第32話 魔族ミノタウロス降臨 下

 ギルド【スパリアント】マスター、アセルバンは、目の前に広がる光景に言葉を失った。

 話しは本当である…。


 あの『オークプリンス』に挑んでいるパーティーがあると言う話が…。

 疑っていたわけじゃないが…、何日もかけて練りに練り上げた、自分らが得をするプラン。

 こちらの損害も無く、無事に狩れればオッケイ。

 狩れなくても『オークプリンス』に挑むと言う名誉、そして、その脚光を数時間前に浴びて…この名を街に広めた…が、このままだと……。


 アセルバンの周りには【スパリアント】のメンバーが立ち、同じくその光景を見入っていた。

 募集をしていた狩猟者や衛兵もこの戦に参戦している、そして、国王軍の姿もある。

 この戦に参戦していないのは、【スパリアント】だけであった。

 この戦に参戦しなければならないが、ギルドメンバーには、ほとんど戦闘をさせないと約束をしてきた、今更、行けとは言えない…足も、手も動かない…あそこは地獄。


 そう、地獄にしか見えない。


 あそこにいるには、死を乗り越えられる力が必要である…。

 この者らを動かす為には…先頭を斬らなければ…だが、動かない…足が…手が…口が…なにより…あの状況が…怖い…ほんとに行きたくない…、そして、自分にその力がない……。


 「…どうしますか…マスター、我々も…」と側近が言葉にすると、目を見開き、口を開けたままでその側近へと視線を移した。

 「双方に死者も…でも、このままで行くと…『オークプリンス』の首が取られるかも…」と別の側近が言葉にした、その側近へ、変わらない表情で視線を移すアセルバン。

 「…やっぱり、噂は本当だったんだ…『ギガ』を狩ったパーティーが『オークプリンス』の首を狙っているって…」と後ろの方から声が聞こえる、その方向を見るアセルバン。


 …まじか…このままだと…俺の………


 アサトは、柄を握りなおすと歯を食いしばり、顎を引くと体を前のめりに倒しながら大きく一歩を踏みだすと、「…行くぞうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」と後方から声がした、タイロンだ。

 オークを盾でなぎ倒してこちらに向かってくる、その隣にはアリッサ。

 「…みんな!道を作って!!」と叫んでいる。


 その声に、狩猟者らや獣人の亜人ら、そして、ゴブリンらが遺跡の入り口に向かって進んできた。


 「歴史に…名を…」


 「…のかたきぃぃぃ…」


 「…をかえせぇぇぇぇぇ」


 「王国騎士団の名に懸けてぇぇぇぇぇ…」


 「…おまえら…上は頼んだぞ!」と、アサトに向かいカンガルーの亜人が声をかけた。そして、「ぼけっとすんな!狩るのはお前だろう!」と言い、タイロンが通り過ぎると手前のオークとぶつかる。

 「行こう!」とアリッサが盾を構え、その脇に剣を携えてアサトを通り過ぎ、オークとぶつかると共に胸に剣を突き刺した。

 それを見て「ハイ!」と言い、その後を追う。


 カンガルーの亜人がタイロンの手前にいるオークの脇に剣を突き刺すと、狩猟者がそのオークの首を斬り横に倒す。

 ゴブリンが、そのオークを飛び超えて、アリッサの前に現れたオークの顏に抱き着き、視界を奪うと首の後ろに刃を突き立てた。

 そのゴブリンを、違うオークが斧で剣を首に突き刺されたオークの首と一緒にゴブリンを斬り、タイロンの目の前で雄叫びを上げると、その横から王国騎士団のグラディエーターが後ろから頭をカチ割る、倒れて来たオークをタイロンがよけると、その上をアサトが飛び越えようとするところを、オークが横から斧を向けて横振りをするが、熊の亜人が盾でその攻撃を防いで小さく微笑んで見せた。


 反対からもオークが飛び込んでくる、同時に王国騎士団の盾持ち戦士がその攻撃を防ぐと、その反動で飛ばされるが、アサトの一歩が早く巻き込まれずにいた。

 大きな雄叫びをあげ、突進してくる巨大鬼オーガが左脇に確認できたが、

 「戦い方は見ていた!」と狩猟者数名と犬の亜人、そして、ゴブリンが声をかけ、その巨大鬼オーガに向かって進んで行った。


 アリッサの目の前にオークが立ちはだかると、盾をぶつけ剣を刺す。


 一度動きが止まる、と同時にアサトがアリッサの脇からすり抜け、刺されたオークの後ろに立つと、1本の太刀を仕舞い、次に来るオークを迎え撃つ。

 両手で太刀の柄を握り、その柄を右耳の近くに持ってきて、刃をオークに向けた構えをとる。

 そのアサトにオークが剣を振り上げた瞬間にその態勢のまま、一歩踏み出すと同時に『突き』の技を出す。


 刃はオークの右目に刺さると、体を押し付けるようにオークに向かい二歩目を繰り出し、オークの目から後ろ頭へと刃を貫通させ、オークを蹴り、後ろに倒すと別のオークが目の前で斧を振り上げ、降ろし始めていた、…体が勝手に動く。


 太刀を素早く抜いて、その斧の刃に向かわせると、アサトの刃が当たった瞬間に、斧の刃に対して太刀の刃を少し斜めにしながら斧の軌道を変え、オークの脇に入り、その流れのままにオークの首の脇を斬る。

 噴出する血がアサトの背後にあり、そのオークはそのまま前のめりになって倒れた。


 まだ乱戦は続く。


 アサトが次のオークと対峙をした。

 オークは斧を振り上げ勢いをつけて振り下ろす、それを脇から王国騎士団の盾持ち戦士が出てきて盾で止め、払うと同時に犬の亜人がオークの首に剣を突き立てた。

 すぐ後ろにいたオークが、犬の亜人に向かいこん棒を振り下ろすが、王国騎士団の盾持ち戦士が防ぐ、と同時に、今度はゴブリンが、盾持ち戦士の背中を踏み台にして飛び上がり、オークの頭に抱き着くと首の後ろに剣を突き立てた。


 盾持ち戦士の背後にオークが現れ剣を背中に突き刺すと、巨大ゴブリンが、そのオークの背後から現れ、オークの頭を抱えて首を掻き斬った。

 その後ろをタイロンが通り過ぎ、次のオークの波に対峙する。


 オークは2本の大剣を振り回し、タイロンの盾を容赦なく叩きつける。

 両手で持って防ぐのが精一杯であった、すると、タイロンの脇からゴブリンが出て背後に回ろうとしたが、別のオークの刃の餌食になった、だが、タイロンの背後にはそのゴブリンだけじゃない。


 次々とタイロンの脇からゴブリンが湧き出て、最後に犬の亜人が出ると、タイロンを襲っていたオークのわき腹を狙い剣を突き刺した。

 散らばったゴブリンらは、大半がオークの刃の餌食になっていたが、残ったゴブリンは次々とオークの顏に飛びつき視界を奪った。


 もがいているオークをしり目にタイロンとアリッサ、そして、アサトの順でその場を通り過ぎると、なにやら上からやじりが5個落ちて来た。

 石が石にぶつかる音と共に何度かはねながらその場に落ち着くと、タイロンがその数歩前に立ち止まる。


 それを見て、アリッサ、そして、アサトと立ち止まり、そのやじりを見つめると、やじりは黒く淡い煙をまといながら立ち上がり、渦を巻く、その速度が増して一気に消え去ると、その場に雄牛の頭を持ち、筋肉をまとったような体を持つ半獣人がその場に現れた。


 獣人の亜人に近いが…、どうやらそうでもなさそうである。


 「…呪術師め…厄介なのが現れた」とタイロンが言葉にする、アリッサは振り返りクラウトらを探した。

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