第39話 国王の望み 上
軍の指揮下で、戦死者の火葬が行われた。
煌々と上がる炎の中で多くの亡骸が灰と化している。
参加者で生存が確認された人数は、有志連合のメンバーを含めて127名であった。
この数には、ギルド【スパリアント】のメンバーは含まれていない。
獣人の亜人は、84名、ゴブリンが62体であった。
また、死者は、狩猟人は62名、獣人の亜人は43名、ゴブリンは39体、そして、王国騎士団兵士は、216名であった。
決して少なくない数である。
クラウトと国王軍騎士団、団長のリアンは、火葬した灰をこの拓けた場所の真ん中に埋葬をして、共同供養塔の設置をする事にした。
狩猟人らと獣人の亜人ら、そして、ゴブリンらへの了解を取り付けると、報奨金の分け前を狩猟人らと獣人の亜人らに、金貨一人5枚の配布をリアンが約束して、残りの金貨455枚で、共同供養塔の設置と、遺跡の修繕と整備に使う事にした。
この地は、これからセーフ区画として、この区域内での戦闘を禁止とした条例の設置を約束し、報奨金の受け取りの為に、軍兵士とクラウト、獣人の亜人の代表数名とゴブリンの代表数名、そして、リアンが『ゲルヘルム』に、『オークプリンス』とダザビッシャ、ガックバムの遺体を持って向かった。
クラウトの呼びかけに応じた狩猟者らは、戦利品をゴブリンに渡すと、ゴブリンらはその中から数点を手にして、残りは狩猟者へと返していた。
至る所でその光景が見える、ゴブリンの言葉を理解できる獣人の亜人の話しでは、ゴブリン自体も戦利品の調達が目的ではないとの事で、必要な物は貰うが、そうでない高価なモノとかはいらないとの事だ。
見てみると、装備品は貰っていたが、装飾品や銀貨、銅貨など金になるようなものは返しているようであった。
また、狩猟人や軍の神官らから、治癒の魔法で治してもらった事に感謝をしているようである。
この遺跡にいる種族間をこえた者らすべてが、クラウトらの帰還を、遺跡周辺の跡片付けや火葬、埋葬などをして待つことにした。
遺跡内の遺体の搬出や埋葬の為の穴掘りなどを、アサトとタイロンが手伝った。
システィナは、魔法の訓練になるとの事で、遺跡内や遺跡の外周を水魔法を使って洗浄の手伝いをしていた。
アリッサやケイティも、負傷者などの手当てや給仕などを手伝っていた。
自然に種族間の壁が無くなってゆくのを感じる。
「…狩りしにくくなるな…」とタイロンが言葉にした、その言葉は、この風景を見れば複雑な気分になる、でも、この風景は、なんだか当たり前のような気がするのも感じていた。
ゴブリンや獣人の亜人は、敵であった、それは前まで…でもないかもしれない、今はこうしているが、次に会った時は、お互いが敵になる事もあるかも知れない、でも、いつか、戦の無い、狩猟をしなくていい時が来るのかもしれない。
どの種族でも、唯一同じなのが『命』なのだと感じた。
それは、誰にとっても尊いもの、今火葬しているオークらにとっても、そして
それを前提に置けば、いつかは戦の無い時代が来るのかもしれないし、来てほしいと思う。
アサトは小さく笑う。
タイロンが不思議な顔をしてみていた。
空は高くて暑くなってきている。
夏が近い感じがしていた。
三日後の夕方にクラウトらが戻って来た、それと一緒に街の高官らと有力者も帯同していた。
現状の確認と宣言を述べに来たようであった。
遺跡周辺の整備は終わり、死者の火葬も埋葬も終わっていた、遺跡内の清掃もおわり、以前の『パインシュタインの遺跡』に戻っているはずであった。
道にさらされていたライカンの屍も、火葬と埋葬をしていた。
帯同してきた者は、王国駐在高官大使、ベラトリウム、この者は、国王の指名により、『ゲルヘルム』を収め、自治を任されたものである。
ほかには、第二次官が2名、ベラトリウムの側近である、他には、治安部の次官、経済部の次官、文化部の次官、交易部の次官など、各種の部を総括する者らが随行していた。
また、自治を総括する者以外にも、商業組合の者、『ゲルヘルム』ギルド協会の者、そして、衛兵団の上層部など、約20名がこの戦場であった『パインシュタインの遺跡』へと来ていた。
クラウトが、こちらに向かい手を上げるとアサトらも返した。
手ごたえの良さに満足な顔をしているのがわかった。
一行は、時間をかけて、クラウトやリアンに戦闘時の説明を聞くと、建物入り口で皆を並ばせ、向かい合った形で、帯同してきた者が、中央にベラトリウムが立って並び、戦の終結宣言を行った。
その後、ベラトリウムから一人一人に報奨金の支払いが始まる。
金貨7枚、5枚は全員が納得した報奨金であるが、プラス2枚は、国王陛下からの報奨金であるようだ。
この金貨は、獣人の亜人らやゴブリンらにも渡された。
歴史的な瞬間であった。
金貨の使いどころのないゴブリンらも、獣人の亜人の説明に納得して各々が色々なものに仕舞っていた。
また、この地を、ルヘルム在住の賢者によるルーンで保護をする事にした。
このルーンは、武器の持ち込みが出来ないと言う事と、外敵からこの地を守るルーンであり、この場所は、ルヘルム地方で最初のセーフ区画になった。
慰霊塔の設置は国王の名の下で、国王軍騎士団が『ゲルヘルム』の石職人の力をかり、大きく立派な石碑を立てることになり、そこには、戦死者の名と共に、報奨金を貰った者の名を刻む事になった。
この慰霊塔もルーンを刻み、慰霊塔の上にはオーブを備え付け、ルーンの力をオーブを使って、セーフ区画すべてを保護できるように増幅させるとの事だった。
また、他の者が手を加えられないようにすると補足もあった。
「君がアサト君かね」と、たくましい体で、口の周りに銀髪の髭を蓄えたベラトリウムが言葉をかけて来た。
「ハイ」と答えると、大きな瞳を細めて笑顔を見せた、よく見ると小さく、オデコに出来物…みたいな角のような物が4本生えている。
それに目がとまると、ベラトリウムは角を擦りながら、「わたしは、父を
「
「…あぁ、今、なにか考えたな?」と言いながら手を出す、その言葉に照れながらベラトリウムの手を握って握手をした。
「…そう言うのは、いろいろ方法があるみたいなのだよ」と笑いながら答えた。
「…あぁ…すみません…」となぜか恐縮する。
「ところで、君のギルドマスター、アイゼン君からの伝言だ」と言い、手を放すと、側近から、金貨の入った布の袋を手に受けてアサトを見た。
「…アイゼンさん?」と、少し驚いてベラトリウムを見る。
「あぁ、色々あってね、あとから君の参謀から聞くがいい」と言いながら、布の袋をアサトの手に置いた。
「それで、…彼からの伝言だ。この後の旅を健やかに、帰りを皆で待つ。との事だ」と言い大きく笑った。
「…ありがとうございます」と言いながら、小さくお辞儀をすると、「あと…」と言い、再び側近から木箱を受け取る、そして、その箱を開け、中身を取りだすと皆の方を向いた。
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