第14話 家庭教師、想の思いに気付かされる

想が居ない事態に気が付いたのは3時間目辺りだった。

つまり、丁度2回目のテストが始まる前だ。

俺は青ざめていた。


想、ちょっと待ってくれよ。

学校から居なくなるなんて何を考えているのだ。

鞄を残して、そのまま去って行ったのもおかしいだろ。


まだ小テストは有るが、そんな事を気にしている場合じゃ無い。

とにかく彼女を探さなければ。

と思いながら教室から出て行こうとする手を、誰かが止めた。

柔らかい、女性の手が。


「.....ちょっと落ち着いて」


「.....落ち着く?バカか!想が居なくなったんだぞ!!!落ち着けるか!」


恋子の手を思いっきりに振り払う。

冗談じゃ無い。

こんな時に落ち着いて居られるか。

テストなんか.....。


「アンタ今、テストなんてどうでも良いと思ったでしょ」


「.....そうだ」


「大丈夫。もう既に手は打ってあるわ。使いの者に探させている。だから安心してテストを受けて。と言うか、受けなさい」


教師と生徒が逆の立場になっている。

俺はその様に思いながら、冷や汗を拭う。

そして深呼吸した。


「.....分かった」


「.....それに想の居場所が何と無く分かる。4時間目の中休みになったら.....行くわよ」


「.....分かった。流石は恋子だ.....」


「アンタが不安になると思って先に伝えとくから」


まさかの言葉に、俺は何とか笑みを絞り出して有難う、恋子。

その様に呟き、思いながら。

俺と恋子は不安が少し残る中で小テストを受けた。

絶対に見つけるぞ、想!



「.....それで、恋子。場所ってのは.....」


「.....想の性格は簡単に言えば、控えめ。つまり、一人になれる場所を好んだり、私が居る場所を好んだりするの。だから給水塔の上に居ると思う」


「.....マジかよ」


そして俺達は屋上までやって来て給水塔の上を見る。

しかし、想は居ない。

だとすると.....と恋子が顎に手を添えて、そして図書室の中に人気の無い隙間が有ったわよね?

と俺に聞いてきた。


「.....確かに有るが.....そこか?」


「図書室に入ったらバレる。つまり、その場所なら本が読めるし.....」


「.....だったら」


と俺は屋上で踵を返して走る。

すると、恋子が俺に向いて来た。

そして言ってくる。


「.....アンタは不思議な人ね」


「.....それは何時もだろ?」


「.....そうだった。つい呟いちゃったわね」


その事に俺は苦笑する。

そして図書室の中に入ってみる。

俺は大きい図書室で恋子に対して左を指差した。


「.....恋子はそっちにも隙間が有る。探してくれ」


「分かった」


「.....俺は右を探す」


図書委員が居ない様な図書室で。

右手の方角を探す。

そして所謂、本を仕舞う様な場所を開ける。

1回目の時だった。


「.....見つけたぞこの野郎」


「.....昌浩.....」


想が隙間で本を読んでいた。

丁度、人が1人、入れそうな隙間で有る。

まあ確かに小さな想なら入れる隙間。


「こんな場所で何やってんだお前。クソッタレが。心配掛けさせやがって.....」


「.....ごめんなさい」


「.....教室に戻るぞ。お前が見つかった事を恋子とか先生に言わないといけない」


「それは嫌」


まさかの事に何でだよ。

と俺は見開いてツッコミを入れる。

そして俺を潤んだ目で見つめてくる。


「.....な、何だよ?」


「.....なんで気付かないの私の気持ちに。昌浩」


「意味が分からない!ワガママもいい加減にしろよ。どれだけ心配したと思ってやがる」


「ワガママ!?私は.....昌浩.....貴方に気付いて欲しいだけ!!!」


まさかの突然の大声に。

は?ハァ!?と俺は愕然とする。

と同時に、もうこれじゃ駄目なのかなという呟きも聞こえた。


あまりにも意味が分からないと思っていると。

俺の胸ぐらが唐突に掴まれた。


「.....」


「!?」


そして、そのまま柔らかな感触を感じた。

想の唇で俺の唇が塞がれたのだ。

まさかの事だった。

一瞬、春風が吹いた様な。


「!!!?!」


「見つかった?.....って.....」


そうしていると、横から声がした。

棚の間をすり抜け、恋子が立っている。

その顔は酷く驚愕していた。

俺達のキスシーンを目撃した為に、だ。


「お姉.....!?」


キスしている唇を離して、恋子に驚愕する想。

俺は青ざめながらブンブンと手を振った。

ただひたすらに否定する様に。


「俺じゃ無い!」


すると、その言葉に分かってる、胸ぐらを掴んだ状況的にアンタがやったとは思えないし、と言葉を発して頷く、恋子。

恋子は静かに聞いた。


「.....想。.....もしかして」


「.....私は.....昌浩が好き」


「.....!!?」


いつの間にか好きになってた。

と想は告白して俺を見つめてくる。

真っ赤になっている。


「.....大好きだから。昌浩の事」


「.....嘘だろ.....お前!?」


「嘘じゃ無いよ。それで初キスを男の人にあげたりしないから」


俺は赤面になりながら自らの唇を撫でる。

恋子は愕然として、そして首を振る。

そして話し出した。


「.....こんなの認めない」


と、その様に言って去って行った。

俺は恋子を止めようとしたが。

止められ無かった。

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