第23話 討伐戦への狼煙 上
休憩などを挟んで、約2時間強で目的地近くにある、国王討伐隊の野営地に着いた。
ここが本日の野営地になるようである。
辺りを見渡すと、拓けた草原が広がり、ホープパインの木が所々に点在してあり、
その手前には盛り上がった森林があり、話によれば、この森林を2kmほど行くと『パインシュタインの遺跡』があるようだ。
周りは野営の準備を始めている。
その光景を見てから、クラウトの指示のもと『パインシュタインの遺跡』に向かい進み始めると、アサトらを見つけたケイティが駆け寄ってくる。
話しを聞くと、知り合いのパーティーに入れてもらいここに来たようだ。
作戦内容に疑問を持っていたクラウトが、ケイティに作戦の内容を話すと驚いていた。
作戦会議があった事も知らないようである。
クラウトは少し考えてみた、どうもおかしい。
広場に集まっている者らを見ると、しっかりとしたパーティーと言えるのは、ほとんどギルドのパーティーくらいで、単独や少人数での参加者が多いようであり、ケイティらと同じように急ごしらえのパーティーも多いようだ。
考えれば、あの場に集まっていたのも、ギルド所属のパーティーのリーダーだけなら作戦が伝わる訳が無いと思う。
ケイティが、出発前に作戦参謀と言われる者に聞いた、と言う話を聞くと、まずは班編成で、アリッサが奇襲作戦第1陣。ケイティが第2陣のようである。
入り口を守る第一陣にアリッサで、第2陣にケイティとの事だった。
その後に作戦要綱が伝えられたようだ。
その内容は、
入り口制圧時に第1陣が壊滅された場合は、第2陣が殲滅にあたり、第2陣が壊滅された場合は、第3陣が殲滅にあたる…。
入り口奪取後に第1陣が壊滅された場合は、第2陣が殲滅にあたり、第2陣が壊滅された場合は、第3陣が撃退にあたる。
入り口封鎖にかかる時間は30分と見ているので、その時間を守り抜けるように力を合わせて頑張ろう!との事だった。
クラウトの表情が曇った。
思った通りなのかもしれない。
作戦会議の内容と皆に伝わっている内容が…どうも大事なところが抜けている、一番大事な事、…撤退についてだ。
この事は多くの狩猟者には届いていないようであり、現にケイティはその事を一言も言っていない。
意図的に参謀が教えなかったのか、それとも、ただ単に忘れていたのか…。
また、ギルドマスターが、適切な時に適切な状況で判断をして下す、と言うのも曖昧過ぎる。
どのような状況になったら撤退するのかの線が無い…となれば…。
ケイティは重く考えてはいなかったが、とりあえず今回の作戦はうまく行く保証がないと伝えて、この討伐戦の参加を辞退させようとした。
ケイティは、自分では判断できないと言いアリッサを呼んで来た。
アリッサが来ると、クラウトは、自分が描いたこの討伐戦の見立てを言葉にしたが、アリッサ自身、ここまで来て帰る事は出来ないと参加辞退を拒否した。
とりあえず、自分らが帰るまで考えてみてくれとアサトが提案して、まずは、当初の目的の状況把握をする事になり、『パインシュタインの遺跡』へと向かった。
ケイティもついて来ると言い、アリッサも同行することにした。
6人で『パインシュタインの遺跡』へと向かう。
慎重に森を走る獣道を通る、その道すがらクラウトの目には色々見えていた。
有志連合に所属していないと思われる狩猟者パーティーや、獣人の亜人のパーティー…そして、ゴブリンの一行も確認できていた。
向かう途中で王国兵士の数人とすれ違い、その時に交わされていた会話によると、一応、見張りには何名かは出ているようである。
少し小高くなっている斜面を登る。
最初にアサトが登り、辺りを見渡し安全の確認をすると皆を呼んだ。
繁みに隠れながら進むと『パインシュタインの遺跡』が目に入って来た。
周囲は森だが『パインシュタインの遺跡』前は大きく拓けている、森を伐採したのであろう。
『パインシュタインの遺跡』は3階建てであり、その遺跡と広場を囲むようにレンガの壁が建てられてあった。
『パインシュタインの遺跡』前の拓けた場所には、多くのテントが見受けられ、各々が、好きな格好でくつろいでいるオークらが目に入った。
一階に当たる建物中央には、大きく開いた入り口がある。
その両脇で、
そこから少し行ったところに、1階屋上へと登って行けるように階段が左右に延びていた。
一階にあたる場所の中央に2階らしき建物がある、その建物の左右は、一階の屋上になっていた。
一階屋上の左側に当たる場所には祭壇があり、なにかの儀式が行われたような形跡があった。
右側には、石で作られた屋根付きの小さな建物が見えた。
クラウトは手持ちのスコープを取りだして、その建物をみる、なかに人のような影を見つけた。
2階建物の屋上へ続く階段は確認できなかったが、2階屋上にもオークの姿が見えたので、たぶん裏側か屋内にあるのではないかと推測する。
その2階建物の上にも小さな部屋があり、そこが3階であり、部屋のなかにオークらが確認できた、監視部屋となっているようである。
そのオークらが、森に向かって指を指しながら笑っているのをみると、この場に狩猟者らが来ている事は織り込み済みのようである。
『パインシュタインの遺跡』前の拓けた場所では、
確かに…建物の様相と、予想された数のオークと
システィナがクラウトを小突く。
システィナに視線を移すと、システィナが森を通る道を指を指していた。
そこには、その道沿いに何かが串刺しにされてあった。
朽ち果てているが、顔の骨格や体つきを見るとライカンのようである。
『パインシュタインの遺跡』より離れたところのライカンの屍は、他のライカンより一回りも大きい、たぶん『デ・ライカン』であろう。
さて…。
クラウトが辺りを見渡しながら状況を把握している。
さっきの道を通って何体かのオークが『パインシュタインの遺跡』に向かってゆくのも確認が出来た。
あとは…確認するのは、『オークプリンス』のみである。
そのモノが召喚石の持ち主なら…と思っていると、拓けた場所にいて、各々、好きな格好でいたオークらが一斉に遺跡の方向へと視線を移すと、座っているモノは立ち上がり、剣を交えていたモノは剣を収め始めた。
入り口の
すると…1階の屋上にいたオークが雄叫びをあげ、なにやら言葉を発すると、遺跡入り口から装備を整えた鎧のオークが出てくる、そして、時間を置かずにもう1体、同じくらいの大きさのオークが出て来た。
「ダザビッシャ!」とスコープを覗いていたクラウトが声を上げた。
2番目に出て来たオークには、目の下に見覚えのある傷が確認できた、旧鉱山で巨大ゴブリンを一撃で仕留めたオークだった。
クラウトの言葉に、アサトとタイロン、そして、システィナに緊張が走る。
周りもにわかに騒めき始めている。
アサトは森に身を潜めている者らを一通り見てから、再び遺跡へと視線を移した。
続々と出てくるオークたちは、2体のオークより一回り小さいが、杖を持ち呪術者のようなローブを羽織っている者や、装備を整えて剣を背中に携えた者、斧を背中に背負っている者らが出てくる、その数6体。呪術者が2体に戦士系が4体。…それだけではない。
スコープを覗いているクラウトの表情が凍った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます