第11話 リーダーの資質 上

 森を抜けた赤い大地の丘で休憩を取った。


 拉致されていた亜人の女性は4名、ゴブリンの女性は3名、そして、人間の女性が2名の計9名。

 それを助けにきたと思われるゴブリンが9体。


 アサトとスカンのパーティー10名が、その場で各々、ゆっくりできる姿で休憩を取っていた。

 クラウトは腕組みをしながら森を見ている。

 タイロンは、そのわきに胡坐をかいて座り、同じく森を見ていた。

 システィナは、クレラに寄り添っていた。

 スカンと幼馴染らは、人間の女性と話をしていた。

 そして、アサトは仰向けになって暮れて行く空を見て思い出していた、あのゴブリンが親指を立てていた姿を…。


 実際、あれで意思表示ができていたら、と言うか、出来ていたような気がしていた。

 ゴブリンは狩りの対象であるが、それは相手が敵視したときのみ…のはずだが、思えば、特訓の時は、ただ歩いているだけのゴブリンをも狩った事もあった。

 前に思ったが、意思の疎通ができれば、殺しあう事は無いのではないか…今日も旧鉱山の攻略を行ったが、考えてみれば、あそこに住んでいるゴブリンたちの家に、勝手に侵入したのは自分らであって、その家をまもろうとしたゴブリンに殺されかけた…となれば、今日の事はこちらに非があるのではないか…。


 ただ、今日、あの場所に行かなければ…この人達は助からなかったのかもしれない…。


 アサトは目を閉じてから小さく息を吐いくと、深く考える事をやめた。

 考えても、なにも元に戻すことは出来ないから…。


 「クラウトさん…ちょっといいですか?」とクラウトにスカンが話しかけて来た、それをアサトは見る。

 クラウトは小さく頷くが、森からは目を話していなかった。


 「あの…今夜は、『ウルラ』のクラウトさんらの野営地で、一緒させてもらっていいですか?」と言葉にすると、クラウトはスカンを見てからアサトを見た。

 アサトは、その言葉に上体を起こして背伸びをする。


 「先ほど助けた人たちの中に僕らの村の人がいて、その人の話だと、6日前の午前中に、あのオークに村が襲われたそうなんです。それに…、これから『パイセル』に戻ってもなにも出来ないし…、『ウルラ』で休んでから…、それと…、できればもっと聞きたい事があるんです」と言うと、

 「親御さんは大丈夫なのか?」とクラウトが言葉にした、その言葉に小さく頷いて、「たぶん…、ぼくらの村は各家に地下室があり、なにかあったらそこに逃げるようにしているんです。だから…一刻も早く帰りたいけど…、これから帰っても…」と言うと、小さくうつむいた。


 クラウトはアサトを見る、アサトは小さく頷いた。

 「わかった、それじゃ…ほかの者は…」と言うと、カンガルーの亜人の女性が立ち上がり「…わたしたちが一緒だと迷惑になると思うし、ゴブリンさんらは自分の村に帰ると思いますので…私たちも、自分らの村に行きます」と言うと、クラウトは、再びアサトを見る、アサトは小さく頷く。


 「わかりました、なら気を付けてお帰り下さい」と言葉にする、その言葉に、他の亜人らやゴブリンらが立ち上がり丘を降り始めた。

 アサトも立ち上がり彼らを見送る、すると、ゴブリンらも亜人らも大きく手を振り、頭を何度も下げていた。


 『なにが正義か…俺にはわからない…』とインシュアの言葉を思い出した。

 人間で無いモノを斬る…のも正義なら、人間で無いモノを守るのも正義…なのかもしれない…。


 今日は、この世界に別の意味で試されたような気がしていた。


 『パイセル』には、ここから6日はかかるようである。

 話によると、スカンの村の女性が拉致された時には、すでにカンガルーの亜人の女性が拉致されていて、旧鉱山の前にゴブリンの村を襲ったらしい。

 そこで、ゴブリンの女性を拉致したようだ。

 オークらは、なぜ女性だけを拉致したのか…。

 「『の為に…』か…」とクラウトが言葉にした。


 『ウルラ』に着くと、村を守っている衛兵に状況を説明した。

 すると、衛兵の動きが慌ただしくなり、8方向を見渡すように立っている櫓に次々と火がともされると、警戒の準備に入った。


 アサトらの他に、新しく3パーティーがこの村に来ていたようである。

 そのパーティーらの協力を得て、厳重な警戒をとることにした。


 アサトらのパーティーも村の東側の広場に移り、そこで警戒しながら野営をするようにと指示をされ、その場に移動をした。

 神官の好意により、風呂に入らせてもらってから、システィナとクレラは食事の準備に入った。

 システィナが言っていた、仲間は女性がいいな…って言葉を思い出していた。

 何を話しているのか分からないが、仲良くやっているようであった。


 村人の好意により、納屋の一角を借りることにした、そこに女性陣が宿泊する。

 荷馬車は、屋根を監視に使うので、下に寝ていればうるさいと思い、そうしたのであった。

 3時間おきに2名で監視をする事にした。

 最初はタイロンとジェミー、次にアサトとラビリ、そして、最後にクラウトとスカンの順で夜の9時から監視をする。


 「えぇ~」と、焚火を囲んでいた13人の中のスカンが声をあげる。

 「クラウトさんが、リーダーじゃないのですか?」と言葉にすると、スカンのメンバー一同がアサトを見た。

 システィナとクレラが作った肉入りスープを飲みながら、一同を見るアサト。

 「てっきり…クラウトさんかと思っていましたよ…」とレイトラは言いながら、スープに入っていた肉を頬張る。


 …いやぁ~、…ほんとごめんなさい…。


 「あんなに冷静で、しかも、状況判断が良く。そして、的確にメンバーに指示を出す、ましてや、今日、初めて組んだ僕らにもしっかりとした任務を指示してくれて…ほんと、凄いリーダーだなって思っていました。」と再びスカンが言うと、スカンのメンバーも頷いていた。


 「…そうだな…アサトと言うより…、クラウトだな」とタイロンが言うと、その隣にいたアサトは少し口を尖らせた。

 「…でも…、アサト君は、クラウトさんと違うリーダーの資質があるんです」とシスティナが言うと

 「ししつぅ?」とギッパが言葉にする、その言葉に頷きながら

 「はい…アサト君は、アサト君なりに頑張っているんです。そして、深く考えているんです…」と言葉にする

 「ふかく?」とギッパ

 「はい。アサト君は、自分を弱い人間だと言っています。そして、『強い』と言う意味も分からないって言っていました。そんな自分を弱いと思っている人間が、今日のように誰かを守ろうとしますか?」と言うと

 スカンの一同のホークが止まる。


 「…たぶん」とクラウト、その言葉に一同がクラウトを見る。

 「今日、あの状況なら、僕らは確実に逃げていただろう、アサトには、そういうところ…と言うか、何かを感じられる所があるんではないかと思う。」

 「あぁ~、そうかもな…坑道のオークを見たら一目散で逃げたくなる。でもな…、このパーティーに入った時に言われたんだ、『アサトの進むべき道を塞いではならない、そして、盲目的について行かなくてはならない』ってな…」と小さく笑いながらタイロンが言う。


 「…ぼくは…」とアサトが言葉にすると、一同がアサトを見る、そして…、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る