第23話 家庭教師、将来を案じて退任する
思えば、コイツらとの出会いは最低最悪なものだった、筈だったのだが。
今となっては俺に恋する乙女となっている。
俺はその事を驚きながら、と同時に。
『俺に恋をしても意味は無い』
と思いながら見ていた。
何故なら、俺は貧乏で有り。
社会常識で、貴族階級で考えてみれば有り得ない。
俺ははっきり言って路傍の石だ。
それだけ、意味が無い野郎って事だ。
それで大手通販サイトの財閥、天下家の婿になるとは到底思えないし、有り得ない。
だが、恋子と想は。
そんな事は関係無いと話す。
そして、私は例え全てと敵対する事になっても、と話す。
『私は貴方が好きだから』
『私もだから』
ただ、二人はその様に話し。
そして遂に打つかった。
全てに争う為に、だ。
だが俺は複雑だった。
それは.....駄目だって思いながら、だ。
全てを捨てる、それは幸せを捨て去る意味になる。
それは.....コイツらの為にならないから。
俺は自宅で隙を見て、連絡していた。
雇い主、つまり。
恋子と想の父親にだ。
「.....家庭教師を本日を持って退任します」
『突然、その様な言葉を.....君らしく無いね』
「.....やはりどの様なことが有ろうとも、想と恋子は.....貴方の娘ですから。未来を考えるならこの一択かと思います」
『.....ふうん。別にどうでも良いけど、だったら娘は返してもらうよ?』
ええ、それは分かっています。
俺はその様に答えながら、スマホを見る。
そして話を続けた。
「.....娘さんを迎えに.....来て下さい」
『分かった。手配するよ。それじゃあ、本日を持って解任する。あと、以後は娘に近付く事も厳禁だからね』
「.....分かっています」
すると、二人が帰ってきた様で。
俺はすいません、と切った。
二人は俺を見ながら、和かに話す。
「.....昌浩。お菓子作るから」
「.....手伝って」
その表情を見ながら俺は真剣な顔になった。
そして俺は正座して前を見据える。
ただ、すまないと思いながらも、だ。
「.....その前にお前らに話が有る」
「「.....?」」
☆
「.....嘘.....」
「な、何でそんな事をするの.....」
「お前らの未来を見据えての決断だ。俺はお前らの家庭教師を退任する」
青ざめて、そして愕然とする、二人。
想はカタカタ震えていた。
涙を流しながら。
「.....冗談だよね?」
「これをジョークでいう馬鹿が居るか。俺はお前らの全てを願って、こうした。すまないが分かってくれ。お前らの愛の告白の時に全てを決断したんだ」
「.....最低.....」
恋子はそう吐き捨てそして歩いて出て行った。
俺は罵声を真剣に受け止める。
想は涙を流して、本当に悲しいという感じで俺を見てきた。
「.....何で.....何で?」
「.....お前らの未来の為、幸せの為だ。俺はお前らに接触するべきじゃ無かった。やっぱり。周りから.....祝福されないと思う」
「.....だから全てを捨てて.....!!!」
「.....それをしたらどうなるか分かるか?お前は一文無しになるぞ。生活出来るのか?現実はそんなに甘く無いぞ」
嗚咽を漏らしながら、涙を流す。
俺はその様子を見ながら、外を見た。
本当に.....ごめんな、想、恋子。
その様に、思いながら。
☆
「.....」
「.....」
「.....」
翌日の事。
俺は目の前で連れて行かれる、恋子と想を見た。
恋子は本気で失望して嫌っている様だ。
俺はその事を俯いて思いながら、想を見る。
「.....じゃあね」
「.....ごめんな。想。恋子にも.....伝えてくれ」
「.....」
想はプイッとそっぽを見ながら、車に乗って。
そして去って行った。
俺はその光景を。
これで良いんだ、そうだ、間違ってない。
その様に思いながら。
空を見た。
ピコン
「.....?」
(アンタの事.....見損なったわ)
恋子からその様にメッセージが来た。
俺はその画面を見ながら、少しだけ涙を浮かべる。
これで良いんだよな、親父。
☆
全てが元に戻った。
想と恋子はあれから、俺に近づいて来なくなり。
俺は憂鬱な日々を過ごしていた。
それから、何も起こらず2ヶ月が立ち。
俺はボーッとしていた。
☆
「.....」
7月4日。
スマホのメッセージを送っても返事は無い。
俺はそうだな、これで良い。
と思いながら見つめる。
ピンポーン
「.....?」
その時だった。
インターフォンが鳴る。
俺はクエスチョンマークを浮かべながら、表に出る。
そこにかなり黒い男が立っていた。
身長は190センチは有ろうかと思う黒人だ。
渋い顔で俺を見下ろしている。
スーツを着ていた。
「こんにちは。私は想さんと恋子さんの家庭教師のデリックです。貴方が前の家庭教師さんですね」
「.....は、はい?」
「紹介と、恋子さんとのご結婚のお知らせに参りました」
その言葉に俺は見開いて。
冷や汗を流した。
そうなのか、結婚ね。
俺はその様に思って落ち着いて答える。
「.....良いんじゃ無いですか。貴方の様な.....お金持ちの様な方なら」
「有難う御座います」
「.....」
『アンタはそれで良いわけ!?』
何故恋子の声が聞こえる。
何でこんなにも否定の声が聞こえるのだ。
俺は恋子と想を奪われたく無いのか?
「.....」
「では、失礼を。あ、結婚式場の案内を渡せとのお達しなので.....」
「.....」
俺は静かに差し出された結婚式の招待状を受け取った。
そして黒人は挨拶をして歩いて去って行く。
これで良いのか、本当に。
俺はその様に思いながら、再び空を見た。
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