第13話 家庭教師、自らの生徒が行方不明になる

恋子も想も多分、卒業が出来る。

その様に今の頑張りを見ながら、俺は思う。

二人をきっと、神様は見守ってくれているからだ。


「.....」


横に車に乗っている二人の姿を見ながら。

黒い車に俺も乗っていた。

実は、今日、夢を見たのだ。


多分、想と恋子の母親の声だ。

この様に聞こえた。


『あの二人がご迷惑をお掛けしてます。でも.....あの二人は良い子ですから.....これから先も宜しくお願いします』


俺はその声に答えた。

だが、どう答えたかは記憶に無い。

情けない事にその部分だけ.....覚える事が出来なかった。


「ちょっと」


「.....どうした?恋子」


「呼びかけているのに無視?何を考えているのアンタ」


「.....ああ。すまん。ちょっと呆然としていた。ごめんな」


そうだ。

俺は真剣に考えないといけない。

それだけじゃ無い。

前を見据えて、中間テストを頑張らないといけない。


「お嬢様方。間も無く学校で御座います」


「.....ああ、宮野。有難う」


宮野という車の運転手にその様に恋子は挨拶して。

そして車から下車してから。

目の前の学校を見た。


「.....昌浩。どうしたの」


「いや。何でも無い」


また俺は呆然とした様だな、いかんいかん。

コイツらを守って、卒業させて。

俺の役目はそれで終わりだ。

そしてその後はコイツらを優しく見守ってやろう、その様に思った。



「今日は抜き打ちの小テストをやるからなー。因みに成績に加えるから。気を付けてな」


「「「「「えー!」」」」」


まさか今日、この日に小テストが来るとは。

俺はその様に思いながら、顔を引き攣らせる。

科目は、数学だった。


つまり、恋子が苦手とする分野で有る。

想の方は.....と教科書を見ると。

何か、紙が挟まっていた。


「.....?.....また恋子か?」


しかし、今度は便箋が封筒に入っている。

可愛い花柄の便箋だ。

俺は?を浮かべながらその花柄の便箋を開けてみる。


(昌浩へ。私。想。実は小テストが有るって.....教えてもらった。お姉にも話している。えっと、二人きりの秘密でお願いが有る。もしこれで35点以上が取れたら。私と二人っきりで.....ショッピングに付いて来て欲しい。ご褒美に)


「.....は?ショッピング.....」


「須藤」


「.....おや?先生。いかがなされた?」


「.....廊下に立つか、反省文を書くか。どっちが良いかな?」


それはどっちも嫌だな。

俺はその様に思いながら、ハゲ頭の林道に苦笑。

そして頭をクルクル丸めてパコンと叩かれた。


「さて。みんな。小テストを配るぞ」


林道は俺を叩いてからガヤガヤする中で小テストを配り出した。

俺は真剣な顔で立ち向かう。

しかし一体、あの付き合ってとは何だ?

随分とまた.....と俺は思う。


「.....でも今は集中だな」


恋子を確認して、小テストをする。

頑張れ、恋子、想!

俺は祈りを込めてその様に思った。



「大丈夫か」


「疲れたわ。それも相当に」


「.....そうか。頑張ったな」


「アンタに言われるまでも無いわよ」


俺は恋子にそうか、と苦笑気味に答える。

すると、教室のドアが開いて想がやって来た。

俺達の元に、だ。


「.....お姉、昌浩。頑張ったよ。.....あ、えっと.....昌浩、ちょっと良い」


へ?と言っている俺の腕を引っ張る、想。

何事かと思っていたら教室の表へ出た。

そしてツインテを揺らしながら、モジモジする。

身長差が有る為、顔は窺い知れないが。


「.....えっと」


「.....どうしたんだ?想」


「私.....例えば。例えばだけど。例えば.....貴方と私が付き合いたいって言ったら.....どうする。た、例えばだけど。例えばだから」


「.....へ?」


まさかの言葉に俺は見開く。

すると、想は顔を赤くしながら俺を見てきた。

例えば?.....例えば、か。


「.....俺と付き合うのは間違っている。.....俺はお前らとは釣り合わない。俺は家庭教師.....」


「えっと、家庭教師としてじゃ無かったら私と付き合えるか、どうかって聞いてる」


「か、家庭教師としてじゃ無くて?何でそうなる?」


何でこんな話をするのだ想は?

真面目にちょっと意味が分からないんだが。

俺はその様に思いながら、困惑する。

すると、想はその間に更に詰め寄って来た。


「.....こ、答えて。お願い」


「.....そうは言ってもな.....」


「えっと、な、なんで困惑するの」


「.....困惑して無い。だけどな.....俺は.....やっぱり付き合えないと選択するかも知れない。何故なら.....お前と俺は.....身分で天地の差が有る。やっぱり無理だ」


この俺の言葉に。

酷くショックの顔を浮かべた、想。

そして、そ、そう、と言いながら悲しげな顔で去って行く。


そして、別れてから直ぐに想が学校から行方不明になった。

俺は衝撃を受ける。

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