第18話 人呼んで『謎のパーティー』 下
その表情は、眉間に皺をよせて、目は血走っていた。
先ほどまでのおどけた表情が嘘のような、憎悪を滲ませた表情だった。
「よかったら…聞かせてくれるか?」とクラウトが言うと、その言葉に大きく息を吐いて、ホークを握る手の力を緩めて肉を口に運ぶと、大きく咀嚼してからエールと共に飲み込んでクラウトを見た。
「…君たち…ほんとに『謎のパーティー』知らない?」と、半分瞼を落として言葉にした。
ケイティの話しだと、『謎のパーティー』は、ここで言うのもおかしいがアサトらの事である。
なぜ彼女がそのパーティーを知らないかと言うと、ケイティ達のパーティーは、4週間前に『オークプリンスの一団』に仲間を拉致されたようである。
その場にいたアリッサが責任を感じて、毎日のように『パインシュタインの遺跡』へと足を運び、時々、オークと一戦交えて帰ってきているとの事だった。
幸いにも単体のオークとの交戦だけで済んでいたが、先日、ボロボロになって帰って来た時には、近くにいた狩猟者に救われたとの事である。
ケイティは、この酒場で情報を得る為に来ていたが、その時に『デルヘルム』から遠征に来た狩猟者の話しで、その『謎のパーティー』の話を聞いたようだ。
その場にいた狩猟者も、体長7メートル近くの『ギガ』グールを倒したパーティーならなんとかしてくれるのではないかと言いだし、この街の狩猟者が、その『謎のパーティー』の登場を待っている…、との事だった。
ただ、どこのどんなパーティーなのかも分からないし、本当に体長7メートルもある『ギガ』を倒したのかも確認できないとの事で、狩猟者の意見も分かれたのだ。
ケイティは実際に存在すると思っているようである、と言うか、このままだとアリッサまで失ってしまうと言っていた。
ケイティは、毎日のように『デルヘルム』方面から来る狩猟者を見つけては、この事を聞いているようだ。
そもそも、『ギガ』を倒したパーティーは、『パイオニア』と言うギルドに所属しているようだが、誰がリーダーで、どんな名前なのかも分からないと言う事であった。
クラウトにギルドの名前を聞いていたが、彼は別のギルドの名前を言っていた。
その行動には、必ず意味があるのだろう。
『オークプリンス』を見た者はいない、だが、この街を襲撃しているオークは組織的に動いているようである。
襲撃は、いつ来てもおかしくはないとの事だった。
その為に街外れにいる、国王軍の残存兵に街の警護を頼んでいるようだが、軽くあしらわれているようであった、と言うか、そもそも戦意が消失しているようである。
街の権力者が総出で、この『オークプリンス』に懸賞金をかけた。
その額は金貨1000枚。
これは、幻獣討伐の懸賞金と同じ額であり、それだけ危険視されているようである。
その討伐に、街で第4の勢力を持つギルド【スパリアント】が先頭になって、有志連合が結成されているようである。
参加人数は、現在、有志で90名ほどと言う。
参加者は、ケイティ達と同じく、狩猟仲間を拉致されたり、殺されたりした者や、同じ状況になっている街の民、そして、衛兵らのようだ。
アリッサも参加しているとの話で、ケイティは心配していた。
一応、ケイティも参加の表明はしているようだが、オークと一戦交えた事があり、その強さにすこし迷っているようだった。
その有志連合の出発は、明日の4の鐘と同時に進行するようである。
『パインシュタインの遺跡』に午後15時をめどにして到着する。
その日はそこで野営をして、翌日、日が昇ると共に奇襲をかける作戦のようであった。
最後に、この周辺、『パインシュタインの遺跡』に、『ルヘルム』地方のオークが集結しているのではないかと言う、毎日のように、『パインシュタインの遺跡』方面に向かうオークの一団を見かけるようだ。
その話に、クラウトの表情が強張っていた。
たぶん、何かを想定していたのだろう、『ウルラ』郊外でも同じ表情で不吉な言葉を発していたから…。
ケイティは、明日にでも立ち去った方がいい、もし、有志連合が負ければ、報復は、その日の内にあると思うからと、言葉を残して店を出て行った。
クラウトの表情は晴れていないと言うか、一層、不快な表情になっていた。
そこで、その表情の意味を聞くと話し始めた。
クラウトの推測では……、
文書の言い伝えで読んだ事がある、それは、オークを束ねるモノの存在。
その者は、額に深緑の召喚石が生えている。
50年から100年に1度、そのモノが誕生すると、オークらが集まりその地を統治する。と言う事であった。
約80年前に、海を隔てた『ロッシナ王国』で、その現象が確認されて、国王軍と義勇兵の一団で討伐したとの話が最近の話しである。
その前には、オークが一つの国を滅ぼし、数十年統治して、近辺の国々に損害を与えたと言う事例もあるようであった。
その時には、銀髪の剣士と仲間4名で、このオークの王を討伐した模様であるとの言い伝えもある。
この『オークプリンス』が、召喚石の保有者なら、そのモノは、今まさに軍を組織しはじめていると思う。
女らや食料を拉致している者は、その軍での権威を勝ち取るために、捧げものとして略奪や拉致をしているのではないか…、となると、この襲撃が収まった時には、『オークプリンス』の軍が完成した証拠になると思う。
オーク各々の役職が決まり、意思の疎通ができると、この『ルヘルム地方』制圧に動くと思われる。
そうなれば、『デルヘルム』も『ゲルヘルム』もあっという間に滅ぼされるであろう。
この一団が
だから…今のうちに討伐しておかなければ、大変な事になる…という推測だった。
「…なら、行ってみましょう…、その『パインシュタインの遺跡』へ、その状況を見れば、クラウトさんも分かるのではないでしょうか?」とアサトが言うと、その言葉にメガネのブリッジを上げて
「…行くだけだからな…」と鋭い視線で言葉にした。
アサトは小さく頷く…。
旧鉱山で会ったオークの威圧感を考えれば、到底、勝つ事は出来ない、と言うか、不可能である…、あれで側近なら…『オークプリンス』とは、一体どれだけの力を持っているのであろう…と思っていた。
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