第17話 人呼んで『謎のパーティー』 上

 糸玉の換金は、1メートルの球が金貨20枚、80センチの球が金貨15枚、そして、50センチの球が金貨10枚であった。

 宝石と鉱石は、金貨2枚…ケイティの言う通りであった。


 『ゲルヘルム』の正門は、大きな石を積んでいて、門の扉は鉄で出来ていた。

 8の鐘までは開いているが、8の鐘が鳴ると共に締まるようだ。

 その大きな鉄の扉の両脇に高さ2メートル程の扉があり、8の鐘以降の出入りはそこからでなければ出来ないようであった。


 幅6メートル、高さ8メートルの門を過ぎると、直径20メートル程の半円の広場があり、そこで入門の手続きをする事になる。

 手続きが終われば、馬車があるパーティーは、入って右側にある道へと案内される。

 その向こうには大きな馬車の停車場がある。

 その停車場は、一軒の建物で、ここでの宿泊も可能であるようであり、馬を4頭まで繋いで置ける馬房もあった。


 その建物は扉にもカギをかけることが出来る。

 ただ、1日銅貨20枚を支払わなければならないようだ。


 残念なことに馬車を止める所はここしかなく、ここに止めなければ、壁外での野営しかないようである。


 街を見た限りでは、物価も高く、人も生活水準が高そうな感じが漂っていた。

 だが、一歩裏路地にはいると、庶民向けの商店街や飲食店街、そして、露店などがあり、そこそこな狩猟者でも楽しめそうな場所もたくさんあった。


 黒鉄くろがね山脈以南の地方を『ルヘルム地方』と言うらしい。

 その地方で、この『ゲルヘルム』は最大の街であり、人口も10万人は超えるであろう。

 夜になっても歓楽街の灯りは消える事が無いようである。


 換金を終え、今日は宿屋で部屋を一人一部屋取ったアサト一行は、馬車館でケイティを待っていた。


 7時を少し回ったころに、ケイティと知り合いの2人が現れた。

 ケイティは相変わらず元気だったが、知り合いの女性は、すこしうつろな眼差しと青い瞳、そして、やつれ切った表情が印象深かった。


 背丈はアサトより少し小さく、長いスカートと長袖の布で出来ていると思われるシャツを着て、きれいでまっすぐなストレートの金髪を一つに束ね、肩から前にたらし、とてもきれいで精悍な顔であった。


 そして…名前はアリッサ。

 彼女がそこで言葉にしたのは、名前だけであった。


 ケイティの案内で、裏路地にある酒場へと向かう。

 その酒場は、『デルヘルム』の『ジーニア』の店に似た雰囲気があり、6人掛けのテーブルが20席ほどと長いカウンターに、壁際には、2人掛けのテーブルと4人掛けのテーブルが並んである。

 100人以上は入れそうである、また、2階は吹き抜けとなっており、大きめのソファーが並び、区画ごとに仕切られていた。

 どうやら、上客専用のようである。


 奥にはステージもあり、音楽を演奏しているようでもあった。

 それは、『ゲルヘルム』特有の雰囲気なのだろうと思う。


 ここにも兎のイィ・ドゥがウエイトレスをやっているようである。

 ケイティは、常連客のような会話で、壁際の中ほどにある6人掛けのテーブルへと勧められて、そこに座った。


 奥にアリッサが座り、ケイティ、そして、システィナが座った。

 システィナの向いにアサトが座ると、クラウト、そして、奥にタイロンが座った。

 エールを4つにジュースを2つ頼む。


 席に座るなり、金貨を2枚ケイティがテーブルに出すと、これは足長蜘蛛の解体で出来た外殻の換金といい、残った身の部分は、立て看板を立て『お持ち帰りOK!』と書いてあると言う。

 足長蜘蛛の身は上質の肥料になるようだ、ただ、それを換金してくれる所も無く、早めに処理をしないと、これまた使い物にならないようであった。


 アサトはその金貨をケイティにあげると言い、クラウトが金貨5枚をケイティに渡すと、ケイティはニカニカ顔で3枚をアリッサに手渡した。


 アリッサの表情が気になる。


 エールが届くと、とりあえず今日の思わぬ収入に対して乾杯をした。

 食べ物もケイティに任せると、どんどん運ばれて来るのにシスティナが目を丸くしていた。

 アリッサは、エールを一口飲んでその場に置き、エールを見つめている。


 「君たちは、『デ』からきたの?それとも『グ』?」とケイティが運ばれてきた肉を頬張りながらアサトらに聞いた。

 「『デ?』『グ?』」とアサトが言うと、「うん、『デルヘルム』?それとも『ゲルヘルム』?」と聞きなおす。

 その問いに「あぁ~、僕たちは『デルヘルム』からだよ」と、アサトが答えると、頬張っていた肉を急いで咀嚼し飲み込んだ。


 「そいじゃ、『勇者』知っている?」と目を大きくして言う。

 「『勇者』?」とアサト、その隣のクラウトとタイロンは目を合わせ、システィナはコップに口をつけたまま、コップの淵の向こうからアサトを見ていた。


 アサトは、クラウトを見てからシスティナを見た。

 システィナは首を傾げていた。

 「あぁ~ごめんなさい…僕ら知らないみたい…」と言うと、ケイティは口を尖らせながらエールを口に運んだ。

 「…その『勇者』と言うのは?」とクラウトが言うと、コップを置いて立ち上がった。

 「…その者は!」と胸に手を当てて。


 「いずこより来たのか分からない、謎のパーティー。オーク並みの体を持つタンクと、異様な輝きを放つ、細身の剣先を携えたアタッカー、炎と風を巧みに使い、グールを退かせた魔法使いと、大検を振り、グールを圧倒するグラディエーターと、小さな体を利用して、グールを翻弄した煙のアサシン。そして、冷静な判断で指示を出す、黒服の神官。そのモノらが、行く百、幾千の狩猟者や採取者を餌食にしていた、凶暴であり、残虐なグール!そして、この『ルヘルム地方』最大の『ギガ』グールを、巧みな戦術で、かつ、華麗に、そして、清らかに殲滅した。『勇者達のパーティー』…人呼んで、!」と言うと、納得したかのように目を閉じて小さく微笑んだ。


 「人呼んで…って…」とタイロンが言葉にすると、「…あっ、そ…」とシスティナが言葉にしようとした時に、クラウトが小さく手を挙げて、その言葉を制止させた。

 「…で、知らない?『』」と言い、両手をバン!とテーブルに叩きつけてクラウトを見る。

 クラウトは、メガネのブリッジをあげて、冷ややかな視線をケイティに送りながら

 「それを知っていたら、どうなんですか?」と言葉にすると、ケイティは、頬を膨らましながら椅子に腰を下ろして「キューティーケイちゃんだって言ってんのに…」と言うと、続けて、「…知り合いなら……、なんとかしてくれって頼める…って思った…。みんなも色々聞いたりして、頼めるのなら頼みたいなって話していたんだ。」と言葉にした。


 「なんとか?」とクラウトが返すと、「うん…もう知っていると思うけど…、最近、この周辺が物騒なの…そして…」と言葉にし始めると。

 「ケイティ…わたし…帰る…」といきなりアリッサが言いながら席を立った。

 その言葉にケイティは止まり、そして、小さくうつむくと、「…わかった…」と返した…。


 アリッサはその言葉を聞くと、アサトらに小さくお辞儀をして、その場をゆっくりと後にする、その姿を5人が見ている。

 そして、その姿が店から出てゆく…。


 その場の雰囲気が凍り付いていた。

 状況を冷ややかな目で見ているクラウト。

 その横で黙ってエールを飲んでいるタイロン。

 そして、アサトはアリッサの出て行った扉を見ていた。

 システィナがジュースを口に運ぶと、その横で、ケイティが目の前にある肉にホークを突き立て力を込めて、「!」と怒りを込めた言葉を発した。

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