第33話 最終決戦の幕開けへの序章 上

 ケイティが長太刀を抱えて駆けてくるのが見えた。

 「ア~~サ~~トぉ~~~~」

 煌々と燃え上がる炎の壁の道を、倒れているオークを巧みに避けながら、こちらに向かって走ってくる小柄なケイティ。


 アサトは、小さく笑ってケイティを迎える。


 息を切らしながらケイティは長太刀を目の前にだすと、アサトは両手で長太刀を手にして、鞘をみると「ありがとう」とケイティに笑みを見せ、手にした長太刀を左手で持ち、「行きましょう」と声を3名にかけ階段へと向かった。


 タイロンが先頭で、アリッサ、アサト、そしてケイティの順で階段を駆け上がる。

 ありがたい事に先ほどの魔法攻撃で、屋上にいるオークの数はかなり減っていた。

 2階屋上にいたオークが数体下がって来ている、3階監視にあたっていたオークもこの場へと進んできているのがわかった。

 一階屋上の右側にある監禁部屋からは、今もなお女性が『オークプリンス』へ運ばれている。


 状況を整理できていないギルド【スパリアント】マスター、アセルバンは、森からその光景を見ていた。

 刻一刻と変わる状況の中、辺りで出遅れた者は、このギルドのメンバーだけであり、この状況を打破する事の解決策が考えられないのであった。

 入り口から延びる炎の壁が緩やかに消えてゆくのが見えると、拓けた場所へと進む、黒服の神官と青色のローブに尖がり帽子の女が見えた。

 その後ろには、国王軍魔法部隊のメンバーが数名ついて行く。

 そのモノらを警護するように盾持ちが数名、前と後ろに控えていた。


 「…お…おい!」と、アセルバンはその者らを止めると駆け寄り、「…なにが…どうなっているんだ?なぜ?…なぜ私の命令を…この…とう」と言葉を発した時、黒色の神官服の男…そう、チームアサト参謀、クラウトが冷ややかな視線でメガネのブリッジをあげて言葉にした。


 「…あなたの命令?」と、その表情と言葉に小さく息をのむアセルバン。

 「…お前は…俺の討伐メンバーだろう?誰が主導しているんだ!!」と言うと、その言葉に対して鼻で笑う。

 「主導ですか…」といいながら、拓けた場所、そして、遺跡をじっくりと見る。


 遺跡の階段を登り始めている4人が目に入ると小さく笑い、「…それは…わたしのチームリーダーです。」と言い、アセルバンを見た。

 その言葉につめより「なぜ!私の命令を待たなかった」と言い寄ると、冷ややかな視線をアセルバンに向けた。

 それを見ているシスティナは、胸にロッドを抱えている。


 「私は…あすのあ…」と言葉にしかけた時に、「…なにか勘違いしていますね」と言うと、再び遺跡へと視線を送った。

 「勘違い?」

 「はい。私たちは有志連合に付いてきましたが、それは状況を見る為にです」と言い、アセルバンを見る。

 「状況?」とアセルバン。

 「はい。私たちは、あれを狩る為の状況把握に来ただけであり、この状況は、狩るなら今だと言う事になっただけで、決してあなたを出し抜く事や、国王軍の顏に泥を塗るつもりで行動していた訳ではありません」と言うとシスティナを見て頷き、先頭にいる盾持ち戦士に対して頷いて見せた。


 それを見たシスティナ、そして、国王軍の兵士が拓けた場所に向かって進み始める。

 「その判断を私たちのリーダーが今だと言い、私が作戦を練り、今この状況…」と言い、アサトらを指さした、そして、「チェックメイト寸前です。その場に参謀の私がいなければ格好がつかないでしょう、この戦に名を残す為にもね…」と言い進み始めた、そして、「もっと、いいやり方があったのではないですか?…」と言いながら、メガネのブリッジを上げてその場を後にした。


 クラウトが指さした方向には、すでに一階屋上へと駆けあがる4名の姿。


 その下には多くの国王軍と狩猟者、そして、亜人らがオークを討伐して遺跡に集まり始めている。

 戦場を抜けて逃げ出そうとしているオークも、出遅れた狩猟者が狩っていた。


 また国王軍らは、その狩猟者の援軍にも加勢しているようであり、弓部隊が戦場を囲むように配置されてあった。

 戦場を闊歩する国王軍の幹部らしきものが、悠然と指示を出しているのが見える。


 アセルバンは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ、…これは…夢であろうか…それとも…と言うと、いきなり立ち上がり傍にいる側近の襟首をつかむと、指示を出した、「死んでいるオークでいい、首を取って来い。この戦で『オークプリンス』の首が取られた時には、すぐにその首を持って『ゲルヘルム』へ走り、我が討伐隊が殲滅した、勝利の報告をするんだ」と言うと、「…それは…さすがに…」と言葉にした。

 その男を突き飛ばし、「…必要なんだ、どうせ私らについて来た者。ならこの討伐隊の一員だ、だから、我がギルドが討伐したのも同じではないか!」と怒鳴ると鼻を鳴らしながら遺跡を見る。


 4名はすでに屋上に上がり、ガックバムと対峙していた。


 「…とにかく…この戦で名を残すのは、我々でなければならない!そして、わたしでなければ…」と小さく言葉にして、遺跡の上に居る4人に視線をむけた。


 アセルバンの視線の向こう、遺跡の一階屋上についたタイロン、アリッサ、そして、アサト、ケイティは、ガックバムと対峙している。


 その向こうに腕組みをしてみている鎧のオーク、ダザビッシャ、そして、今もなお、行為に興じている『オークプリンス』。

 一階屋上には、そのモノらの他に呪術師が施したマモノ、ミノタウロスが6体とオークが12体である。

 アサトは、タイロンの背中に手を当て状況を見ていると、呪術師が最初に動いた。


 「ウッギャ、ヴァンガン」と、すると、ミノタウロスは拓けた場所の方を見ると、一斉に屋上から下へと飛び降りた。

 それから間もなく、下の方から悲鳴や断末魔が聞こえると、幾千もの光が降り注ぎ、そして、何処からともなく炎系の魔法攻撃がその場を襲っていた。

 断末魔はミノタウロスの声も混じり始めている。


 それを背中で聞いていたガックバムが、「ゴゴア、オリャ」と言うと、「ズッキ、ジンノ」とダザビッシャが言葉にした。

 その言葉に口角を緩ませ、つぶれた鼻と広がった鼻孔を大きくさせると、真一文字に結んだ口を緩める、そして、「ここ…までよくきた、だが、ここ…までだ!おま…えらは、おれ…ころす、そして…ぜんぶ…おれ…ころす…『オークプリンス』の…ために」と言い、背中にある大剣を外した。


 「…オークが話せるなんて…きいてねぇ~ぞ」とタイロンが言うと、「旧鉱山で話していたじゃないですか」とアサトが答える、その答えに、「…そうだったっけかぁ?」と言いながら、大剣を持ちながら盾を持ち直した。

 「…ヤヌイは…どこ!」とアリッサが声にすると、アリッサを見てガックバムは目を細めた。


 そして、ニカっと笑うと「『オークプリンス』の為に、こど…も、つく…る…、たね…うえつけられた…」と言い、再び、ニカっと笑う。

 その言葉にアリッサは、盾を持つ手に力が入ると唇をかみしめた、アサトの後ろでケイティが声を殺して、「…あの化け物…殺す!」と言うと、アサトの服の背中を力いっぱい握った。


 その熱い思いが、アサトに注ぎ込まれるような感覚がしている。


 なぜかわからないが…自分が、周りのタイロン、アリッサ、そしてケイティと違って冷静であるように思えた。

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