第42話 行きましょう『グルヘルム』へ! 下

 「シスゥ…、待ってぇぇぇぇぇぇ…」と、ケイティの声が聞こえる。

 振り返るアサトは、その声がこちらに向かって走ってくるのが見えた、システィナもロッドを胸に当ててケイティを見ていた。


 「アサトォォォォォ…待ってよぉぉぉぉぉぉ…」といいながら、どんどん近づいてくる。

 どうやらお別れの挨拶をしに来たのだろう、システィナには酷な話しだ。


 近付いてくるケイティの後ろから、アリッサと他に男が3名ついて来ている。

 「…なんだぁ?」とタイロンが顔を出して後ろを見る。


 システィナの所に来たケイティは、大きく息を吸ったり、吐いたりして呼吸を整えると、システィナの手を取ってアサトの方へと連れて来た。そして、「…ちょっと待ってよ」と言いアリッサらが来るのを待った。


 クラウトが馬車からおりるとアサトらへと進む、タイロンは馬車の上から見ていた。

 アリッサらが着くと、ケイティと同じく息を整え始めた。


 「見送り?…夕べさぁ…」とアサトが言うと、アサトの近くに来て腰に手を当て、下から覗き込むように「あぁ?」とケイティが言葉にした。

 その表情に少々戸惑いの顔を見せると、「…ケイティさん…、仲間と会えたんだね」とシスティナが言葉にする。

 ケイティはシスティナを見ると肩をがっくりと落とし、そして、頭も落として見せるとアリッサへと手を差し伸べ、「アリッチ…」と言うと、アサトの前にアリッサが進み出て大きく頭を下げ、「ありがとう」と言葉にした。


 その言葉に小さく笑みをみせながら、「…ありがとうだなんて、僕もアリッサさんやケイティさんに助けてもらったから…」とアサトは言葉にする。

 アリッサは頭を上げない、クラウトがそばに来てアサトと顔を合わせると、ケイティがため息をついて言葉にした。

 「あのさぁ~~、これでいいわけ?」と、その言葉にアサトはシスティナを見る、システィナは不思議そうな顔で首を傾げた。

 クラウトはメガネのブリッジを上げると、冷ややかな視線でアリッサを見る。


 「いいわけ無いでしょう!」と言い、ケイティは、アリッサの前に立つとアサトに指を指し、「…いい、君は、私の心を射抜いたわけ!わかるぅ?」と言うと、再び、下から覗き込むようにアサトを見た。


 その行動に、「射抜いた…って…」とアサトが言うと、「…そうだよね。君は鈍感そうだからわからないと思うけど、わ」と言おうと思った時に、ケイティの後ろから、「…わたしたちも連れて行って下さい!」とアリッサが言葉にした。

 その言葉にケイティが振り返り、「アリッチ!」と言葉を掛ける。

 「…ごめんね。やっぱり本当の事言わなきゃ」と言い、アサトを見た。


 ケイティは罰が悪い感じにシスティナの横に立ち、アサトとクラウトは顔を見合わせた。


 「戦から帰って来て、ヤヌイに会いに行ったの…」と話を始めた。


 アサトらはアリッサを見る。

 「ヤヌイが全快するまでには時間がかかるみたい…、そして、彼らに会った」と男たちを見た、アサトらも見る。

 男たちは、アリッサを見て小さく頷いていた。


 「…彼らに…もう一度一緒にパーティー組まないか?と誘われたの…」と、言葉にするとケイティを見るアリッサ。

 ケイティは頷いてからシスティナを見て大きく笑顔を見せた。


 「…ヤヌイはもう狩猟者では生きられない…たぶん。それで考えたの…いえ、前から、あの戦いの時から考えていた。アサト君が言っていた、どう生きるか見つける為の旅…の事。最初はどうなんだろうって思っていたけど、あんなに真剣に向き合って戦う姿は、アサト君が言う、今自分が出来る事なんだって…、わたしも…今自分が出来る事と言えば…戦う事くらいのもの…でも、それは、この現状しか分からなく、選択肢もそんなにないから…だから」と言い頭を下げる。


 「私も…、これから生きる選択肢を得る為に、あなた達と旅がしたい。お願いします。私を一緒に連れて行って下さい」と…、その言葉にアサトとクラウトが顔を見合わせていると、アリッサの横にケイティが来て、「…あたしも…連れて行って」と頭を下げた。

 アサトはシスティナを見ると、システィナは複雑そうな顔をしている。


 この旅は、決して軽々と仲間を入れる事の出来る旅ではない、クラウトらは、半ば強引に仲間にしたが、さっきも思ったように、確実に死と隣り合わせの旅になるだろう…だから…。

 「アサト。君が決める事だ。僕は君の判断に任せる」とクラウトが言うと、大きく深呼吸をしてから、大きく頭を下げた、そして、「ごめんなさい」と言葉にする、その言葉にシスティナが笑みをみせた。


 アリッサとケイティが落胆の表情で頭を上げると、クラウトが小さくメガネのブリッジを上げた。

 頭をあげたアサトは笑みをみせながら、「ぼく、弱いです。」と言葉にすると、アリッサとケイティは驚いた表情になり、アサトを直視した。


 「ぼくはまだまだ誰も守れないほど弱いです。今回の戦いでも、それを痛感させられました…。だから…僕一人では戦いには勝てません。戦いには…信頼できる仲間が必要です。それが無ければ…ぼくはたぶん…すぐに死んでしまうかもしれません…。…こんなにポンコツなぼくですけど、最初に謝っておきます。それを許してくれるなら…ぼくらと行きましょう!」と手を出すと、その演説にケイティが、「なにそれ!」と爆笑を始める、そのそばでアリッサは小さく笑みを見せながら頷いていると、クラウトがメガネのブリッジを上げながら、「とりあえず、僕からの提案だ、アリッサさんらに現状を知ってもらってから、仲間にはいるかどうかを選択してもらおう。」と言いアサトを見る。


 「…その言葉…どこかで聞いたような…」と傾げていると、システィナが小さく笑った。


 翌日。

 旅の目的と、そこに待ち受けているであろう敵などの説明をする為に、もう一日『ゲルヘルム』に宿泊した。


 そして、広場で出門の手続きをして門を潜ると、荷馬車の前でアサトが振り返り、「…それじゃ…行きましょうか」と言葉にする。

 その言葉にクラウトは、メガネのブリッジを上げて荷馬車の前席に座ると、タイロンが手綱を持った。

 システィナが頷いて荷馬車の後方へと向かい、その前をケイティがはしゃぎながら荷馬車に乗り始め、アリッサは、門の向こうに見える屋根らを見てからアサトを見る、そして、見送りに来ていた前の仲間に視線を移し一礼すると、システィナに招かれるように荷馬車に乗った。


 アサトは空を見上げる。

 その空はここに来た時と同じく、遠くに感じる空だったが、なぜか以前と違って、はっきりとした色に見えていた。


 …ぼくらに新しい仲間が出来た。この遠征ではじめての仲間…


 これからよろしく、アリッサさん、そして、ケイティさん…。

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