第37話 『歴史に名を残す』戦いの終幕 上

 心配そうに見ているシスティナ、そして、タイロン。

 見上げている夜空は、瞬く星で埋め尽くされており、この遺跡周辺で掲げて居る篝火などの灯りに照らされて、淡いオレンジ色の雰囲気の向こうにあった。

 どのくらいそこで気を失っていたかわからないが、状況はすでに平穏に包まれているような気がしている。


 「…気が付いたようだな」と足元からクラウトの声が聞こえるので、アサトは小さく頷いた。

 「…あっ、『オークプリンス』?」と言い、体を少し起こしてみると、クラウトが右側に視線を移したので、そちらを見る。

 そこには、うつぶせの状態で、足の裏をこちらに見せて横たわっている巨体が目に留まった。


 「…ぼくら…狩ったんですね?」と言うと、「…あぁ…最後は持っていかれたがな。結果は狩れたって事だな」と言い、アサトを見た。

 その言葉を聞くと再び横になった。

 「すまんな、一応、両腕が骨折していたからそれは治しておいたが、気力を分けるだけの力が残って無かった。今回の防御の魔法は、気力の半分を使ったからな…でも」と言い、『オークプリンス』の方へ進み、「3層の防御も、たった一撃で粉砕してしまうとは…なんていう化け物だったのだろう…」と『オークプリンス』を見下ろして言葉にした。


 「じゃ…」とアサトが言うと「…あぁ、あれが無ければ、君は確実に即死だったと思う。」と言いアサトを見た。

 「…そうなんですね…助かりました。」と笑みを見せながら言葉にした。

 クラウトがアサトに近づいて片膝をつくと、「…とにかく、生きててよかった。お疲れさん」と言い、メガネのブリッジをあげた。

 その言葉に苦笑いを見せながら「お疲れさまでした」と答える。そして、「システィナさんも…お疲れさまでした。」と、見ながら言うと、小さくうつむきながら頬を赤らめて、「…アサト君が一番大変だったでしょう…」と言葉にする、その言葉に、「いや~、俺たちが一番大変だった。」とタイロンが言葉にすると、大の字をかいて横になった。


 「…そうですね、一番頑張ったのは…タイロンさんとアリッサさんだと思います。あんな強力な攻撃を受けて…本当に助かりました。」と言うと、「ばぁ~か、それが俺の仕事だよ」と言い鼻を鳴らした。

 「まぁ…とにかく、最後は持っていかれたが、みんなお疲れ様」とクラウトが言葉を掛けると、3人は小さな笑顔を見せて答えた。


 「…起きたの?」と頭の向こうから声がする。

 「…あぁ」とその問いにクラウトが答えた、すると、システィナの隣にその声の主が座って、小さく笑みを見せた。

 「…アリッサさん、…仲間は…」とアサトが問うと、小さく瞳を閉じて首を横に振った。

 「…そうですか…」とアサト、同時に胸の上に何かが置かれた、アサトを挟んでアリッサの向かいにケイティが座り、長太刀の鞘をアサトの胸において笑って見せた。


 「…これ…ちゃんと取って来たよ」と声をかける。

 「…あ…ありがとう…でも…君らの仲間が…」と言うと、「うん、生きているけどね…、多分、もう狩猟者ではいられないと思う。さっき、兵士さんに頼んできたところなんだ」と返した。

 「そっか…」と言いアリッサを見た。

 「…生きていてくれただけでいいと思う。……ありがとう」と言い、小さく笑みをみせた。


 ガックバムが言っていた。『オークプリンス』の種を植え付けられた…と言う事は、少なくとも、彼女はすでに『オークプリンス』との性行為済みであり、もはや行き場所は然るべき処なんだと思った。

 『オークプリンス』が性行為を行っている場所の近くで、その接合部を見た時に思った。


 もう壊れている。


 巨大なイチモツを加えている割れ目はそれ以上に裂け、鮮血が滴り落ちていた、感じる事も無いままに気絶し、何の感情もなく、人形のように突かれている女性。


 生きていたとしても…。


 「…アサト…」とアリッサが言葉にした、その言葉に視線を移すと、「ありがとう…」と言葉にする。

 戦闘の疲れか、少しやつれた表情と血の跡や打撲で内出血している跡、そして、小さく切れている唇がそこにあった。

 「ギルド【パイオニア】所属、チームアサトの諸君」と大きな声にアサト以外がその声の方を見た。


 「…誰?」とアサトが言葉にする。

 「…君たちは、漁りにいかないのか?」と声の主、国王軍騎士団、団長のリアンが問いかけた。

 「…いえ…僕たちは、『オークプリンス』が目的だったので…、他には興味がないと言ってしまったので…」とクラウトが小さく笑いながら言葉にした。

 その言葉に一同を見ると、大きくニカっと笑って手を出し、そして広げた。


 その手には、長さ15センチ、幅が10センチ程のひし形の石があり、その石の中は深緑の炎が揺らめいていた。

 「…それは…」とクラウト

 「…召喚石だ。この広場のお宝全部足しても、これ以上の価値にはならない」と言い、クラウトに渡した。

 「?」とクラウト

 「この戦の一番の功労者が、お宝の一つも取らないなんて、ばかげた話は無い。」と言うと、アサトを見下ろした。


 「…君が、このパーティーのリーダーか?」と問うと、アサトは小さく頷く、 「まったく、とんでもないリーダーだ。」と言い、大きくニカっと笑う、そして、一同を見て、「それを可能にしてしまおうとするパーティーメンバーも、とんでもない奴らだな」と言うと、システィナを見て、「口火を切るか…お嬢さんも顔に似合わず大胆だね」と言葉をかけると、恥ずかしそうな表情を見せた。


 「とにかく、今回の討伐の報酬は、国王軍が管理の上、参加狩猟者全員に均等に配布する。これは約束だ、そして、ガックバム討伐の報酬金、金貨300枚は、チームアサトに配布する。」

 その言葉にタイロンが起き上がり、「金貨300枚?」と声にした。

 「え…えぇ……」とシスティナ、「真面目に?」とケイティが言葉にすると、アリッサは目を丸くしてアサトを見た。


 アサトも起き上がろうとしたが体が動かない、でも、金貨300枚とは…『ギガ』グールよりも高額である。

 あの時も驚いたが…というか、あの時は、レイン一味の捕獲報酬もあったので、それ以上だった、でも、一体で金貨300枚とは…。

 「…そうですね。では、金貨300枚は、我がチームでいただきます。そして、この召喚石も」と、クラウトは言いながらリアンを見た。そして、「勝手ですが、提案をお願いしたいのですが…」とメガネのブリッジを上げて言葉にする。


 「…提案?」とリアン。


 「はい…」と言い、拓けた場所を見た。

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