第40話 国王の望み 下

 ベラトリウムは、拓けた場所にいる者を見て言葉を発し始めた。


 「聞くところによると、この者のたった一言でこの戦が始まり、この戦で唯一、一対一にて、『オークプリンス』と対峙し、負けた者。」と言うと、拓けた場所から失笑が湧き上がる。

 「…負けたが、戦は勝った。ガックバムを一撃で粉砕し、また、『オークプリンス』に初めて傷をつけた者に国王陛下が勲章を贈る」といい、ベラトリウムはアサトを向いた。


 「君のギルドマスターは、最後にこう書いてあった。」と言いながら、勲章がついている帯を首にかけた。

 「君の成長を、アルベルトとインシュア、そして、チャ子が喜んでいる。と…」と言いながら笑みをみせ、アサトの背中を回して、首にかかった勲章を皆に見せた。


 その瞬間広場が一斉に歓喜の声を上げた。


 アルさん、インシュアさん、そして、チャ子…聞いたんだ…ぼく…やったよ。負けたけど…。


 と思いながらその光景を見た、群衆の最前列にクラウト、タイロン、システィナ、そして、アリッサにケイティが笑顔で見ていた。

 ケイティは、なぜか自分が貰ったようなはしゃぎ方だったのがおかしく、アサトは小さく笑ってしまった。


 「この国の国王も思っている」とベラトリウムが、歓喜に沸く広場を見ながら言葉にした。

 「…種族間の無い世界。それをどう実現したらよいのかと…だから、わたしのようなイィ・ドゥをも高官に任命するんだ、任命された以上は、国王の望みをかなえてやりたい、だから、今回の事は、国王もお喜びであり、また、新たな出発点であると考えている。戦の無い世界が一番いい、それはだれでもわかるが、その世界の築き方がわからない、君らにはほんとに感謝している、だから、まずはルヘルム地方を改革しようと思っている。種族間の争いの無い世界を作るために…」と、言葉にした。


 その言葉を受け止めるアサトも、同じ考えであった。

 すぐにはなにも変えられない、小さな事の積み重ねである、今回、このセーフ区画が出来ただけでも、それの一歩になればいいのではないか…。

 それが至るところに出来上がば、ルヘルム地方の改革も必ず出来るのではないか…。


 アサトは勲章を見た。


 四つ葉に模られた緑の石、その中に、桃色の石で作られているシダの紋章が入っている勲章であった。


 勲章は、アサトの他にクラウト、タイロン、システィナとアリッサ、そして、ケイティも受けた。

 チームアサトの名は、慰霊塔の生存者名簿の真ん中に記されるようであったが、クラウトが止めさせた、この戦の起点は我々だが功労者は我々じゃなく、皆であり、その中に我々がいるだけであると言う理由であった。


 それには納得である。


 同じく傷つき、死線を乗り越えた者はみな平等である、勇者でもないし、強者でもない、たまたま生き残っただけであり、前に現れた敵が強かっただけの事、この勝利は、ここで亡くなった者と、生き残った者の力でつかみ取ったのである。

 また、生存者名簿には、国王軍所属の者の名も一緒に記載してほしいとクラウトが、ベラトリウムに言うと了解を得ていた。


 彼らも功労者であり、この塔に記載されて当たり前の存在であった。


 その後は、ゴブリンの代表と獣人の亜人の代表に、国王から友好の証として、この国の旗とささやかな品物が送られていた。

 その品物はなになのかわからないが、参加した村の数だけ用意してあった。


 クラウトの話しだと、『ゲルヘルム』に着くと、ベラトリウムとすぐに面会をして、素性の調査に1日がかかったようであった。

 まずは、事の成り行きを『デルヘルム』の王国駐在高官大使へ連絡すると、『デルヘルム』のギルド協会へと使いフクロウを使い、所属ギルドへの素性調査を行い、素性がわかると、戦の内容の報告などで、何度も使いフクロウを使ったようである。

 確認が取れ次第、今度は国王への報告を行い、国王からの指示を待つのに一日がかかり、報奨金などの準備に数時間を費やして今に至ったようであった。


 それを考えれば、クラウトがいてよかったと思う。


 こんな事は、タイロンやシスティナ、ましてや、アサトが出来る訳でもない。

 本当に感謝であり、自分らだけでなく、他の者にも気を回せる器の大きさも感じさせられた。


 拓けた場所は宴の時間となり、その宴は種族間の壁を取り外したように大いに盛り上がった。

 その中には、アサトがゴブリンや獣人の亜人に囲まれてエールを飲まされ、クラウトは、種族間関係なく、なぜか周りに女性が集まってちやほやされており、タイロンは兵士や獣人の亜人、狩猟者とエールの飲み比べをしていた。


 システィナは、魔法繫がりで兵士の女性や狩猟者、そして、獣人の亜人らとともにいて、ケイティは相変わらず落ち着きがなく、色々な所で乾杯をしていた。

 そして、少し離れたところでアリッサは、アサトらを黙って見ていた。


 翌日、国王軍を残して、アサトら狩猟人と獣人の亜人ら、そして、ゴブリンらは、各々が帰る場所へ帰途に就いた。

 報奨金の一部は、今回拉致された者への見舞金と、その者らが行きつくであろう、然るべき所に寄付をされるようである。


 報奨金が多くなった理由は、国王からの支出も加えられて、金貨2000枚以上になったようであった、獣人の亜人らやゴブリンらにも見舞金が渡されていた。

 街に帰ると、街の中心にある広場には天幕を張って祝いの準備がされてあり、否応なしにそこで夜が更けるまでもてなされた。

 その次の日は、うたいの日と言って、戦死者をともらう日として街全体が喪に服した。


 静まり返った街には、どこの誰が用意したのか分からないが、街の中心部にある広場に献花台が設置され、そこには多くの花が置かれていた。

 また、夜になると何千と言う蝋燭が広場を覆いつくし、その周りで故人をともらう者も少なくは無かった。


 そこに足を運んでいたアリッサは、ヤヌイを見舞った帰りであった。


 ヤヌイは精神も安定してきていたが全快までは時間がかかり、また、今までの生活が出来る保証もないと医師から言われ、このまま、ここで生活をするのがヤヌイの為であり、アリッサらが面会に来る事で、思い出したくもない事を思い出す事もあると言われた。

 今は療養が必要であり、その日が来れば、彼女から会いに行かせると最後に言われた。


 アリッサはヤヌイとは会わずに戻って来て、この広場に居た。


 揺れる蝋燭の灯りは消える事がない、消えそうな蝋燭も誰と言わずに新しい蝋燭を設置して、また、火をつけている。


「アリッサ?」と後ろで声がした。

 アリッサはゆっくりと振り返る、すると、そこには…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る