第21話 『オークプリンス討伐隊』出陣 上

 東の空の色が変わってきていた。

 白々とした夜明けの前触れを見せ始め、空と地上の境目を映し出し始めている。


 「…そう思うんだ……、おかしいね…」とアリッサが言葉にすると、少し照れながら、「おかしいですね…ホンとは逃げたいです。でも…強くなるためには…超えなきゃならないモノってあるんじゃないですか?」と言い、明け始めた空を見た。


 「強さ…か…」とアリッサがつぶやくと、「はい、僕は弱いから…強くなりたいと思っているんです…でも、『強い』と言う意味がわからないんですけど…」と小さく微笑む。

 「…弱い…か…」と言い、アリッサはまた、『パインシュタインの遺跡』の方角へ視線を移した。

 「…わたしも弱いけどね…信じているんだ…」と、弱く言葉にした。


 「信じている?」とアサトが言うと、小さく頷き。

 「うん…まだ生きていると…だから…、でも」と言い小さくうつむく、その仕草に、拉致された仲間が生きている事をアリッサは信じているんだ…。と思った。


 その気持ちは大事だと思う。

 経験は無いが、これからも無いとは言えない、その気持ちは持たなければならない気持ちの一つなのかもしれない。


 アリッサを見ていると、俯いていた視線を上げて、まっすぐな視線でその方向を見ている横顔になった、精悍で綺麗な顔立ち、そして青い瞳で遠くを見つめている。

 「そうですね、信じる事は諦めないと言う事だと僕は思います。」とアリッサが見ている方向を見てアサトが言う、「諦めない?」と言いながら、アリッサはアサトを見る。

 「ハイ、諦めなければいいんです。諦めないから信じられるんです…なんて」と笑いながら、石の柵に手を乗せて空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 「あなたたちは…遠征に来ているの?」と聞くと、アサトは振り返りアリッサを見る。

 「ハイ…と言いうか、そうですね…」といい、少し考えてから「そう、まだ…遠征です」と言葉にすると、アリッサが小さく驚いて、「…なんか、訳ありって感じだね…」と小さく笑いながら言葉にした。

 「へへへへ…」と頭を撫でて変な笑いをするアサト。


 「私も弱い…、もっと強かったら…ヤヌイを奪われなくても…」と言うと、「そうですね…、アリッサさんは弱いですね。」と言い、笑みを見せながら振り返り、明けてくる空を見た。

 その言葉にうつむくアリッサ。

 「でも、もう結果論です。たら、ればは、いつでも言える。ぼくもそうです。この言葉は簡単に使えますもんね」と言うと、小さく頭をかいて、「でも、『強い』と言う言葉だけで、守れるものなのでしょうか?…」と言い、アリッサを見た。


 「…確かに、力が強くて、アリッサさんの仲間も救えたとしても…。結果はいいです。でも、それが『強さ』なのでしょうか?」と言い、少し考えてから、「それでいいなら…いいんです。でも、『強い』の意味は、もっと違うんじゃないかな?って思うんです。…だから、僕は旅をするんです。…あっ、まだ遠征中だった。」と笑って見せた。


 「…旅?」と返すアリッサ。

 「ハイ、僕らはこの遠征を経て、この地の目的を達成したら、この黒鉄くろがね山脈を越えるつもりです」と言葉にすると、「越える?」と返す。

 「ハイ、この山脈を越えて、そして、海を越えて、この世界を知り、そして、知らない事を学んでこれからどう生きるかを決める…。」と微笑みながら言った。

 その言葉に「決める……」とアリッサがその微笑を見てつぶやく、その呟きにアサトは答える。


 「はい…すみません。僕は…旅の果てに、自分がどう生きるかを決めたいと思うんです…、このまま狩猟者で生きるのか…、それとも狩猟者じゃなく生きるのか…。」と言いながらアリッサを見て大きく微笑む。


 「…ぼくは弱いです。こんな事も決められないほどに弱いんです。だから、今できる事を、精一杯やってみたらどうかと道を提案されました。今、その準備段階なんですが、ここまで来る道中にもたくさんの事がわかったし、学びもしました…、まっ、そんなに多くは無いですが…、でも、この山脈を越えた場所には、まだまだ僕の知らない事が沢山あるはずなんです。だから、旅をします。困難な事は沢山あると思いますけど…、でも、僕には仲間がいるんです。こんなどうなんだ?って、思うような僕に付いて来て、盾になってくれたり、アドバイスをくれたり、支えてくれたりしてくれる仲間が、…だから…強くもなりたいって思います。」と言いながら腕組みをして、少し首を傾げて見せる。


 「…でも、その強いと言う意味がイマイチわからないのですよ…。」と言うと、頷きながら、「兄弟子も言っていました。強いと言う意味がわからない…と、なにをどうとらえれば強いと言えるのか。」と言いアリッサを見る。

 「その強いと言う言葉は、人それぞれなのかも知れません、たぶん。だから…ぼくは、ぼくなりの強さを身に着けたい。自分を守れる、そして、仲間を守れる強さを…だから…その強いと言う意味も、旅をして見つけようと思うんです。」と言いながら振り返り、再び遠くの境界線へと視線を移した。


 「強さ…」とつぶやくアリッサ。

 「アリッサさんの信じる気持ちも、僕は『強さ』を感じますよ」と笑う

 「わたしの…つよさ……」と再び小さくつぶやく。


 「ハイ…信じている、信じ続けようと思う心、その心が、一人でパインシュタインの遺跡に、毎日のように足を運ばせているのであれば…それは、ほんとに強さなんだと思います。」と言い風を感じる。


 「…そうなのかな…」と、アリッサは、アサトの背中を見て言葉にすると、「はい…、まっ、弱い僕が言うのもなんですが、その強さ、僕も欲しいと思いますよ。」と言いながら振り返りアリッサを見た。


 辺りは明け、もう既に街の色を取り戻していた。

 もう少しすれば1の鐘が鳴る時刻だろう。


 結局、宿屋は見つからずに馬車小屋へと行き、その前の広場で修行をした。

 2の鐘がなる頃にタイロンとシスティナが現れるが、昨夜の一件があったせいか、システィナを見ることが出来ない、と言うか、システィナの胸に目が行ってしまう。


 馬車小屋を開けてもらうと少し眠る事にした。

 システィナは申し訳なさそうにしていたが、タイロンと街に買い出しに行くと言い、その場を後にした。


 それで、ありがとうです。

 近くにいたなら…また、変なアサトが出てきそうなんで…。


 クラウトは情報収集に出掛けたらしい、この街の依頼所へと宿屋から直行したみたいであった。


 かなり眠かったのか、3の鐘の音も分からずに熟睡していたようである。

 起こしにシスティナが来てくれた。

 その格好は…すでに魔法使いのローブを着込んでいて、ロッドと尖がり帽子を手にしていた。

 黒い神官服のクラウトが、なにやら紙を見て険しい表情で荷馬車のすぐそばにいた。

 タイロンは、クラウトの近くで盾を横に置き大剣を磨いていた。

 起きて来たアサトに一同が気付くと、クラウトが得た情報をみんなで聞いた。

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