第14話 いよいよゲルヘルム到着。 下

 ほどなくしてスカンらが戻って来た。


 話を聞くと、死者は無く、負傷者は村の衛兵と、ここに野営していた狩猟者が数名で、拉致された女性を除けば、住民の被害者はいなかったそうだ。

 日中の襲撃だったことも功を奏したのか、地下室へ逃げ込み、食料などは取られたが、命は取られなかったと安堵しているようである。


 拉致された女性も、麦畑で農作業をしている女性らだったようだ。


 オークらは何か急いでいるようであって、1時間もしない内にこの村から消えて行ったとの事である。


 その話を聞いていたクラウトが、再び厳しい表情を見せていた。


 なにが引っかかっているのであろうか、クラウトが考える事は、いつも良くない事であって正論の場合が多い。

 アサトはちらっとクラウトを見て、その表情に少しだけ不安を持った。


 スカンの情報はもう一つ。


 夕べ、『ゲルヘルム』が襲撃され、そこから逃げて来た住人や狩猟者がこの村で手当てを受けているようだ。

 オークは『ダザビッシャ』と名乗り、拉致した家族や、狩猟者仲間にその名前を名乗っていたと言う。


 また、昨夜は、『ガックバム』と名乗るオークも現れたようだ。

 そのオークら一団が、街で大乱闘を起こし、各々の一団から死者が出ていたようであった。


 クラウトはその言葉に小さく笑みを見せた。

 アサトは、その表情を見逃していなかった。


 そして、『ゲルヘルム』では、家族や仲間を拉致されたり殺されたりした狩猟パーティーや衛兵団、一般住人らが集結して、討伐依頼を受ける話が上がっているようだと言う。

 『ゲルヘルム』での拉致された人数は、『オークプリンス』出現から約8週間で100名以上、その他の村などからも50名を超す女性が拉致されているようだ。

 『グルヘルム』の将軍に直訴に行っていた街の神官や高官らは、幻獣討伐直前のためにそこへは兵は出せないと言われ追い返されたそうである。

 それを聞いた街の民が一斉に声を上げたようだ。

 『オークプリンス』の一団は、この地方のオークらを仲間にして、日々大きくなっているとの事だった。


 「…早めに手を打たなきゃ、『デルヘルム』も、『グルヘルム』も…この地方すべてがオークの縄張りになる…『オークプリンス』は…もしかして…」と言うと、眉間に皺をよせてメガネのブリッジを上げた。

 その表情を見て「…クラウトさん?」と声をかけたアサト。

 その言葉に、アサトを見ながら

 「…違うといいんだが…」と意味深な言葉を発した。


 -----------------------------------------------------------------------------------

 『パインシュタイン遺跡』の地下5層。


 筋肉隆々の体は、血管が浮いて出ているほどに体脂肪の薄さを感じさせている、その体を持つモノが、亜人やゴブリン…そして、人間の屍で出来ている玉座にもたれ掛かり、頬杖をついて、目の前にある空間を気だるそうに見ていた。

 額には、深緑に輝くひし形のモノがついてあり、その深緑は、燃えているように揺らめいている。


 そこから数段下には、配下のオークが6体。

 戦士型のオークが4体、そして、呪術型のオークが2体が向かい合って立っていた。


 玉座を挟んで、2体のオークが進み出てきて、大きなモノが座っている玉座を挟んで立つと、その空間を見た。


 そこには、数十メートルはある広間に、埋め尽くすほどのオークの群れが装備を整えて立っていた。

 そして、両端のオークが咆哮をあげると…一斉に声を上げる

 「オークプリンスの為に!オークプリンスの為に!…」と…。


 その声は、『パインシュタインの遺跡』を揺るがす程の合唱になった…。

 -----------------------------------------------------------------------------------



 スカンらが、その討伐団参加を言葉にしていたが、クラウトとアサトに止められ、やむなく参加を断念する。

 そして、旧鉱山で採取した宝石を分けると、また会う事を約束して『パイセル』の村を後にした。


 システィナが少し寂しそうな顔をしているのが気になったが、スカンとその幼馴染の家族に何もなかった事に安堵はしていたようであった。

 遠征は、まだまだ序盤、仲間は必ず作れると言い聞かせながらシスティナを見ると、目が合ったので小さく微笑む、その微笑に小さく微笑んで返してくれた。


 それを見てから、アサトは再び走り出す。


 修行をしながら『ゲルヘルム』へと向かったが、馬車の前方、手綱を握るタイロンの横に座るクラウトの表情がいつになく厳しい気がした。


 小高い丘を越えると、『デルヘルム』の倍もありそうな壁でおおわれている街が目に飛び込んできた。

 丘の上に立ち、その広大さに目を丸くしているアサトに馬車が近付くと、タイロンは馬車を止めその街を見た。


 5メートル以上はあると思われる石の壁が、周囲何キロにもわたって街を囲っていた。

 街には高い建物や煙突、そして、民家であろうか、色とりどりの瓦屋根が隙間なく並んでいた。

 壁にも多くの見張り台があり、壁の上も歩けるようである。


 一人の衛兵がこちらを指さしているのがわかった。

 「…きた…ゲルヘルム!」とアサトが言うと、クラウトは頷く。

 馬車の荷台から正面の扉を開けて、システィナが顔を出すと、「わっ!」と声を上げた。

 その圧巻さに、アサトとシスティナは言葉を失っていた。


 「さぁ~、今夜はゆっくりと宿屋にでも泊まろう、宝石も換金しなければな」とクラウトが言葉にして笑みを浮かべた。

 先ほどの表情と違うのに安堵をアサトが覚えていると「…なにか手を振っているぞ!」とタイロンが指をさす。


 確かに壁の上にいる衛兵がしきりに何かの意思表示をしていた

 「うえ…っていっている…ン…じゃぁぁ…」とシスティナが言いながら上を見ると言葉を失っていた

 「?…どうし…た…ぁぁぁ…」とタイロン、クラウトも上を見る。

 そして、アサトも二人を見ながら上へと視線をむけると…、「…へ?」と、

 そこには、黒い物体が十数メートル上に浮かんでいる。


 それを見て全員が絶句する。


 確かに、その物体の影に今入った…ところで、

 …この生き物は…なに?とアサトは目を丸くして見ていると、「…足長蜘蛛!!」と言い、クラウトが立ち上がって指示を出す。


 「…これは大きな街に入る前に縁起がいい。これを狩る!システィナさんは、冷却魔法で右の前足を凍らせて、凍ったら左の足、前のめりで倒れたところに眠りの呪文を、タイロンとアサトが右の足の膝にあたる部分の関節を切断。それが終わったら反対の足も!そして、一気に首を切断!アサトは大太刀で、これがデビュー戦、しっかりと太刀を振るんだ。関節以外はかなり固いから、そこを攻撃すれば刃こぼれが起こる可能性がある。とにかく関節を狙って!」と言うと、一同が装備をする


 「装備はいらない、攻撃的な生きモノじゃない。今のままで大丈夫、ただ、押しつぶされないように!」と言うと、全員の頭の上に”?”が飛び出た、が、すぐに武器だけを持ち飛び出して行く。


 そして…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る