第27話 『歴史に名を残す』戦いの開幕 上

 ロッドを持つ手が震えている。

 システィナの目の前には、焼かれたオークの負傷者が壁と壁の間でもがいている姿が見えた。

 オークも想像をしていなかったのだろう、奇襲と言えば奇襲である。


 この数日、森の周りには偵察や観察、怖いもの見たさの者が押し寄せていたが、襲撃をする者もいなく、ほとんど無防備な状況であった。


 それが、どうした事か…。


 森の周辺が少し慌ただしくなったと思ったら、拓けた場所に炎の線が入ると業火となり立ちあがった。

 2メートルほどの高さになると、今度は2つに分かれ、その立ち上がった炎の間が道となった。


 別れた炎に焼かれ、火傷しているオークは少なくない。

 炎の壁の間に作られた道、その道を進んでくる人間…。

 オークらは、この襲撃を予想もしていなかったので装備も整っていない。

 慌てているオークらをしり目に、炎で出来た壁の間を進む人間が4名…。


 さぁ~戦の始まりだ!


 ダザビッシャは、その4名を見て口角を上げた。

 1階の屋上、ダザビッシャの後方では、オークプリンスが快楽に浸っている。

 ガックバムは大きな剣を手に取り、その動きを注視している。


 クラウトは、拓けた場所の状況を見ながらその周りの森を見ている。

 周りの動きは…、動かない…のか?なら…


 「勝てるはずがない…」と兵士が言葉にする。

 その言葉にクラウトは振り返り、「…そうかもしれませんが、確かに、ここにいるあなた達をみんなが見ています。たぶん、僕らはここで全滅しても、永遠に語られるでしょう、『オークプリンス』に初めて挑んだパーティーと…、そして、こうも言われるでしょう…。その英雄の戦いを、指をくわえて見ているしかない、腰抜けの隊長を持つ…王国へっぽこ軍と…」と言いながら、クラウトは小さく笑った。


 その笑いにシスティナも笑い、「戦えるって…素晴らしいですね」とクラウトに言うと、「あぁ…僕らは、この戦に名を残すことが出来る。腰抜けとは違ってね」と横目で兵士を見ながら言葉にする。

 「…」歯ぎしりをしながら握った手に力を入れ、王国軍騎士団、団長リアンは、きびすを返すように振り返り、来た道をそそくさと戻って行った。


 「…さぁ…、あなたたちの力が必要なんです。もう僕らより先にプリンスの首を狩らなければ…あなた達の立場は無い…」と小さく言葉にしながらその後ろ姿を見た。


 4名は、火傷で立てないオークの首を斬りながら進んでいる。


 タイロンとアリッサを前にアサトがその後ろにつく、そして、その後ろをケイティがついている。

 「がはははは…シスもいい仕事するな!」とタイロンが言うと、「システィナさんは、見えないところで頑張っているんです。」といいながら小さく笑みを見せた。

 「…信じているんだ…仲間を…」とアリッサが言うと、「はい!今も、僕の前にいる、ジャンボさんとアリッサさんを信じています。そして、ケイティさんも!」と言いうと、「さぁ~来るぞ!」とタイロンが盾を上げた。


 その行動に合わせてアリッサも盾をあげると、「ケイティ…ごめんね。わたし…」と言い、振り返り笑みを見せる。

 すると、ケイティも笑顔で「…大丈夫、案外…あたし、この雰囲気楽しいかも!」と親指を立てて見せた。

 やんわりとした光が4人に降り注ぐ、1層…2層…3層…と、クラウトの3層の光の防御である。

 「相変わらずいいタイミングだ!」とタイロンが言葉にすると同時に、タイロンとアリッサが、オークの第一陣と激突した。


 タイロンはオークより大きいが力はオークの方がある、…が、一度その力を経験したタイロンの行動は違った。

 「女!腰を落とせ!腰で!受け止めろ!受けたら攻撃だ!その繰り返し!」と言うと、「わかった!」と言い、オークが攻撃してくるのを両手で盾を持ちこらえた、そして、「真ん中行きます!」とアサトが突っ込む。


 二人が盾を開いて進路を作ると、そこを通り抜けながら鞘から刃を抜き、アリッサに襲い掛かっていたオークのわき腹を斬る、そして、振り返り背中を斬り、間髪おかずに首の動脈を斬る。


 倒れるオーク、そして、アサトを狙うオークが近付いてくると、アサトの脇を、姿勢を低くして通り抜けるケイティが、足の関節にある腱を斬り、倒れかけたところを首を狙って短剣を突き刺した。


 今度はケイティを狙う別のオーク。


 そこにタイロンが体当たりをすると、そのまま倒れ込み馬乗りになって大剣を突き刺す、また別のオークがタイロン目掛けて斧を横振りする。


 それをアリッサが止め、再びアリッサの後ろからアサトがオークの背後に回り、両足のアキレス腱を斬る、オークは斜めに倒れる、その上にケイティが乗っかり首に短剣を突き刺した。


 立ち上がり振り向きながらタイロンは、ケイティを襲おうとしていたオークの首へと剣を振るう、すると、剣がオークの首を半分斬った、そのオークを蹴飛ばしてアリッサが進む、そこにオークが大剣を振り下ろしてくる、アリッサがその剣を盾で止めると、アサトが横から現れて、再びアキレス腱を斬る。

 痛さに上を向いたオークの頭を脇に抱えてケイティが飛び、オークを仰向けに倒すと、そこにアリッサが剣を突き立てた。


 攻撃はまだまだ続く…。

 4人の狩猟者が、確実に、1体、そして1体とオークを始末している。


 そこには、オーク並みの体を持つタンクと、異様な輝きを放つ、細身の剣先を携えたアタッカー、火と風を巧みに使い、グールを退かせた魔法使い、大剣を振り、グールを圧倒するグラディエーターと、小さな体を利用してグールを翻弄した、煙のアサシン。そして、冷静な判断で指示を出す、黒服の神官。そのモノらが、行く百、幾千の狩猟者や採取者を餌食にしていた、凶暴であり、残虐なグール!と、この『ルヘルム地方』最大の『ギガ』グールを、巧みな戦術で、かつ、華麗に、そして、清らかに殲滅した。

 『勇者達のパーティー』…人呼んで、なぞのパーティーの姿が見えている。


 確かに、その場には存在していた…。


 あの『ギガ』グールを倒したパーティーと、同じ組み合わせのパーティーが。

 確実にオークを倒し、ゆっくりだが目標に向かって進んでゆく姿が、森にいる狩猟者の目を釘付けにしていた。


 「まじか…すっげ~ぞ!」と言い、狩猟者が立ち上がってその場をみていると、クラウトらと話していたリーダーが来て「行くぞ!」と声をかけた。

 「行くって…」

 「俺たちも名を残すのだ!この戦で!」と言い、武器と装備を整え始めた。

 周りにいた狩猟者らも装備を始めている、森の各所から聞こえてくる言葉は、 「歴史に名を残すんだ」と言う言葉が多く聞こえてきていた。


 建物1階の屋上でガックバムが咆哮をすると、拓けた場所にいるオークが一斉に咆哮をはじめ、武器や盾、そして、鎧を叩き始めた。

 同じくダザビッシャも咆哮をあげると、一層けたたましいオークらの咆哮と共に、『パインシュタインの遺跡』を揺るがし、そして、木々や地面をも揺るがした。


 「本気になったか…」とメガネのブリッジを上げてクラウトが言葉にすると、システィナが肩をすくめて不安そうな表情に変わった。

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