第8話 家庭教師、想と恋子の(問い)に挑む

何だろうか、少しだけでも.....俺は恋子に近付けただろうか。

俺はその様に思いながら、授業を受ける。

恋子は斜め下で授業を受けていた。


「.....お。この問題あいつらに.....って。俺も完全に家庭教師だな」


俺はノートを見ながら、そのメモを作っている自分に苦笑した。

そして目の前を見つめる。

黒板を必死に書き留めながら、俺は頭の中であいつらの得意分野を模索していた。

未だにまだ得意分野とか聞き出せて無いので。


「さて.....」


と思いながら俺は教科書を見る。

そこに何か挟まっている。

ん?何だこれ?


「.....恋子.....!?」


俺は目の前の恋子を見ると目が合った。

恋子は驚愕しながら、前を見る。

何だ?一体。


「.....?」


(アンタの事を随分と見直した。アンタならきっと.....やってくれるかも知れない)


「.....何をだ?」


首を傾げて思って顔を上げると。

目の前に教師が立っていた。

うわっ、しまっ。


「何をやっているか知らないけど、楽しいか?須藤?」


「た、楽しいっすよ?」


そうか、俺は楽しく無いぞ。

言われ、パコンと思いっきり頭をぶっ叩かれて。

そして廊下に立たされた。

俺は苦笑いして盛大に溜息を吐いて、そして天井を見る。


「.....一体.....どういう意味なんだろうか」


そんな感じで考えながら、だ。

俺はメモを見つめながら思った。



「.....何やってんのよ?アンタ」


「.....お前のメモを見ていたんだよ。それで教師に気が付かなかった」


「.....ああ、あのメモ.....そんなに気になった点が有った?」


「有り有りだろ」


ふーん、そんな小さな事も気にしてくれるのね。

と上の空の様に話す、恋子。

俺はその恋子に苦笑しながらメモを見つつ恋子に尋ねる。


「このメモの意味は何なんだ?」


「.....そのうち、分かるわ。今は.....駄目」


「.....意味分からないんだが.....」


じゃあ、何でこのメモをくれたのだ。

俺はその様に思いながら、恋子を見る。

恋子は赤くなりながら、横をプイッと向いた。

その際に見開く。


「.....想?」


「.....家庭教師さんは居る」


「.....ああ、居るぞ。どうした?」


「.....私は勉強が嫌い。だけど.....貴方の様子を見ていたら何だか変わった」


俺は首を傾げる。

すると想が何かを見せてきた。

教科書、ノート。


「.....勉強を教えて」


「.....!!?」


「え!?ちょっと、想!?嘘でしょ!?」


恋子が驚愕した様に席から立ち上がる。

俺も見開いていた。

まさか想からそんな言葉が出るとは思わなかったのだ。

予想外の言葉で有る。


「.....せっかく家庭教師が居るんだから利用しないと駄目だから.....ね。それに小テストも近いから頑張ってみる」


「.....想。随分と成長したな。お前」


「.....想.....」


信じられないという感じの目で想を見る、恋子。

想はそんな恋子に対して、頷いた。

そして俺に向いてくる。


「.....お姉も随分と貴方を認めてきていると思う。だから頑張って。応援しているよ」


「なっ!?そんな事.....」


恋子は困惑した様に俯く。

俺は信じられないという感じの目を向ける。

恋子も変わってきているのか?


「.....私は別に.....アンタが嫌いだから.....」


「でも今までよりかは変わったよね。お姉」


「.....」


その事を話して、想は俺に勉強道具を見せてきた。

少しだけ口角を上げる、想。

俺はそんな姿に笑みを浮かべた。


「.....じゃあ、時間ギリギリまで教えてやるよ」


「.....はい」


「.....」


恋子は側で見てる。

と呟いて、そして俺は想に勉強を教える事になった。

家庭教師として、始動する事になった日だ。



休み時間が終わって、授業も終わって放課後。

俺は欠伸をしていた。

そして何時もの通り、一人で帰ろうとした時だ。


「ねえ」


「.....ど、どうした?恋子」


「.....一緒に帰らない?送ってあげるから」


「!!!?!」


顎が落ちた。

天が落ちてくるかと思うぐらいに。

衝撃的な告白に驚愕する。


「.....どうした!?お前!?」


「何でそんなに驚愕するの。アンタいつも私の家に来ているじゃ無い」


「.....まぁ、そうだが.....!?」


「.....とにかく、車が来るまで時間が無いから。早く乗って」


俺の腕を掴んで、歩き出す恋子。

半ば強制的な感じで下駄箱までやって来た。

目の前に朝の黒い車が停まっている。



「.....」


「.....」


「.....」


無言で黒い車の中に居る、俺。

驚愕した。

何故なら、冷蔵庫が付いているのだ。

有り得なさすぎる。


「.....どういう風の吹き回しだ。恋子」


やっと言葉が出た。

その様に話すと、恋子は俺を尻目にして外を見る。

それから、言葉を発した。


「.....一応、お詫びって感じだから」


「.....そうなのか」


「.....そう。それ以外、何も無い」


そうなのかと納得しながら恋子を見ていると。

俺の横に居た想が耳打ちしてきた。


「.....珍しいですよ。お姉がこんな積極的になるなんて」


「.....だな」


「ちょっと。何を話しているの」


何も話して無いぞ。

俺は言いながら、外を見る。


見た事も無い景色だ。

何処に連れて行く気だ?

と思っていると、質問に答える様に恋子が話した。


「.....アンタは私に似ている。だから望みを叶えてくれると思って」


「.....?」


気が付くと俺達はこの街の海沿いに墓地に着いた。

俺は見開きながら、ドアをお手伝い?さんが開けて外に出る。

降りてからさっさと恋子は歩いて行く。


「.....恋子。此処は.....」


「私達の母親が眠っている場所」


「.....!」


「お姉.....珍しいね。こんな場所に.....他人を連れて来るなんて」


想が動揺しながらそれを言うぐらいだ。

相当に珍しいのだと思うが。


と、思っていると、一番眺めのいい場所にポツンと。

墓石と墓が有った。

俺は驚く。


「.....どういう.....」


「.....私達の家庭教師だよね。アンタは」


「.....そ、そうだが?」


「じゃあ、この問を解決してほしい」


恋子の言葉に俺はクエスチョンマークを浮かべる。

そして目の前の墓を見た。


「.....私達に母親は有る言葉を残したの。その言葉は


(私は愛せなかった。代わりにお願い。真実の愛を貴方達が見つけて)


これが問題」


「.....お姉!そこまで教えるの.....」


想が大慌てに慌てる。

他人に秘密を教えるのが相当に珍しい様だ。

しかしその言葉.....。


「.....アンタなら解決してくれる。そんな気がしたから」


俺は驚愕した。

恋子は震えながら、涙を流したのだ。

初めて見る、涙である。


「お、お姉.....」


「.....解決する」


「.....え?」


目の前を見て、俺は強く頷いた。

潮風がなびく中。

俺は決意した。


「.....家庭教師として。俺はその問題を解決してやる。お前の悲しみを.....和らげてやる」


「.....なんでそんなにやってくれるの.....一家庭教師が.....」


「俺は.....」




『誰かを救う、立派な大人になれ』




「.....俺は家庭教師としてお前らを救うのが.....俺だからだ」


5月の初め。

俺はその様に決心して、目の前を見る。

恋子の涙を拭った。


「.....俺はお前を、想を助ける」


その俺の笑みを浮かべる姿にハッとして。

涙を拭う、恋子。

そしてキッと俺を睨む。


「べ、別に期待してないから.....」


「.....何だろう。お前はツンデレ属性だな。ハッハッハ」


「.....馬鹿にしないで!」


そして潮風に当てられながら恋子に追いかけ回され、草原を走る俺。

今はただひたすらに今を。

幸せに、と考えた。

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