第17話 旅立ちの朝


 ◆


 二日後の早朝。


 俺とアビゲイル大佐、それからマキの3人は城の前に集まっていた。


 まだ辺りは薄暗く、鳥たちの鳴き声さえ聞こえない。

 門扉の前には濃い朝靄が幻想的な景色を包み込んでおり、そこから城下を見下ろすと、レンガの連なる家並みは水を打ったように沈黙していた。

 街はまだ眠りについている。


「おっそいねー」

 と、マキがちょっと焦れたように言った。

「んもー。商売人なら、時間は守ってよねー」

「ふむ。何かあったのかもしれんな」

 アビゲイルが時計を視認しながら言った。

「ユウスケ。お前、何か聞いていないか」


「えーっと、たしか、商売の引き継ぎや部屋の整理とかが大変だって言ってましたけど。なにしろ、急に決まったものだからって」

「何よそれー。言っとくけど、私だってもっとお洒落しようと思ってたんだからねー。でも、遅刻はまずいからって切り上げてきたんだから。本当は、髪型ももっとばっちり決めたかったのに」

「遊びに行くのではないぞ、マキ」

「分かってるよー」

 マキは口をとがらせて、足元の石を蹴りあげた。

「でもさー、マジな話、大佐を待たせるってどうなのよー? 国王軍の兵士だったら、懲罰ものだよー」

「ちょ、ちょっとまってあげてください」

 俺は慌てて言った。

「きっと、もうじき来ますから」

「おーい」

 と、ちょうどそう言った時、遠くから声が聞こえてきた。


 早朝の街を目覚めさせるような、元気な声だ。


 やがて霧の中から、小柄で可愛らしい女の子の姿が浮かび上がってきた。

 コトトである。

 ゴードンではない。


 実は昨夜――。

 あれから、俺はコトトをパーティに入れてくれと大佐たちに頼み込んだ。

 無理は承知だった。

 だが俺は、どうしても、彼女を入れてやりたかったのだ。


 マキは反対した。

 足手まといはユウスケだけで十分。

 素人の女の子なんて必要ない。

 大佐もそれは同意見だった。

 今回のミッションは王から直接命じられた重要な任務だ。

 鑑定士として未熟なものを連れていくわけにはいかない、ということだった。


 だが――。

 ゴードンは俺の意見に賛成だった。

 彼は街の商人たちを取りまとめているため、旅に出ること自体に消極的であった。

 ゆえに彼は、コトトは優秀な鑑定士であることを彼女らに必死に説いた。


 それでも納得しない大佐に、ゴードンはとある提案をした。

「もしもコトトに分からないことがあれば、『通信用の魔石』を使って連絡が可能なようにする」

 というのである。

この魔石は特殊系の魔石で、それぞれ対になっており、とても貴重で特殊なのものらしい。


 大佐は渋ったが、結局はそれに賛同した。

 ただし。

 『不都合があるようであれば、その時点でコトトは城に返し、ゴードンが旅に加わるように』

 という、条件付きで、だ。


 ただ、そうなるとひとつ問題が生まれる。

 荷物持ちを誰がするのか、ということだ。


 しかし、実はそれは意外な方法で解決した。

 何のとりえもないと思っていた、レア度SSから生まれた魔獣。


その魔獣の能力が分かったのだ。

(ちなみにこの魔獣、マキに『ポチ』と名付けられた)


 ポチはチビだが、実は腹に巨大に広がる「ふくろ」を持っていたのだ。

 そこは異空間のようになっていて、荷物がいくらでも入り、簡単に取り出せる。


 この能力を知ったゴードンは、とても驚いていた。

 どうやら、聞いたことも見たこともなかったらしい。

 さすがはレア度SSの魔石獣と感心しきりであった。

 (あと、めちゃくちゃ欲しそうでもあった。道具を収納できる魔獣は、商売人にとっては垂涎の品らしい)


 ◆


「もう、やっときた」

 マキは頬を膨らませながら言った。

「ったく、先が思いやられるわねー」

「ごめんなさいっ! ちょっと、師匠の話が長くって」

 コトトは息を切らしながら、ぺこぺこと頭を下げた。

 だが、表情はとても晴れやかで嬉しそうである。


 他方、マキはご立腹の様子だ。

「せっかくアビちゃんが、ユウスケのお願いを聞いてあげたって言うのにさー」

「すみません。すみませんっ」

 コトトはひたすら頭を下げた。

「大佐様。本当に申し訳ありませんでしたっ」

「まあよい」

 アビゲイル大佐が言った。

「だが、これからは規律は守るようにしろ」

「はいっ」

 コトトはぎこちなく敬礼をして、背筋を伸ばした。


「では、出発だ」

 アビゲイルが右手を上げ、歩きだした。

「オー!」

「おお!」

「はーい」

 俺たちはそれぞれ、気合を入れながら、大佐について歩きだす。

 

 こうして、俺たちの旅が始まった。


 城をでるとき、

「キューン!」

 俺の頭の上で、ポチがひと際大きく鳴いた。




   ★   ★   ★



 出発時に全員が装備している魔石 一覧


 ● 剣士 アビゲイル 装備魔石 4つ


 攻撃力50%アップの魔石 レア度 S

 

 スピード50%アップの魔石 レア度 A


 防御力50%アップの魔石 レア度 A


 魔法ダメージ30%オフの魔石 レア度 A (特殊系魔石)



 ● 魔法使い マキ 装備魔石 3つ


 魔力30%アップの魔石 レア度 B


 魔石獣『火蛇(カシャ)』召喚の魔石 レア度 S


 魔法消費量50%オフの魔石 レア度 S (特殊系魔石)



 ● 商人 コトト 装備魔石 2つ


 スピード 50%アップの魔石 レア度 A


 通信用の魔石 レア度 S (特殊系魔石)

 

 

 ● 村人 ユウスケ 装備魔石 2つ


 スタミナ 50%アップの魔石 レア度 A


 荷物持ち魔石獣『ポチ』召喚の魔石 レア度 SS


 




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