第9話 オーク強襲!! 上
アサトは両手で太刀を握り構えると、ゆっくりと後ずさりを始めた。
その穴からゆっくりと1メートル80センチはあると思われる、巨大なゴブリンが明るい場所へと出て来る。
階段の上からは叫び声やうなり声、そして、助けを求める声が鳴り響いていた。
どうやら別のパーティーがここに来て、1層でゴブリンに襲われているようである…が、ゴブリンが隠れられるような横穴は無かった。
クラウトはスカンの顔を見ながら考えを巡らすと、ここに住んでいるゴブリンでは無いモノが…侵入してきている…のでは…と思い、咄嗟にクレラにレイトラへと防御の魔法をかけさせて、レイトラに偵察の指示を出した。
その言葉に弾かれたように、レイトラが階段を駆け上がる。
アサトは巨大ゴブリンと対峙しながらタイロンの傍に来ると、タイロンが前に出て巨大ゴブリンとの対峙を入れ替わった。
タイロンの方が若干大きい。
上からレイトラの声が聞こえる。
「大丈夫!」と、その声に「後退!」とクラウトが叫ぶと一斉に階段を駆け上がり、1層のリフト昇降場に出て、木材で補強されている坑道へと進み始めるが、スカンがいきなり止まった。
その行動に一同も止まり、坑道をみる…、すると…。
坑道から大きく重々しい足音が幾重にも響き渡ってくる。
クラウトがスカンの前に立ち、その坑道を確認すると小さく声に出した…
「オ…オーク……」と。
ジェミー、アサト、そして、タイロンの順でその場に来ると「どうした!」とクラウトを見ながらタイロンが叫んだ。
「…まずい事になった。」とクラウトが言葉にすると、全員を右側の壁沿いに移動をさせた。
「…でかいゴブが来るぞ!」とタイロンが言葉にすると、先頭に立っているクラウトが壁に背中を押し付けながら、「こっちは…オークだ」と言葉にする。
その言葉にアサトとジェミーが顔を見合わせる、タイロンは項垂れた。
一行は、壁沿いを進んで両穴との距離が同じくらいの場所で止まり、その時を待った。
広さ直径15メートルほどの空間、真ん中にはリフトの昇降場があり、階段と坑道の出入り口は、リフトを挟んで真向かいになっていた。
アサトらは昇降場に向いて、右側に坑道、左側に階段が見える位置の壁際に固まっている。
「…どうするんだよ!」とタイロンがうなだれた頭を上げてクラウトを見た。
クラウトは、頭を壁に押し当てながら坑道を見て
「あぁ~、たぶん…参った…と言う状況はこういう事なのかもな…」と冷静に言葉にした。
「やるのか?」とスカンが言葉にすると
「…まずは…状況を見てからだ…」と返すクラウト、その横にスカン、ラビリ、レイトラ、ギッパ、システィナ、クレラ、ジェミー、アサト、そして、タイロンの順に壁際に並んで立っていた。
両穴から聞こえる足音が確実に大きくなると…、最初に現れたのが階段を上って来た巨大ゴブリンだった。
おかしなことに革で出来た鎧を着込み、革で出来ている兜と盾を持っている。
今まで見た事のない装備をしたゴブリンである。
その後から、同じく装備したゴブリンが10体、それも1メートル50センチほどの大きさのゴブリン6体と、一回り小さなゴブリン4体が現れた。
タイロンが盾を持ち直し、アサトは、抜いていた太刀の刃を布で拭くと柄を握りなおした、その隣でジェミーは槍の剣先を下にして準備をする。
巨大なゴブリンは、一同を見てから坑道へと視線を移すと、今度は坑道から、体長2メートル以上あり、黒光りしている兜と鎧を着ているオークがゆっくりとその場に現れた。
そして、左を向き、アサトらを確認するように一同を見る。
そこには、大きくつぶれた鼻と眼光の鋭い目、真一文字に結ばれている大きな口があり、目元に大きな縫い傷が確認できた。
そのオークに続いて、少し小さめで簡単な装備のオークが4体、坑道から昇降場へと入ってくる。
アサトらは生唾を飲む。すると、1体のオークがこちらを見るとなにやら言葉を発した。
「ウッガ、ヴォウッガァ!」と…、その言葉に4体がこちらを向いてニヤッと笑った。
なにがあったのか分からなかったが、その疑問はすぐにわかった。
クレラが泣きながら失禁をしていたのだ、たぶんそれを見て笑ったのだろう。
システィナがクレラの肩を抱きしめて何か話しているが、クレラの涙は止まらない。
アサトの横にいるジェミーが槍を持ち直した、それに気付いたクラウトが制止をさせると、大きなオークがこちらを再び見て
「お…お…まげ…ラ…は……あ…とおか…りゃだ……」と言うと、クラウトは小さく言葉にした。
「…話せるのか…」と…。
そのオークは巨大ゴブリンを見る、すると、巨大ゴブリンが登って来た階段から、同じ巨大サイズのゴブリンが1体現れると、続けて取り巻きのゴブリンが10体出て来た。
それを見たオークが、口元を歪めながら言葉を発していた
「ギャッキュウ、アラゴンナァ」と、
全然理解できない言葉だったが、巨大なゴブリンは目を細めて返していた。
「グワッキャッキュ」と
アサトは両者の会話にくぎ付けになっていると、ジェミーが体をよせて話してきた
「時を見て、坑道へ!伝えてください」と…、ジェミーの声に我に戻ったアサトは、タイロンを見て口を動かす「逃げるって!」と、その動きにタイロンが首を傾げたが、アサトは小さく「逃げるって」と言葉にすると、小さく頷いた。
それを見て、再び巨大オークとゴブリンの2体の会話を見る。
巨大ゴブリンが並んでいる、それに向かって巨大オークが対峙をしている。
巨大オークの背中には、その巨体と同じ大きさの剣が携えてあった。
「ギャッキュウ、アラゴンナァ?」と質問しているようだが、巨大ゴブリンは首を横に振っていた。
たぶん、この地を渡せとでも言っているのだろう、それに首を横に振って見せている…と考えた。
「オー…クは…、グゴ…ッブ…も…ニ…ングエ…ンン…も…ゼェ…ン…ビュップ……コロォ…シュ……『オークプリンス』の……タアメ…ニ……」と言うと、一同を見た。
『オークプリンス』の為に?と思っていると、巨大オークが咆哮を上げる…、その咆哮は坑道全体を揺らし、上から細かな石を崩し下ろしている。
アサトらは、その咆哮に耳を塞ぐ。
オークは咆哮をやめると再びこちらを見て
「わ…れの…名は…ダザ…ビ…ッシャ…」と名乗り、そして巨大ゴブリンに視線を移した。
ダザビッシャ?…それが名前…なぜ…名前を…。
アサトはダザビッシャを見ていると、今度は巨体ゴブリン2体が咆哮を上げた…がオークと違い凄みがなく、咆哮を終えると、巨大ゴブリンに向かってオークらが小さな声で笑っていた。そして、
「ギャッパインガラ」と声をあげると、一斉にゴブリン目掛けてオークが突き進んで行った、向かってくるオークに対して20体以上のゴブリンが一斉に武器を上げて応戦に入る。と、一体の巨大ゴブリンの前にダザビッシャが立ち、素早く背中の剣を外した。
それに対して、巨大ゴブリンが手にしていた両刃剣を大きく振りかぶり、勢いをつけて振り下ろすと同時に…
ジュッバッ!と何かを切り裂くような音が立ったと思った、瞬間!。
巨大ゴブリンの腕と首が宙に浮いた。
!!と一同。
斬られた体から大量の血が吹き上がると、隣にいた巨大ゴブリンが目を丸くして、首と腕の無くなったゴブリンの前に立つオークを見る。
巨大ゴブリンの血を浴びているダザビッシャは、頭から滴り落ちてくる血を舌で舐めると、もう一匹の巨大ゴブリンへと標的を移した。その時!
「行くぞ!」と声がする、クラウトである。
クラウトは坑道へ向けて一気に駆け出していた、そして、それに
「ガッキャバ、ウゲェッキャ」とオークが叫ぶと、巨大オークが「グッテイッバ」と声をあげる。
その声に、声を上げたオークが鼻を鳴らしてゴブリンへと向かい始めた。
どうやら構わなくてもいいと言ったのではないか…。
一行は来た道を全速で駆ける…後方からは、ゴブリンらの断末魔が坑道一杯に響いていた。
その声は、遠くなるにつれて数も声の大きさも小さくなっていった…。
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