第7話 魔石鑑定士


 ◆


 魔石を引く前に、まずは前室へと案内される。


 俺たちはぞろぞろと、随分長い間歩かされた。

 道々、どうしてこんなにも歩くのか、コトトから教えてもらった。


 世界樹は城の一番真ん中にあるらしい。

 この城にはその中央にでかい光庭が設えてあり、そこに世界樹が植わっている。

 さながら、世界樹を守るために城がある、というような造りのようだ。

 城が攻められたとき、最も攻撃されないように。、


 廊下は絨毯敷きで、そこかしこに豪奢な装飾品が飾られてあった。

 高そうなツボ。金細工の施された甲冑。美麗な絵画。

 コトトはそれらを見ながら、よだれを垂らしていた。


 10分ほど歩くと控室についた。

 簡素なつくりで、先ほどまでの煌びやかさとは打って変わって寒々しい場所だった。

 

「一人づつ呼ぶので、ここで待機するように。扉を出ると正面に世界樹がある。その向かって右側に王が貴賓席にいらっしゃるので、礼を忘れぬように」

 兵士にそのように言われ、俺たちは長椅子に座った。


「き、緊張するな」

 俺は小声で言った。

「何言ってんのよ。一世一代の勝負どころなんだから。絶対にミスしないでよ」

 コトトの声も少し上ずっている。

「分かってる。穴に手を突っ込む前に、『チート=ラック』を唱えればいいんだろ」


 それだけのことだ。

 ミスをする方が難しい。

 俺は自分の手を見た。

 緊張で手が震えている。


 つと、コトトがそっと自分の手を重ねる。

 驚いて、思わず彼女を見る。

「大丈夫。きっと、上手くいくわ」

 そう言って、コトトは頷いた。


 ◆

 

 次々と招待された人たちが呼ばれていく。

 帰って来た人たちはみな、嬉しそうに魔石を眺めて、帰って行く。

 ただ、少し気になったことがある。

 みんな、帰る前に、眼鏡をかけた黒服の男に、石を見せてから出て行くのだ。

「あれは、何をやってるの?」

 と、俺はコトトに聞いた。


「鑑定よ」

「鑑定?」

「そ。あの男は魔石鑑定士と呼ばれてる人達。その魔石がどういう力を秘めているのか。それを、魔石の形状や色つや、重さ、それから光の屈折率などから、ある程度のあたりをつけるわけ」

「へえ。そいつはすごいな」

「ただ、細かいところまでは分からない。魔法系なのか、ステータス上昇系なのか、魔獣召喚系なのか、強弱で言うと強いのか弱いのか、それくらいが分かるの」

「なるほど。じゃあ、本当の力は使ってみるまで分からないと」

「そういうことね。ただ、有能な目利きなら、かなり詳細まで分かるらしいけど。ちなみに」

 コトトはそこで、胸を張った。

「あたしも、鑑定士の資格、持ってるよ」


「まじ?」

 俺は目を丸くした。

「商売柄、魔石も扱うことがあるからね。師匠にも、将来役立つから勉強しとけって言われてたし」

「ほ~。やっぱすげえなー、コトトって」

「ふっふーん」

 コトトは胸を張った。

「実は、師匠にも魔石の目利きに関してはお墨付きなの。結構自信あったりして」


 俺ははあ、と間抜けな声を出した。

 コトトって――俺が思っているよりずっと有能な人間らしい。


「魔石鑑定士の需要はすごく多いのよ」

 と、コトトが言った。

「この世界の戦闘は、ものすごく魔石の力が重要になってくるの。魔石があれば、凡人でもものすごい力を持つことが出来るし、逆に元々すごい人が魔石を装備し、さらに強力な力を手に入れることも出来る。魔石をどのように、どのタイミングで使うのか。それが重要になってくる。ことによれば、戦争の行方を左右することにもあるくらいに」

 なるほど、と俺は何度も頷いた。

 


「しかし、今のとこ、今日彼らが引いているのはほぼ、黄色(レア度 C)ね。緑(レア度B)もちょっと混じってたけど」

 と、コトトが目ざとく言った。

「まあ、そりゃあそうだろうな。確率的に、そうそうA以上は引けないって」

「まあそうよね」

 そう言って、俺にウィンクをする。

「よっぽどのラックがないと、ね」

 俺は苦笑して、肩をすくめた。

 

 

「では次。ユウスケ=ガーネット。コトト=ガーネット。来なさい」

 やがて、俺とコトトの名が呼ばれた。(戸籍上は兄なので、俺の名字はコトトと同じだ)


 互いに顔を見合わせた後、俺たちは立ち上がった。

 そして――。

 光庭へと続く扉を開いた。

 

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