第13話 いよいよゲルヘルム到着。 上
クラウトが世話になった神官と、色々話を聞いた賢者に挨拶をして、アサトらは東の門の広場に帰って来ると、スカンの一行は出発の準備を整えて待っていた。
クラウトは荷台に乗り、なにやら探し物をしていると、アサトは身軽な状態になり馬車の前で準備運動を始めた。
タイロンが手綱を準備していると、システィナが荷台に乗り始める。
それと入れ替えにクラウトが出てくると、その手には長さ150センチ程の太刀が握られていた。
システィナの招きで女性陣が荷台に乗る。
準備運動をしているアサトを、ジェミーとラビリ、そして、スカンが見ている、そこにクラウトが現れ、アサトに長い太刀を見せた。
「これは?」とアサト
「長太刀だ…、今日からこれを持って走れ。そして、時々抜く訓練と素振りをしろ。今までの太刀とは違い、刃は長く抜きづらいはず…、そして、振りにくいはずだ。だが、そろそろこれも習得しておかなければならない…、通常での使用は、ほとんど無いと思うが、使わないと言う武器ではない。だから…今から、少しずつ訓練をするんだ」と言うと、長太刀をアサトに渡した。
確かに…これからの戦いには、このような武器が必要になるかもしれない。
ナガミチはその事を踏まえて、3本の妖刀を作り上げていた。
ほかの2本はいつでも使えるが、この長太刀は初めてであり、慣れておく必要があった。
「…妖刀?」とアサトが言う、その問いにクラウトは頭を振った
「…今回は妖刀は持ってきていない。遠征だからな。これは試作品。イミテウス鋼とドラゴンの鱗で作られた鉱石を鍛えて作ったものだ。」と言葉にした。
アサトはゆっくりと鞘から刃を抜くが、腕を大きく広げるような状態でなければ抜けなかった、感想は、実際に抜きづらい…。
これは、練習が必要だなと思った。
その刃は、冷たく輝く刃先と、薄灰色の淡い蒼に染まっている
その刃先と
長細く、そして、淡く反りかえる刃の先は鋭く、また、か弱く感じる刃であった。
通常、使っている太刀とはそんなに変わらないが、長さがあるだけに、異様な感覚、冷たく殺気立った感覚があった。
抜くだけではない、鞘に仕舞うのも一苦労である。
「脇に…おけないですね…」と言うと、クラウトはメガネのブリッジを上げて、
「背中を考えている…そのためには、戦闘時に邪魔にならないように装備できなければ意味が無い。アイゼンさんには、私かシスティナが所有し、必要な時に渡す事にしているが、混戦や乱戦になった時には思うようにうごけなくなる可能性がある。その為に色々なケースを考えなければならないと思っているから、これからの戦闘には、たまにそれを使う事にした。君が一番にベストな状態で戦えるように、君自体も考えてみてくれ」と言うと、その言葉にアサトは長太刀を見た。
ベストな状態…
「…それ…初めて見る武器だけど…」とジェミーが言葉にすると
「…昨日から思っていたんだ…それは…なんて言う武器なんだ…」とスカンが興味津々でアサトに近づいて来た
「…太刀って言うんだ」と言うと
「…太刀?」とスカン、その後ろにジェミーがついてきて太刀を見た。
「もう一度抜いてくれ…」とラビリが言うと
アサトは、ゆっくりと腕を広げるように鞘から刃を抜いた。
そして、剣先を上に向けて立てる。
その刃に太陽の光が集まり小さな太陽を映し出した、刃を動かすたびに、その映し出されている太陽が動くと眩しい程の光を放った。
「…おぉ~」と3人から声があがると、クラウトは小さく笑いながら手綱を握っているタイロンの方へと向かった。
荷台のほうから女性陣がその光景を見て目を丸くしている、それをシスティナが見て小さく笑った
クラウトが馬車に乗り、タイロンの横に座ると「行くぞ!」とタイロンが声をかけて馬を歩ませ始める。
アサトは刃を仕舞い、長太刀を持って馬車と並走を始めた。
スカンらもアサトの後ろを小さな歩幅でついて行く。
「…いつも走るのか?」とスカンが声をかけると
「…うん。これは基礎修行だからね、たくさんメニューはあるけど、出来る時にやっておこうと思っている。今日は…走ることかな…」と言いながら速度をあげて走り始めた。
それを見ていたスカン達は顔を見合わせると頷き、アサトの後を追い始めた。
少し馬車と距離が開くと長太刀を鞘から抜き、そして、構えて振る…、鞘に仕舞うと…、馬車が追いつくまで同じ行動をとった。
馬車が近付くと再び走り始めて、また同じ行動をとった。
知らない内に、スカンらも、自分らの武器を持ってアサトと同じ行動をとっていた。
それを女性陣が見て笑っている…。
5日間かけて赤い大地を抜けると、緑が多い大地へと進んだ。
ここまでくれば『パイセル』までそう遠くはないようだ。
ここまで戦闘と言う戦闘は無く、無事に来られた事に安堵を持っていた。
ただ、オークの襲撃にあったと言う村をいくつか通って来たが、大きな被害が無いようであり、そのことにスカンらもどこか胸を撫でおろしているようであった。
樹皮が横向けに割れている木がちらほらと見え始めた。
話によると、その木はホープパインと言う木で、その樹皮は、はがれそうに見えるがはがれないみたいだ、そして、最高で450年程生きる長寿の木でもあるようで、子供が、5歳までに一番最初に切った髪の毛を村の年長者が吊るす。
それは、長寿を祈願しての行動であり、村のしきたりみたいなものと言う話であった。
その木が見え始めると、『パイセル』の村が見えて来た。
『パイセル』の村は、人口が600人ほどで、麦を作っている村であるようだ。
麦は『ゲルヘルム』へ出荷している、その外にもポップと言う食物を生産している。
このポップはエールの材料になるようで、かなりの需要があるとの事だった。
『パイセル』より南は乾燥地帯になり、赤い土地が広がっている。
そこは、アサトらが通って来た赤い大地とは違い、人間族の村は無く、不毛の土地だと言う。
『レッドヘル』と言われる場所のようだ。
そこにはゴブリンや亜人、そして、オークの村が点在するようであった。
『デルヘルム』から北東に位置するこの場所は、比較的気候が穏やかであるが、雨期になるとかなりの量の雨が降るとの事だった。
ここより北には、うっそうとした熱帯雨林が数十キロ続き、その向こうに
『ゲルヘルム』は、ここから数キロの所であり、位置は北東になる。
『ゲルヘルム』の北にも熱帯雨林があるが、その熱帯雨林まではかなり距離があり、そこはここと同じ緑の草原とホープパインの木が生えているようである。
『パインシュタインの遺跡』は、『ゲルヘルム』より北北西に10kmほど行った所にある。
それより北に数キロ行くと熱帯雨林の森となるようだ。
村に着くと、スカンとその幼馴染が村へと駆け出して行った。
村は高さ1メートル50センチの石の壁で囲われていて、その壁の外には麦畑が広大に広がっている。
壁の外の北側にはポップの木が数キロにわたり広がっていて、北からの侵入を困難な状況にさせているようであった。
今回の襲撃は、東の壁を乗り越えって来たらしい。
生育途中の麦が、一本の線を作って倒されていた。
数棟の家が半壊された状況だが、そんなに悲観するほどの損害をあた得たようには思えなかった。
クラウトは、村をじっと見て何かを考えているようである。
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