第16話 SSの魔石 2


 

 ◆


「あっははー! 何これー! 超可愛ー」

 マキが俺の頭の上にいる魔獣(?)を指さして言った。

「こ、これが――魔獣?」

 アビゲイルが怪訝そうな声を出した。

「ゴードン。お主、見たことはあるか?」


「いや、初めて見た」

 ゴードンは顎に手を当て、まじまじと見つめた。

「おそらく、ドラゴンの一種だと思うが――こんな種類は見たことがない」

「あ、あの、大丈夫そうですか?」

 と、俺はおそるおそる聞いた。

 とりあえず――頭が重い。


 キューン、と、頭の上の「何か」が鳴いた。


「やー! 鳴き声も超可愛い! ねね、アビちゃん! 抱っこしていい?」

 マキが身もだえしながら言う。

「待て」

 と、アビゲイルは警戒を解かず、ぴしゃりと言った。

「まずは私が触る」

 アビゲイルはそう言って俺に近づき、そうっとそいつを抱きかかえた。


 俺はその時、初めて「魔獣」の姿を見た。

 金色に輝くふさふさの毛に、大きな耳。

 顔はキツネに近い。

 額には一角獣のような長い角が生えている。

その両脇には、ミミズクのように羽角もぴょこりとついていた。


 そして、どう転んでも飛べそうにない、お飾りのような羽が生えている。

 マキではないが――たしかにちょっと可愛い。


「キューン」

 魔獣はもう一度鳴き、目を細めて、アビゲイルの胸に頬をすりすりした。


「ず、随分なついとるな」

 ゴードンが言った。

「う、うむ。そのようだな」

 アビゲイルは少し戸惑っている。

「やーん! ずるいー! 私にも抱っこさせてよー」

 マキが地団太を踏んだ。

「あ、ああ、とりあえず、害は無さそうだ」

 アビゲイルはそう言って、マキに「魔獣」を手渡した。


 マキは受けとるなりきゃーと嬌声を上げて、そいつを撫でまわした。

まるでペットショップを見学にきた女の子みたい。


「こいつをどう見る、ゴードン」

 と、アビゲイルはゴードンに向かって聞いた。

「この魔獣。どんな能力があると思う」

「さて。見当もつきまへんな。一応、角と羽が生えとることと、手が鉤爪状になっとるちゅーことは、ドラゴンの類や思いますが――こいつみたいに全身に毛の生えたドラゴン言うのは、見たことも聞いたこともありまへん」

「魔力も感じないし、ひどく脆弱に見えるな。少なくとも、戦闘には向いてなさそうだ」

「ま、様子をみるしかありまへんな」

 と、そうゴードンが言った時、マキが「きゃっ」と小さく叫んだ。


 目をやると、魔獣がマキの手元から離れ、俺の元へと飛んできた。

 それから魔獣は俺の肩に乗り、すりすりと体を寄せ始める。

「あらー」

 マキが微笑みながら言った。

「どうやら、召喚主さんが一番のお気に入りみたいね」


「で、どうしまっか? アビゲイル大佐」

 と、ゴードンが問うた。

「この「魔獣」、連れていきます? とりあえずは、なんの能力もなさそうでっけど」

「当然よ! 絶対に連れていくっ!」

 マキは言った。


「……そうだな。黒魔石から出て来たのだ。この魔獣も、何らかの役に立つかもしれん」

「そうですな。まあ、災いをもたらすようにも見えんへんし」


「じゃあ決まりね!」

 マキはぱちん、と手を打った。

「のちほど、色々調べてみてからだがな」

 戒めるように、アビゲイルが付け足す。


「よーし、じゃ、これで、今回のパーティが全員揃ったね」

マキが言った。


「うむ。そうだな」

 とアビゲイルが頷いた。


パーティ、か。

俺はそこにいる人たちを改めて見渡した。


 世界樹ガチャを引きまくる冒険。

 女剣士・アビゲイル。

 魔法使い・マキ。

 魔石鑑定士・ゴードン。

 そして――村人Aの俺と、漆黒の魔石から生まれた謎の魔獣。


これが、俺たちの隊。

 王が言ったように、このメンツはおそらくこのダーダリアン国における最強メンバーと言える(俺以外は、だけど)だろう。


 ただ――。

 と、俺は少し俯いた。

頭に、あいつの顔が浮かんでいた。


「どうした?」

 と、アビゲイルが問う。

「どうしたのー?」

 マキも少し心配そうに顔を覗いて来る。


 俺は――きっと顔を上げて、アビゲイルを見た。

 そして、思い切って言った。

「あの、大佐。実は一つだけ、お願いがあるのですが――」


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