第9話 家庭教師、解雇するかも知れないと聞く
家に帰宅してから、俺は静かに目の前を見つめていた。
妹達はランドセルを置いて遊びに行っている様だ。
母さんは仕事だろう。
一軒家のボロ家、俺の部屋とかは無い場所にてただ考える。
「.....恋子が秘密を見せてくれた。それに応えれる程の人間にならないとな」
日が入る畳部屋にて思う。
それだけ俺は信頼されているという事だろう。
それとも試されていると表現した方が正しいのか。
とにかく、俺は応えたい。
恋子と想の最大の問いに。
だ、それが俺に課せられた宿題だと思う。
俺は顎に手を添えて、目の前の小テストの結果を見る。
やはり最悪の0点だった。
「.....何とかしないとな。俺も家庭教師なんだから」
俺は必死にノートを、教科書を捲る。
取り敢えず、範囲の復習。
そして中間テストに備えなければいけない。
此処が正念場だ。
プルルルル
「.....?」
そう思っている時だ。
持っているスマホに電話が掛かってきた。
俺はスマホの画面を首を傾げながら見つめる。
そこには、非通知と書かれている。
非通知?珍しいな。
「.....もしもし?」
『もしもし。君は家庭教師の須藤くんかね』
「.....アンタ誰だ?」
『いきなりの電話失礼する。私は.....恋子と想の父親。天下王手(てんかおうて)だ』
何.....!?
俺は驚愕しながら、直ぐにイヤホンを着けた。
よく聞こえる様にする為だ。
因みにイヤホンは中古品の為、右は壊れているが。
「.....そ、それでお父様が何故、お電話を」
『君にお父様と呼ばれる筋合いは無いな。だが.....そんな事は良い。家庭教師、須藤昌浩くん』
「.....は、はい」
『.....君には娘達の保護人としての責任を果たしてもらう。万が一、今度の20日の中間テストで赤点をクリアし損ねた場合』
冷や汗を流しながら、俺は聴き続ける。
すると、予想外の言葉が飛んできた。
『君の家庭教師費用を全額返金してもらい、家庭教師としての資格を剥奪する』
「.....!!!」
何、無理だろ。
費用、金は良いが剥奪って!
そんな馬鹿な!
『厳しい様だが、これは当然の事だ。これまで幾度と無く家庭教師が失敗してきたのでね。家庭教師の力を見定める為に此処は厳しく評価をさせてもらう』
「.....テストは5科目有りますが?」
『その一つでも失敗した場合、君には責任を取ってもらう。能天気に家庭教育をしてもらっても困るのでね』
言葉に歯を食い縛った。
そして俺は息を吸い込む。
今の状況で0点なのに、無理だ.....
『家庭教師さん』
『家庭教師』
「.....いや。俺はやってみせます」
『.....それだけ期待させてくれるという事は、赤点は回避出来るのだな?』
はい、と俺は応えた。
あいつらの為ならやってやる。
赤点なんか回避してやる。
今からまだ14日ある。
「.....俺は.....やり遂げます」
『.....そうか。期待している』
そして、連絡が切れた。
俺はツーツー鳴る、スマホを見ながら。
意を決して立ち上がる。
カレンダーを見ながら、顔付きを複雑にした。
勝つ。
そう、思いながら、だ。
☆
「中間考査が有る。そこで赤点を回避しなければ俺は教師の資格を剥奪される」
「.....え.....」
恋子と想の家にてその事を話す。
顔を見合わせて、驚愕する、二人。
その二人に俺は苦笑しながら言った。
「.....でもお前らが俺の事を気に入らないのなら、このままでも良いと思っ.....」
「嫌です」
少し弱音が出てしまいそうになった時。
想がその様に話して、立ち上がる。
そして俺を見つめてくる。
「私は貴方以外の家庭教師にするなら勉強を止めると思います」
「そ、想!?」
「せっかく上手くいっているのに。貴方は何を言っているんですか?」
俺に近づいて来る、想。
そしてジッと俺を見据えてくる。
俺の手の中に有る、教科書を奪った。
「.....やります。私は。貴方をあっと言わせてみせます。お姉」
「.....」
恋子を見ると、赤面した。
そして盛大に溜息を吐いて、俺の手から教科書を奪う。
それから教科書を広げ、ノートを出した。
「.....やるから。アンタの付き合って」
「.....お前ら.....」
「「貴方は家庭教師なんでしょ」」
その様に、声を合わせて話す二人。
弱気になっていた、俺が励まされるぐらいだった。
俺は二人に顔を向ける。
「.....14日しかない。頑張れるか」
「.....アンタが頑張ってよね」
「お姉の言う通り。作戦は有るの」
だんだんと鍵が形成されてきた。
後は宝箱を開けるだけかも知れない。
俺はその様に思いながら、頷く。
「.....今回はただ教えるだけじゃ無い。お前らの得意分野と不得意分野。それを混合して勉強を考える。例えば、お前の好きなのは国語か。想」
「.....そうだけど.....」
「.....だったら国語の中にスパイスとして英語を混ぜる。そして物語を考えたりするんだ。英語に興味を持てる様にな。例えば、宮沢賢治の銀河鉄道の夜の一部に英語を混ぜる。その後に興味の有る、恋子を基本的に考えるんだ」
つまり、最初のは一石二鳥のやり方?
と恋子が聞いてくる。
そうだ。
その次は想の苦手な英語の単語を考えていく。
それは恋子の事を基本にして、だ。
特に興味の有る分野に混ぜると覚えやすいんだ。
だけど、ストレッチは必要だからな。
その後だ。
「恋子。お前が得意なのは英語で苦手なのは.....数学だったな。料理と数学を足して考えていくぞ」
「.....料理+数学」
「料理に数学を混ぜて考える。その場合は教材も有るのだが.....。ちょっと高いが、お前らの家庭教師の給料で買ってくる」
とにかく、今は得意分野と不得意分野の区別を大幅につけて。
この後は数学は解くしかないし、英語は覚えるしか無い。
とにかく、一分一秒も無駄に出来ない。
攻撃開始だ。
時間は無い、急がなければ。
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