第15話 家庭教師、更に衝撃を受ける

まさかの想の告白。

想が俺を好いている。

それもキスまでして俺に告白してきた。

いやいやいや、嘘だろう。


「.....」


図書室で想に断りを入れて、駆け出した。

取り敢えず、想の事を尊重したい、考えたい。

だけど今は恋子だ。


アイツは気になる一言を呟いてそのまま出て行ってしまった。

此処から何処に行くつもりだ。

嫌な予感がする。


『認めない』


「.....恋子。頼むから嫌な事だけはするなよ」


運動不足の身体に鞭を打ちながら走る。

恋子め、一体何処に行ったのだ。

俺はその様に思いながら、駆ける。


「.....居た.....」


「.....あ、アンタ.....」


角を曲がった先の丁度、屋上へ続く道の先の先。

その場所に恋子が居た。

俺はハァハァ言いながら、恋子を見る。


「.....何で追って来たの.....」


「.....お前が突然、去って行ったからだろ。心配掛けさせやがって。お前らは姉妹なんだから同じ行動をすると思ってな」


「.....別に私は.....アンタの事なんかこれっぽっちも好いてないんだけど」


そうか、と俺は言う。

俺は汗を拭いながら、恋子に頭を下げた。

思いっきりに、だ。


「.....ちょ、な、なに!?」


「俺が悪かったと思う。想とあんな事になってしまって」


「だから別に私は.....」


そこまで、話した時だった。

背後から声が聞こえて。

俺達は驚く。


「じゃあなんであんな台詞を言って逃げたの。お姉」


その人物は想だった。

俺は頭を上げて、想を驚きの目で見る。

想は俺を一瞥してから恋子の手を優しく握った。


「.....自分の心に素直になったら」


「.....何を?馬鹿じゃないの想。私はコイツの事なんか.....!」


「.....嫉妬しているんじゃないの」


「は、はぁ?」


恋子は段々と顔を赤くしていく。

俺は見開いた。

想が赤くなったその姿に言葉を発する。


「.....私は昌浩が好き。お姉も昌浩が好き。だから名前を言わないんだよね?」


「ち.....ちがう.....」


「.....逃げないで。お姉」


「.....」


俺の視線を感じた、恋子は真っ赤になった。

そして想の手を振り払って逃げる。

ま、またか!


「お姉!」


「追うぞ!想!」


廊下は走るなという張り紙が有るが。

今は仕方が無い。

恋子の.....事を追わないといけない。



「くそう。アイツめ。なんちゅう足の速さだ.....」


「.....お姉は昔から足早いから.....」


1階の職員室辺りで見失った。

クソッタレめ。


しかし今回は如何あっても絶対に恋子を捕まえないといけない。

俺はその様に思いながら探す。


「.....恋子.....俺を好いていたなんてな」


「.....お姉は感情表現が上手く無い。そしてお母さんが亡くなってから気持ちに素直になれないから.....」


「.....それで複雑になって逃げたってか.....」


「.....昌浩。ごめん。今のお姉は必ず見つけてあげて。絶対に放って置いたらだめ」


複雑な顔付きで話す、想。

何を言っている、必ず見つけるさ。

なんたってアイツは俺の生徒なんだからな。

俺はその様に思いながら、想の頭を撫でる。


「.....止めて.....子ども扱いは.....」


「.....子供じゃ無い。.....俺の亡くなった親父直伝の.....安心させる作法だ」


「.....!」


俺の親父は.....俺達をとても大切にしてくれた。

なのに死んじまって。

今でも.....。


「.....想?」


「.....安心して。私達がその穴を埋めてあげる。家庭教師さん」


手を優しく握ってくる、想。

俺はその想に少しだけ口角を上げた。

そして俺は前を見据える。


「.....探すぞ。想。恋子を」


「.....うん」


そして俺達は廊下を駆け出した。

もうとっくに授業時間だが、恋子を見つけるまでは。

終われないから。



「.....見つけたぞこの野郎.....!」


想と分かれて探していると、旧館に恋子は居た。

学校には居ないってか、授業中でそんなに動き回れない。

となると居るとするならこの場所かと思った。


旧館、つまり昔のこの学校で有る。

建て替えの為に変わったとされるが.....木造だし。

その旧館の恋子は屋上に居た。

恋子は驚愕の眼差しで俺を見つめてくる。


「.....何で.....分かったのアンタ.....」


「.....俺の洞察力を舐めてもらっては困るな」


「.....」


恋子は俯いて、そして上目遣いで見てくる。

別に恋してないから、と小さくつぶや.....ちょっと待て!


「危ない!恋子!!!」


背後は立ち入り禁止の黄色のテープがあった。

穴が空いている。

そのテープに気が付かず、恋子はきゃ.....と足を滑らせる。


「や、やあぁ!!!!!」


「クソッ!!!」


階下で何かが落ちた様で、ドダンと音が鳴った。

そしてギリギリの所で恋子の背中に手を回して、落ちない様にする。

俺は恋子と目が合った。


「.....」


「.....は.....離しなさいよ.....」


耳まで真っ赤にした恋子に言われ、ハッとして。

俺は直ぐに安全な場所まで誘導して恋子を離した。

恋子は耳の上にある髪の毛を掻き上げながら俺に向く。


「.....あ、有難う.....」


「.....い、いや.....」


俺達は暫く会話出来ずにジッとする。

すると、恋子側から話が合った。

空を見ながら。


「.....私は.....複雑なんだ。だから.....貴方の事を好きになっている訳じゃ無いから」


「.....好きってのは俺にも分からないから大丈夫だ」


俺は苦笑気味に言う。

見ると、恋子は涙を浮かべていた。

俺は眉を顰めて俯く。


「.....私.....は恋愛したら駄目な子だから.....」


「その点は駄目じゃ無い。別に俺を好いてもらう必要は無いけど。恋愛しちゃ駄目って点は修復しないといけないな」


「.....え」


「.....お前は恋愛して良いんだ。過去に束縛される必要は無いんだ」


恋子は驚きながら目を丸くしている。

そう、思うんだ。

それでこの前、コイツらの母親が俺の夢に出て来たんだ。

絶対にそうだと思うから。


「.....恋子。俺はお前と想を必ず幸せにする。そして卒業させる。それが.....俺の最大の目標だ。今、ようやっと固く決意した」


「.....!」


「.....さあ、校舎に帰ろう」


「.....うん」


そして俺は目の前からやって来た想と共に笑みを浮かべた。

帰ろう、俺達の校舎に、場所に。

と思いながら。


「.....だから好きになりそうになるのよ」


「.....へ?」


「何でも無い」


小さく、何か恋子から聞こえた気がしたが。

気の所為だろうか?

恋子は赤くなりながら、俺にツーンとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る