陰陽師学校

第5話 入学

「えー、長かった夏休みが終わり______」


 広い体育館にある壇上で彩香が長々と退屈そうに棒読みで話をしている。

 校長がそんな顔して校長挨拶を話してたらダメだろと思いながら夜一はそんな彩香を見ていた。

 夜一の隣では真白が座っていて、眠りそうになっているのを必死にこらえているのかこくりこくりと頭を上下に動かしている。


 _______


「これで、私の話を終わらさせてもらいます」


 喋り始めてからおよそ数十分、ようやく喋らなければいけないことを喋りきったのか、彩香は疲れ切った表情で壇上から降りて席に戻る。

 そして、長かった(主に彩香の話だが)始業式は教頭の言葉によって終了した。


「鬼頭夜一くんは後で校長室に来てください」


 始業式が終わると同時に放送がかかり、夜一は一人で校長室へと向かう。


「やっほー、学校で会うのは初めてだね」


 夜一が校長室の扉をノックして開けると椅子にだらしなくもたれかかっている彩香が披露しきった顔で夜一を迎えた。


「夜一くんをここに呼んだ理由は、君が入るクラスの担任の紹介と一つ頼みたいことがあって呼んだんだ」


 彩香はそう言うと、部屋の入り口の近くに座っているスーツに身を包んだ短い黒髪で灰色の瞳のかっこいい系の女性の紹介を始める。


「彼女の名前は黒神くろかみ陽一ひいち、この学校内でも有数の陰陽師で私の親友だよ」

「陽一だ、これからよろしく」

「鬼頭夜一です。こちらこそよろしくお願いします」


 陽一は右手を出し握手を要求する。夜一はそれに答え右手を前に出し握手をした。


「じゃあ、自己紹介も済ませたし、私からのお願いを聞いてくれるかな?」

「はい。入学させてくれたこともありますし、俺にできることならば」

「そう言ってもらえると助かるよ。・・・お願いっていうのは、クラスで真白ちゃんが夜一くんに隠している秘密を知ってもこれまでみたいに仲良くしてほしいんだ」

「・・・それだけですか?」


 真白が隠し事をしていることは何度か夏休みの間に夜一は感じていたし、その秘密が何であれ夜一は真白との関係を絶とうとは思っていなかった。

 そのためか、夜一は少しキョトンとした顔になる。


「それだけ・・・か。それがみんなできたらいいんだけどなぁ」


 彩香はどこか遠い目をして夜一や陽一に聞こえないほどの小さな声でボソッとそう呟いた。


「・・・あの、どうかしましたか?」


 そんな彩香を見て夜一はそう尋ねる。


「ううん、ちょっと考え事をしてただけ。そんなことより陽一先生について行って早く授業受けて来なよ。あ、あと、授業後になったら寮の部屋を案内するからここに来てほしいな」

「わかりました」


 夜一は陽一の後ろについていき教室へと移動する。

 学校の中は普通の高校とあまり変わらない作りで、違うところといえば通路のあちこちにアヤカシの侵入を阻む結界の核となる石像が置かれているぐらいだった。


「お前たち、席に座れ。今から転校生を紹介する」


 陽一のその言葉で夜一は教室へと足を踏み出す。

 教室内の生徒たちは突然の転校生に驚きつつも興味津々な瞳で夜一へと一斉に視線を向ける。


「今日から皆さんと一緒にここで学ぶ鬼頭夜一です。よろしくお願いします」


 夜一はそう言って頭を下げる。

 教室内からはそんな夜一に向けた拍手の音が響いた。


「鬼頭、お前は姫月の隣の席に座れ。・・・面白いものを期待しているぞ」


 陽一は後半は小声で夜一にしか聞こえないようにそう言い、一番端っこの窓側の席に座る真白の隣の空いている席に座るように促す。

 夜一は陽一の言っている意味がよくわからず「失礼します」とだけ言って荷物を持って席へ移動する。

 陽一は夜一が席に座ったのを確認すると、目線を生徒全員に向けて話し出す。


「さっき言った通り鬼頭は転校生だ。まだ術の鍛錬を積んでから一ヶ月ぐらいしか経ってないが、校長が言うにものすごく強いらしいから自分の班に誘いたい奴は今から一時間やるから勧誘してみろ」


 陽一はニヤニヤと笑ってそう言った。だが、夜一は一体何のことだかわからず困惑する。


「この学校では生徒一人一人に成績がつけられるんじゃなくて班一つ一つに成績がつけられるの。だから、強い人はいろんな班リーダーから班に入らないか誘われる。・・・頑張って、ね」


 困った顔をしている夜一を見てか真白はなぜかいつもより元気なさげな表情で言う。夏休みのうちに真白の表情の微妙な変化がわかるようになった夜一はそんな真白の表情の違いを見逃さなかった。

 夜一は何で元気がないのかと尋ねようとしたが・・・


「鬼頭くん! 私の班に入ってよ!」

「いいや、男子なんだから俺の班に入るべきだ!」

「な、お前なに抜け駆けしようとしてんだ! 俺の班に入るべきなんだよ!」


 そんなクラスメイトたちの会話によって夜一はそう尋ねる機会を失ってしまう。

 クラスメイトたちは自分の班の成績や誰がいるのかなどいろいろなことで夜一を自分の班に入れようとするが、みんな一斉に夜一に喋っているせいで全く夜一の耳には入っていない。


「真白、ちょっと、助けて」


 夜一は真白に助けをも求める。

 だが、真白が何かをする前にあんなにも騒がしかったクラスメイトたちは一瞬で静かになった。

 そして、夜一に話しかけていた男子生徒のうちの一人が、


「鬼頭、お前姫月と仲良いのか? いいか、先に忠告して置くぞ姫月と関わるのはやめておけ、あいつは半妖だ関わったところでろくなことがない」


 と夜一の耳元で耳打ちする。

 夜一はそれを聞いた時、はぁ? と思った。


「・・・それって、真白が何かやったんですか?」

「特に何もやってないが、それが何か関係あるのか? 式神でもないアヤカシの子だぞ? 半分人間の血が流れてるとはいえ妖力があるんだ何するかわからないじゃないか」


 男子生徒は差別するのは当然だろ? っと言いたげな表情でそう言った。

 半妖とは人とアヤカシとの間に生まれた子供のことを刺す言葉だ。半分アヤカシの血が流れているだけで何もしていないのに差別し、果てには関わるとろくでもないことが起こると勝手に決めつけているクラスメイトたちに夜一は怒りを覚える。

 おそらく、真白が夜一に隠している秘密というのは真白が半妖だということだろう。

 夜一の霊力が夜一の怒りと比例するかのように増幅する。

 当然、霊力を感じたり、見たりすることのできる教室内の生徒たちは陽一を含めゴクリと喉を鳴らす。それほどに夜一の霊力が大きかったからだ。


「真白、真白って班リーダー?」

「・・・ううん。私は、いつも一人だったから」

「じゃあ、俺と同じ班になってよ。良いですよね陽一先生?」


 夜一は面白そうに口元を綻ばせてニヤリと楽しそうに笑っている陽一に尋ねる。


「・・・ああ、大丈夫だ・・・」


 陽一は言葉を区切り、何かを思いついたような顔をして、


「班は作っても良いが、鬼頭、お前の力を証明してくれ。今から校長に頼んで実習練習場を貸してもらうからそこでこのクラスにいる班リーダー全員と戦ってくれ。全員に勝てたら成績も大量にくれてやる」

「「「「・・・・・・えええぇぇぇ!」」」」


 夜一を含めたクラス全員が大声で声をあげた。

 それもそうだ、このクラスにいる班リーダーは合計で14人いて全員そこそこの実力者だ。その全員とまだ術が使えるようになって一ヶ月しか経っていない夜一を戦わせようとしているのだ。いくら夜一の霊力が高いとはいえ正気の沙汰じゃなかった。


「あと、この勝負で鬼頭にやられた班リーダーがいる班の成績は下げさせてもらうからな」


 陽一のそんな言葉を聞いてクラス内の空気が変わる。

 どうやら、相当成績を下げられたくないようだ。


「お前たち、早く実践練習場に行くぞ。まだ時間はたっぷりあるとはいえ完全下校時刻までには今日配らなきゃいけないプリントとかもあるからな」


 陽一はそう言って教室から出て行く。

 先にプリント配るなりしてから行けよとクラスにいる全員がそう思いながら各自準備を進め始めた。

 そんな中、真白は心配そうな顔をして夜一に話しかける。


「危なかったら棄権して、同じ班になろうって言われて嬉しかったけど、わざわざ私と同じ班になる必要は、ない」

「・・・安心して、大丈夫だよ。まだ未完成だけど奥の手もあるから」


 夜一は班リーダー全員に勝つ秘策があるのか、そう言って、カバンの中から数枚の呪符と布で何重にも巻いてある物を取り出し、陽一について行った。

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