第15話 SSの魔石


 ◆


「さんせーいっ」

 マキが両手を上げた。

「私も、スーパーレア魔石見たいっ!」


「お願い出来るか?」

 アビゲイルが俺を見た。


「わ、わかりました」

 俺はポケットから昼間手に入れた魔石を取りだした。

「うっわー、これかー!」

 マキが興奮したように言った。

「ほんとに黒い! すっごー! こんなの、初めて見た!」

「これが、どうかしましたか?」

 と、俺は聞いた。

「ふむ。もう知っているとは思うが、その魔石は非常に珍しく、かつものすごい可能性を秘めたものだ。国の鑑定士によれば、魔力は非常に貧弱らしいが――出来るなら、それを一度、ここで発動させてくれないか」

「発動――ですか?」

「うむ。その魔石は召喚系だ。出来れば、旅に出る前に、その能力をこの目で確かめておきたい」

「そ、それはいいですけど――大丈夫ですかね? その、なんかものすごいものが出てきたりしたら」

「おそらく大丈夫や」

 と、代わりにゴードンが言った。

「本当ですか?」

 と、俺。

「おうよ。その魔石を鑑定したのはわしやからな。大体魔石っちゅーのはな、レア度が高いからと言って、すごい能力があるとは限らんのよ。ま、せやからこそ、王もお前からこの魔石を取り上げんかったんやろうしな」

「それに、ここにはアビちゃんがいるしね」

 と、マキが言った。

「仮に恐ろしいモンスターが出ても、大概は倒してくれるよ」

「そ、そうですよね」

 俺はうん、と頷いた。

 逆に言うと、今はこの魔石を試すのにはうってつけであるということだ。

「あの、発動っていうのは、具体的にどうすればいいんですか?」

「その魔石を握るか、あるいはキットに入れるかして、『聖歌(アリア)』と唱えるのだ」

「わ、分かりました」

 俺は魔石を握りしめた。

 そして――


 『聖歌アリア』と、唱えた。


 ◆


 次の瞬間、黒い光が指の隙間から大量にあふれだした。

 光はまるで意志があるかのように、駄々広い室内を暴れ回った。

「な、なんだこれ」

 俺は言った。

「そのままにしていろ」

 アビゲイルが言い、剣を抜いた。

「魔獣を召喚する時には必ず漏れる光だ」

 言葉とは裏腹に、声は張り詰めていた。

「不味いんやないか」

 と、ゴードンが眩しそうに目を細めながら言った。

「こんな量の光は見たことないで」

「どうする? アビちゃん。中止する?」

 マキが問う。

「いや」

 アビゲイルは短く首を振った。

「魔獣が召喚者を襲うことはまずないはずだ。よって、このまま続ける」

「お、おい、あんたらぁはええかもしれんけど、ワシはそんな強ぅないで!」

 ゴードンが焦った声を出す。

「なんとかしなさい。男でしょう」

 アビゲイルが言う。

「んな滅茶苦茶な」

 ゴードンは顔をひきつらせながら言った。

「やっぱり、黒魔石だけは他の石をちゃうわ。もっと慎重にやるんやった」


 喧騒に拍車をかけるように、光はさらに強く、さらに激しく暴れ始めた。

 俺はもう目を開けていられなくなった。

 と、黒光は一層激しく燃えるように輝き、そして――

 音もなく、破裂した。


「キャア!」

 マキの声が響く。

「ぬおおおおおお」

 ゴードンが雄たけびを上げる。


 そして次の瞬間――光は急激に収まり、室内には静寂が落ちた。


「な、何が出た?」

 アビゲイルは室内をきょろきょろと見回した。

「どこにいる! 魔獣よ!」

「お、おらへんな」

 と、ゴードン。

「し、失敗したのかしらー」

 と、マキ。


「……あの」

 と、俺は言った。

「多分、俺の頭の上に、何かいます」

 


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