第20話 家庭教師、雇い主に会う
恋子と想は親父との戦いの全てを受けて立ってみせる。
そんな感じでその全てに反発し、俺の元へ残ってくれたが。
良いのかこれは。
どうしても気持ちが複雑だ。
「.....私は貴方が好き。だから頑張れるから」
「.....想.....」
その日の夜中の事だ。
俺は横で寝て笑みを浮かべる、想を見る。
この家は以前も話したが、テレビも無い様な貧乏の家である。
つまり、一言で言うなら家が狭く想や恋子は俺の横で寝る形となる。
俺はただひたすらに複雑な思いを抱いていた。
コイツらを本当に送り返さなくて良いのだろうか、と。
とは言え反逆した今、もうその願いは叶わないと思うが。
俺は目の前に居る想をジッと見る。
想は俺の視線に赤くなりながら目を丸くした。
「.....何?」
「いや.....俺は.....良いのかな。これで」
「そんなに心配しなくても良いわよ」
その言葉を吐くと。
唐突に後ろから声がした。
俺は声に後ろを見る。
川の字に寝ている恋子が向こうを見ながら話していた。
「.....恋子?」
「アンタは私達の為に色々やってくれた。その恩返しの様な感じだから。気にしないで」
「.....しかし」
「逆にせいせいしたわ。あの親父の元を離れられた事に。やっぱりアンタには感謝しか無いわ」
恋子はその様に向こう側を見ながら話す。
俺はその言葉を受けながら、想を見た。
想も頷いて真顔ながら笑みを浮かべている様に見える。
「.....親父の元を離れられたのは貴方の勇気有る行動のお陰だと私は思う。だからお姉は反発の狼煙を上げたんだと思えるから」
「.....」
「.....だからそんな複雑な顔しないで。貴方が複雑だと私達も複雑」
「そうよ。だから複雑な顔なんてお似合いじゃ無いわ」
俺は二人の言葉に笑みを浮かべる。
そしてボロの天井を見た。
取り敢えず、寝れそうな気がする。
そう思ってだ
「.....お前ら、この先の生活はマジに大変だと思うが、頑張れるか」
「.....うん」
「勿論」
全く俺の生徒は。
俺はその様に感じながら居ると。
意識が遠のいて行く感覚に.....
☆
「起きて.....昌浩。起きて」
何か、声がする。
俺はゆっくり目を開ける。
見ると、横に想が居た。
手をあたふたしながら、俺をパチクリして見ている。
何だコイツは。
一体、何をしようとしたのだ?
全くもう。
「お前、俺の顔に落書きでもしていた訳じゃねーよな?」
「そんな事する訳無いでしょ。想が」
目の前を見ると、エプロンと制服姿というミックスの恋子が何かを作っていた。
一緒に居る丹葉と一葉は真っ赤でこっちを見ている。
本当にコイツ、ナニをしようとしたのだ。
「.....全く。時計の音も聞こえないぐらいなんて。どれだけ深く眠っていたのよ」
「でも昌浩の寝顔、可愛い」
二人はその様にそれぞれ穏やかに話す。
俺は言葉にちょい恥ずかしがりながらそして立ち上がる。
取り敢えず、学校へ行く準備だ。
と、思っていると。
「.....お兄ちゃん」
「.....お兄」
「何だお前ら」
目の前を見ると、驚愕している想が居る。
そして真っ赤になっている恋子が居る。
何だと俺は視線を追う。
妹達は指を俺に向けているが。
「.....うお!」
まさかだ。
パンツ一丁になっていた。
俺は直ぐにズボンを履いて、退散する。
☆
「全く。良い加減にしてよね」
「でも.....その.....うん」
「.....いや、仕方が無いだろ.....」
赤くなる二人。
三人の家出後の初登校となる。
勿論、黒車などそんなものは無い。
家を出て歩く。
俺は心配げに二人を見る。
ツインテとポニテの二人だ。
何となくイメチェンが似合っている。
と、思っていると。
「可愛い?」
想が聞いてくる。
俺は頬を掻きながら反応した。
何だか恥ずかしい。
「.....あ?.....あ、ああ」
「.....」
恋子が静かに俺を見ていた。
俺は気付いて視線に恋子を見るが。
直ぐに視線を外された。
???
「.....何だ?」
「.....べっつに」
「.....お姉。言って欲しいんだよね。似合っているか」
「べ、別に!?」
ああ、成る程な。
髪に触れているのはそのせいか。
女子ってそういう所が.....と思ったその時だ。
俺の背後から凍て付く視線を.....感じた。
「.....親父.....」
「.....何!?」
目の前に身長が180センチは有ろうかと思われる、男がコートを羽織り立っていた。
俺は警戒する。
目付きはそこまで鋭く無いが、柔和でも無い。
つまり、真顔のモデルの様なEラインが整った顔立ちに整えられた固めた髪。
簡単に言えば。
余りにも目立つ存在の身体が巌で、顔は冷徹な様な、そんな感じの親父、だ。
信じられない。
どういうこった!
「.....何でこの場所を知っているの」
「私の娘だからね。知っていて当然だとは思わないかい」
想の言葉に、父親は優しげな笑みを浮かべる。
ただ、全く感情が篭って無い。
余りにも.....冷たい心だった。
警戒していると、俺の背後から恋子が警戒しながら言う。
「.....親父。もしかして私達を連れ戻しに来たの?」
「まさか。そんな事をしないよ。私は親だからさ」
「.....」
ニコッと笑む、恋子と想の父親。
だが、余りにも.....冷酷だ。
俺はジリッと足を引く。
「.....だけど」
そのジリッという音に。
真顔に一瞬で戻る、父親。
俺はまさかの事にゾッとしながら、父親を見つめる。
冷や汗をかいた。
「.....何ですか」
「.....君は許せないね。うん、私は君を許さない」
乾ききったニコッという笑みを浮かべその様に話し。
そしてそれだけで目的は果たした。と言わんばかりにその場で踵を返す、父親。
俺に笑顔で挨拶した。
「じゃあね。昌浩くん」
俺はこの日を.....きっと忘れないだろう。
その様に強く強く冷や汗を流しながら、思った。
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