僕は少女を殺した。

とりから

僕は少女を殺した。

 ある物語を書こうとしていた。

物語は、青年と少女が出会うことから始まる。

少女はとても暗く頼る人も居ない。

青年は少女を保護する事にした。

その少女の抱える問題は、父親からの虐待や性的暴行だった。

ありきたりなお話である。


 少女は自分の過去を話そうとはしなかった。

青年も無理矢理聞き出そうとはせず、保護しているうちに二人は少しずつ仲良くなっていった。

徐々に少女には笑顔が増えて、その事を青年も喜んだ。

少女と青年は互いのことが好きになっていた。

それでも、恋人にはならず、家族として過ごすことにした。


 ある日、少女の前には父親が現れた。

逃げ出した少女の情報を得て、連れ戻しに来たのだ。

父親に会った日から少女の様子がおかしくなった。

そして青年は一歩踏み込んで、過去を聞き出すことにした。

泣きながら語られた過去はひどいものだった。

犯され、殴られ、食事も最低限、虐待されていたのだ。

泣き疲れた彼女は眠ってしまった。

青年は少女を父親から守ると誓った。


 再び連れ戻しに現れた父親は、更に狂っていた。

ストレスの捌け口の少女を失い、ついには薬物にまで手を出していたのだ。

狂った男は暴れだした。

青年は少女を守ろうとした。

狂った男はその行為に激怒した。

刃物まで持ち出して青年の腹を刺したのだ。

青年は倒れ、少女は泣き、狂った男は笑っていた。

近所の住人により通報されており、狂った男は捕まった。

青年は入院する事になったが、命に別状はなく目を覚ました。

少女はまた泣いてしまい、青年は困ったような顔で頭をなで続けた。

この日、少女と青年は家族をやめて恋人になった。

本当の家族になるために。


 やはりストーリーとしてはありきたりだろう。

なに、難しい事はないし、さっさと書ききってしまえばいい。

それなのに、僕は失敗してしまった。

この物語をキャラクターから創ってしまったのだ。

少女の姿、性格、しゃべり方、徐々に心を開いていく様、そして笑顔。

僕の中で少女はもう生きていた。

小説として書きはじめる前から生きていたのだ。


 僕が作り上げた少女だ。

狂った父親よりも父親かもしれない。

少女を愛した青年よりも愛しているかもしれない。

だが、だからこそ失敗してしまった。

どうしても書けないのだ。

彼女が父親に犯され泣いている姿が。

キーボードを叩く手が止まってしまうのだ。


 彼女はこの物語の中で生きる事になっている。

だけど、僕には彼女が犯されて泣いているシーンを書くことができない。

内容を変更する事はできるだろうけど、それではもう彼女は彼女でなくなるのだ。

だから僕は、この物語を書くことを辞めた。


 僕は、彼女を殺したのだ。

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僕は少女を殺した。 とりから @torikara00

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