第8話 旧オーパル鉱山攻略 下

 リフトはすでに誰かが降ろした後なのか、それとももう使われていないのか分からないが、リフト自体は見当たらない、鎖も、タイロンが動かしてみたが、動く気配が無く、何かに固定されているようであった。


 その昇降用の穴の向こうの壁に下へと向かう階段が見える。

 スカンの話しだと、鉱山には、このようなリフトの他に階段が何か所かあり、その用途は非常時に使われるようであった。

 また、1層、2層は比較的直線の坑道が多く、本格的な採掘現場は3層からのようであり、ここで見つかる宝石は、採掘時にトロッコから落ちた物や小さすぎて商品にならない物のようである。


 とりあえず、今確認できた通路を半数が戻り、この場にラビリとクラウトが残る。

 戻った先でタイロンとアサトが残り、残った6人は通路での採取を始めた。

 ラビリとクラウト、そして、アサトとタイロンもその拓けた場所を警戒しながら採取作業をする。


 一通り作業が終えると、リフト昇降場がある場所に集まって採取した物を確認するが、スカンの言った通り、大きな石でも3センチほどの物しかない、小さな赤い石が8個見つかっただけだった。

 とりあえず一つの袋に入れ、攻略が終わったらパーティーごとに分けることにした。


 ほぼ一直線の状態で非常用の階段を降りると、再び明るい場所が見えて来た。

 レイトラに指示を出して2層の踊り場を確認させてから、その場に出ると、そこも篝火がたかれており、あたりは明るかった。


 今度は、その場から四方八方へ6本の坑道が続いて、足跡の多さは、坑道が出入りの足跡で満たされており、どこを進んでもいいのではないかと言う話であったが、レイトラが、出て来た足跡が前方斜め右にある坑道へと進んでいるようだと言う。

 その坑道を確認すると、その坑道から出て来た足跡は確かに先ほど来た階段へと進んでいる足跡が多く、他の坑道からは階段へと進んで行く足跡は少なかった。

 その坑道へと進む事を全員が了承すると、再び、隊列を組んで進み始める。


 粗々しく削られた岩肌の坑道には、1メートルほどの横穴が点在していた為に、ゆっくりとその穴を確認しながら進む。

 ほどなくして拓けた場所が確認できると、今度はレイトラが自ら進んで確認するとその場に出る。

 その場も篝火で明るく、そこからも4本ほどの坑道が出ていた。


 クラウトは、少し状況のおかしさに考えたが、先ほどと同じように今来た坑道の採取を行い、足跡を見てから右斜めにある坑道を進んだ。

 何度か同じ行動を取りながら進むと、別のリフト昇降場に着き、そして、非常用の階段があった。が、ここには、先ほどの昇降場とは違い戦闘の形跡があった。


 「ここが考えどころだな…」と、顎に手を当て俯きながら考えるクラウト。

 「…、考えどころ…」とスカンがクラウトを見る。

 クラウトの視線は非常階段を見つめていた。


 確かに、ここまでの道中では、ゴブリンに遭遇はしていないが、昇降場のような拓けた場所には篝火がたかれてあり、それは、ここに住む者が着けたものと考えてもおかしくはないと思う。と言う事は、その場で戦うのではなく、坑道内におびき寄せる為に付けているのかもしれない…それとも、その安心感を持たせながら奥へと招いているのかも…。


 クラウトの頭の中で、色々な設定が描かれては消えて行った。

 採取した量もそんなに悪くはない量である。

 パーティーで分けても、それなりの金額になると思われる…だから…


 「…そろそろ…、戻りますか?」と、アサトが坑道採取組と戻ってくるなりに言葉にした。

 「…あぁ…本来ならここで戻った方がいいと思う。」と言いながらも階段を見据えているクラウト。

 「ただ、僕らの攻略は今日だけと思っていたからな…」と言いながらアサトらへと振り返る。


 一同は、採取した物を手にしながら歓談をしていた。


 「ありがとうございます」と急にスカンが頭を下げる。

 年の頃は、アサトとはそんなに変わらない彼がクラウトに向っていた。


 「今日は、色々と攻略の仕方とか勉強になりました。この先は、何かが引っかかっているってことですよね」と頭をあげると言葉にした。

 「あぁ…」とクラウト。

 「いやな予感かな?」とレイトラが言葉にすると、一同がクラウトを見た。

 クラウトは一同を見てから、再び階段へと視線を移す。

 「みんなすまないな…」と言いながら、ちいさく微笑むと一同を見た。


 「今日はここまでだ、どうも、この先に誘われているような気がする。」と言い、自分の頭の中で巡らした可能性を話すと、一同も納得して戻る事を了承した。

 そして、来た坑道へと進み始めた時にレイトラが何かを感じて止まった。


 「レイちゃん?」とギッパが声をかけると、レイトラはギッパを見てからクラウトへと視線を移した

 「…来る…」とクラウト、そして、先ほどの隊列を組むように指示をだして後方へと進み始めた。


 確かに足音らしき音が階段から聞こえてくる、警戒をしながらスカンを先頭にもと来た道を戻り、階段までたどり着いた、すると、後方を進んでいたタイロンが声を上げる

 「来たぞ!」と。

 アサトがタイロンの後ろにつくと、ジェミーがその横に着いた。

 「後方を確保して迎え討つ。戦うなら…ここしかない!」と、クラウトが声を上げると一同は戦闘態勢に入った。


 暗闇から、体長1メートル50センチほどの大きめのゴブリンが4体、駆け足で出てくるとタイロンを前に剣を出す。

 その後ろから、一回り小さいサイズのゴブリンが同じ数出てくる。

 「8体か…」と、メガネのブリッジをあげてクラウトが言葉にすると、指示を出し始めた。


 「システィナさんとギッパさんは小さいゴブに闇系の魔法で攻撃。大きいのはジャンボが止めて、ジャンボが止めたゴブをジェミーが攻撃、アサトは前に出て…太刀は1本。斬り数少なく小さなゴブを1本で、後方組はそのまま待機。殲滅したのち階段を駆け上がって退避する」と言うと、一同が一斉に声を上げる。


 そして、クラウトは呪文を唱え始めた。

 「光の神よ、わたしに力を貸して下さい、1層の防御」と言い、10人に光がまとい始めた。

 その光が体を覆いつくすと同時にタイロンが、先手の一撃をゴブリンに繰り出して後退する、つられたゴブリンがタイロンをめがけて剣を突きだしてきた。

 その剣を盾ではじくとジェミーがゴブリン目掛けて槍を出す。

 その槍の先端がゴブリンの胸を貫くと同時に槍を引く、それを見てタイロンが鼻をならして

 「いいね~」と言葉にした。


 システィナは、遠征に出る前に習得した闇の魔法を使って、後方にいる小さめのゴブリン4体を眠らせると、ギッパは眠ったゴブリンを拘束する魔法をかけた。

 ギッパは、闇と光の魔法を使えるらしい。


 タイロンが再びゴブリンを止め、そして弾くと、ジェミーが突くが今度は外された。

 そこにアサトが踏みだし一撃で首の横を斬りつけると、そのまま残りの2体の真ん中を通って、後方にいる4体のゴブリンへと向かった。

 2体がアサトに気を取られている所を、タイロンが1体を盾で突き飛ばし、もう1体の頭をカチ割り、飛ばされたゴブリンをジェミーが突く。


 クラウトはメガネのブリッジをあげながら、「後退準備!」と言葉にするが、後方から何やら叫び声が聞こえる

 その声を聴いて振り返ると、スカンは階段の上を見て口を開けていた。

 アサトは、拘束されているゴブリンの前に立つと太刀を構えたが、それと同時にその気配に動きを止め、ゆっくりと気配のする暗い坑道へと視線を移した。


 そして…アサトの前に…。

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