第13話 家庭教師、自らの生徒が行方不明になる
恋子も想も多分、卒業が出来る。
その様に今の頑張りを見ながら、俺は思う。
二人をきっと、神様は見守ってくれているからだ。
「.....」
横に車に乗っている二人の姿を見ながら。
黒い車に俺も乗っていた。
実は、今日、夢を見たのだ。
多分、想と恋子の母親の声だ。
この様に聞こえた。
『あの二人がご迷惑をお掛けしてます。でも.....あの二人は良い子ですから.....これから先も宜しくお願いします』
俺はその声に答えた。
だが、どう答えたかは記憶に無い。
情けない事にその部分だけ.....覚える事が出来なかった。
「ちょっと」
「.....どうした?恋子」
「呼びかけているのに無視?何を考えているのアンタ」
「.....ああ。すまん。ちょっと呆然としていた。ごめんな」
そうだ。
俺は真剣に考えないといけない。
それだけじゃ無い。
前を見据えて、中間テストを頑張らないといけない。
「お嬢様方。間も無く学校で御座います」
「.....ああ、宮野。有難う」
宮野という車の運転手にその様に恋子は挨拶して。
そして車から下車してから。
目の前の学校を見た。
「.....昌浩。どうしたの」
「いや。何でも無い」
また俺は呆然とした様だな、いかんいかん。
コイツらを守って、卒業させて。
俺の役目はそれで終わりだ。
そしてその後はコイツらを優しく見守ってやろう、その様に思った。
☆
「今日は抜き打ちの小テストをやるからなー。因みに成績に加えるから。気を付けてな」
「「「「「えー!」」」」」
まさか今日、この日に小テストが来るとは。
俺はその様に思いながら、顔を引き攣らせる。
科目は、数学だった。
つまり、恋子が苦手とする分野で有る。
想の方は.....と教科書を見ると。
何か、紙が挟まっていた。
「.....?.....また恋子か?」
しかし、今度は便箋が封筒に入っている。
可愛い花柄の便箋だ。
俺は?を浮かべながらその花柄の便箋を開けてみる。
(昌浩へ。私。想。実は小テストが有るって.....教えてもらった。お姉にも話している。えっと、二人きりの秘密でお願いが有る。もしこれで35点以上が取れたら。私と二人っきりで.....ショッピングに付いて来て欲しい。ご褒美に)
「.....は?ショッピング.....」
「須藤」
「.....おや?先生。いかがなされた?」
「.....廊下に立つか、反省文を書くか。どっちが良いかな?」
それはどっちも嫌だな。
俺はその様に思いながら、ハゲ頭の林道に苦笑。
そして頭をクルクル丸めてパコンと叩かれた。
「さて。みんな。小テストを配るぞ」
林道は俺を叩いてからガヤガヤする中で小テストを配り出した。
俺は真剣な顔で立ち向かう。
しかし一体、あの付き合ってとは何だ?
随分とまた.....と俺は思う。
「.....でも今は集中だな」
恋子を確認して、小テストをする。
頑張れ、恋子、想!
俺は祈りを込めてその様に思った。
☆
「大丈夫か」
「疲れたわ。それも相当に」
「.....そうか。頑張ったな」
「アンタに言われるまでも無いわよ」
俺は恋子にそうか、と苦笑気味に答える。
すると、教室のドアが開いて想がやって来た。
俺達の元に、だ。
「.....お姉、昌浩。頑張ったよ。.....あ、えっと.....昌浩、ちょっと良い」
へ?と言っている俺の腕を引っ張る、想。
何事かと思っていたら教室の表へ出た。
そしてツインテを揺らしながら、モジモジする。
身長差が有る為、顔は窺い知れないが。
「.....えっと」
「.....どうしたんだ?想」
「私.....例えば。例えばだけど。例えば.....貴方と私が付き合いたいって言ったら.....どうする。た、例えばだけど。例えばだから」
「.....へ?」
まさかの言葉に俺は見開く。
すると、想は顔を赤くしながら俺を見てきた。
例えば?.....例えば、か。
「.....俺と付き合うのは間違っている。.....俺はお前らとは釣り合わない。俺は家庭教師.....」
「えっと、家庭教師としてじゃ無かったら私と付き合えるか、どうかって聞いてる」
「か、家庭教師としてじゃ無くて?何でそうなる?」
何でこんな話をするのだ想は?
真面目にちょっと意味が分からないんだが。
俺はその様に思いながら、困惑する。
すると、想はその間に更に詰め寄って来た。
「.....こ、答えて。お願い」
「.....そうは言ってもな.....」
「えっと、な、なんで困惑するの」
「.....困惑して無い。だけどな.....俺は.....やっぱり付き合えないと選択するかも知れない。何故なら.....お前と俺は.....身分で天地の差が有る。やっぱり無理だ」
この俺の言葉に。
酷くショックの顔を浮かべた、想。
そして、そ、そう、と言いながら悲しげな顔で去って行く。
そして、別れてから直ぐに想が学校から行方不明になった。
俺は衝撃を受ける。
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