、大量の水を土の壁から生えた樹木が取り込み急激に成長し、土の壁の中を樹木たちは埋め尽くす。
夜一はあまりの手際の良さに何もできず樹木によって腕、足、体を挟まれ身動きが取れなくなった。
そんな夜一に追い打ちをかけるように、火の術を詠唱していた生徒の一人が詠唱をし終わり、一発の火球が樹木めがけて放たれる。
樹木は燃え、一箇所だけ空いていた部分も土の壁によって閉ざされ、夜一は炎の中に閉じ込められてしまう。
(まずいな、後数秒もしたらビー玉が割れるかもしれない)
夜一はこの呪術に込められている霊力の量を見てそう判断し、一枚の呪符を手に取り霊力を練る。
「陰陽結界術、発動!」
夜一がそう言うと同時に呪符が光り、刀の呪装が解かれると同時に夜一を守るように青色の結界が展開される。
結界はさらに形状を変え、土の壁に向かって伸びていき壁を簡単に貫く。
一瞬のうちに結界の通路ができた。
「初めて実戦で使ったけど、なんとかうまく行ったな」
夜一は結界でできた道を歩き、壁の外へ出る。
結界は夜一が壁の外に出た直後に縮小し小さなブロック状になって夜一の肩の上で浮いたまま静止した。
一方、術に大量の霊力を込め、絶対に抜け出せないだろうと思っていた生徒たちは唖然としている。夜一はその隙を見逃さず、結界を変形させ刀の刀身を結界の刃で長くし、刀を横に薙ぎ払う。
結界部分で長くした刃はそこまで鋭くなく、斬ると言うよりかはぶつけると言った感じだったが、なんとかジャンプし避けれた1人の生徒以外のビー玉は割れ、観客席まで吹き飛んだ。
「あと、一人!」
夜一はさらに結界の形状を変化させ、まだ宙に浮いているクラスメイトに向けて長い筒状の結界を伸ばす。
クラスメイトはもう避けれないと判断し諦めて目をつぶった。
おそらく、この場所にいる誰もがもう勝負はついたと思っただろう。
だが、最後の一人に向けて放たれた筒状の結界はクラスメイトに当たる前に突然止まり、術を解いた後のように突然消滅した。
・・・そして、そのすぐ後にバタリと音を立てて夜一は地面に倒れる。
「・・・・・・・」
まるで時間が止まったかのような静寂が続く。
「しょ、勝者、班リーダー組!」
陽一の勝敗を告げる声で時間が進み出したように静寂が破られ、「オオォォオ!」と観客席で見ていたクラスメイト、いつのまにか色々なクラス、学年からこの試合を見に来た生徒たちが観客席から激しかった戦いを称える声をあげた。
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