第9話 暗黒の魔石


 ◆


「はあ、なんか、えらいことになっちゃったな」

 と、俺は深い息を吐いた。

「君のせいでしょ」

 コトトはじろりと、俺を見た。

「たしかにレアなものを引けとは言ったけど、あんなとんでもないものを引けとは言ってない」


「そ、そんなこと言ったって」

 俺は鉄格子の向こうに目をやった。

 オレンジに染まる空を、見たことのないような形の鳥が優雅に旋回していた。


 俺たちは今、城内の牢屋にいる。

 と言っても、罪人を入れるような場所では無く、規律違反を犯した軍人を入れる懲罰房のような場所らしい。

 ただ、拘束もされていないし、食事や飲み物は用意してくれた。

 罪人、という扱いでは無い様子である。


「俺たち、どうなるのかな」

 俺は言った。

「分かんない。でも、ユウスケは特殊能力を使っちゃったからね……もしもそれが神聖な儀を穢したと判断されたら――やばいかも」

「やばいって、どうなるの?」

「よくて島流しの国外追放。悪ければ――」

 コトトはそこで言葉を切り、はあ、と深いため息をついた。


「あの魔石、そんなにやばいの?」

 と、俺は聞いた。

「ヤバいなんてもんじゃないわよ」

 と、コトト。

「いい? あれはね、レア度SSのスーパーレア魔石なの。5本の世界樹の内、1~2個しか取れない、文字通り伝説クラスの魔石。文官も、まさかそんなものが出るなんて思ってなかったから、説明を省いたのね。あたしも実物を見たのはもちろん初めて」

 はあ、と深いため息。

 俺はぶるり、と体を震わせた。


「売ったらどれくらいになる?」

 場違いに、そんなことを聞いてみる。

「さあ……多分値段なんてつかないわね。国宝級のお宝だもの。それでも強いて言うなら、レア度Aの石で一番安くても100万カル(1カル=20円くらい)だから、SSは安くともその10倍……いや、30倍はつくわね。能力の種類によってはそのさらに10倍、いや50倍か――」

 日本円で言うと、最低6億だ。


 さらに、ものによっては300億以上? 

 ……そりゃあ大騒ぎになるよな。

「ま……まじっすか」

 俺は背中に冷たい汗をかいた。

 とんでもないものを当ててしまった。


「まさか、君の能力がこんなにすさまじいとは」

 と、コトトは頭を抱えた。

「そ、そんなこと言ったって……」

 俺は体育座りをした。


「ああ、やっぱり師匠の言うとおりだった。ボロい話には、絶対落とし穴があるんだ」

 コトトが嘆く。

「ボロい商売?」

「私、ユウスケを見て一番最初に思ったもん。この子――使いやすそうって」

「……使いやすいって――コトト、俺を見てわくわくしたって言ってたじゃん」」

「うん。簡単に金儲けできそうだなって、わくわくしたの」

 がく、と俺はうなだれた。


 ずいぶんとリアリストなのね。

 さすが商人。

 ……あのとき、ドキドキして損した。


「とにかく、あとは神に祈るだけね……まあ、王様は慈悲深いお方のはずだから――」

 コトトは言葉とは裏腹に、不安そうに言う。

「なんか、思う、とか、はず、とか、多くない?」

「しょうがないでしょ。こんな事態、初めてなんだから。ともかく、王の人柄に期待するしか」


 がちゃり。


 と、その時、懲罰部屋の重い錠の開く音がした。

 カツーンカツーン、と固い靴の音がする。


 やがて兵士が現れ、牢の錠を解いた。

「出ろ」

 兵士が牢の向こうから言った。

「国王様から、直接お前たちにお話があるそうだ」


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