第5話 賢者の言葉 上

 その場を、頭からくるぶしまである、重黒く輝くくさり帷子かたびらの上に、真っ黒で胸に真っ赤な十字架が描かれている長衣を羽織り、顔には口は真一文字で、細くしっかりとした鼻と眉が凛々しく形作られ、瞳の部分だけが開いている無表情な仮面をつけているモノが、ゆっくりと進んでいた。

 そのモノの通って来た後には、多くの骨に化した屍が無造作に転がっており、その屍の上に立つ4名のモノらも確認できた。

 そのモノらは、同じデザインの真っ赤な十字架が描かれているが、進んでいるモノとは違う白い長衣を羽織っており、各々が違う仮面をつけていた。


 ここは…いにしえの遺跡…。


 真っ暗ななかに、『光の破片』の魔法でつくられた光が、ゆらゆらとそのモノと共に進んでいた。

 しっかりできている木製の階段につくと見上げる。

 そこには、十字架を傾斜の鋭い屋根の上に掲げている建物があった。

 教会である。

 木製の階段をのぼり、その建物に入ると、5名ほどが座れる長椅子が奥へと2列で並び、一列には10台の長椅子があった。


 奥の壁には、色とりどりのガラスがはめられたステンドグラスがあり、中央にはひと際大きな十字架がある。

 そのモノは、その十字架へと近づき、その下にある床の埃を払うと小さく叩く。

 すると、床板が一枚はがれる。

 その板をはずすと、その周囲の床板もはがし始めた。

 床板の下には、十字架が描かれてある木製の箱があり、その箱を開けると、開いた瞳の奥にある瞳が細くなった。


 ゆっくりと仮面をとり、頭からくさり帷子かたびらをおろし、頭に巻いていた布を取る。

 すると、すらっと長い髪が落ちて来た。

 その髪は、『光の破片』の魔法でつくられた光を浴びて、銀色に輝いている。


 箱にあるモノの感触を確かめるように握ると、何度か掌へと力を入れ小さく微笑む。

 その手に握っているモノは、真っ黒い両刃のロングソード。


 「…ついに手に入れた…いにしえつるぎ…忘れられた神の力を宿す武器達…」と言いながら、ゆっくりと立ち上がる。

 「…、これで…おれは…最強だ…。いにしえの時代で、神が作り出したと言われる武器の一つ…」と言いながら、その刃、そして、柄、鍔の装飾を確認する。

 「200年…探した…。悪魔とも契約をした…さぁ~ここからが…始まりだ…」と言い、右手の中指と人差し指に向かって小さな声で、

 「暗き奈落に住みし暗黒の神と、光に満ちている天におわす神よ、この我に契約した力を与えたまえ…」と、呪文を唱えるとゆっくり刃をなぞる。


 すると、真っ黒な刃が黒く明るい光沢を発し始め…黒をまとった光で輝きだした。

 黒をまとった光で輝きを放つ刃に映し出された顔には、涙を流す男の顔が映し出された。


 4人のモノたちが、銀色に輝く髪のモノのそばに近づく。


 銀色に輝く髪のモノは小さく息を吐き、そのモノらへと向いた。そして

 「…さぁ~行こうか…、この世界を…神に返す…、世界の終焉をもたらしに…」と言い、その場から踏み出した。

 モノらは、銀色の髪のモノがいた場所に進み、自分らが持つべき武器を手にして、あとについて進み始めた。

 「…まずは…軍が必要だ…」といい、その教会を後にした。


 『ウルラ』の村は、大きな岩山の麓にある。

 この岩は一枚岩であり、高さ1000m、周囲は12kmと言われている。


 いにしえの遺跡の一つ…神秘の岩山と言われている。

 この周辺には、古の文字などが書かれている場所とかがあった。

 夕暮れに焼かれた色の岩山の麓にある村で、アサト達は、『ウルラ』の賢者に話を聞いていた。


 賢者は語った。

 これは…伝承である…、だから、正確な事とはいえない…だが。

 彼は…今もなお、この地に存在する…と言われている。その彼とは…。

 約200年前に、この世界にいざなわれた者…、…最初の来訪者だ。


 その彼は…すべてを知っていた…。

 だから…総長を殺害した事も…。

 その罰が、この地への召喚だったと思い込んでいたようだ。


 そのモノは、いにしえの賢者らの保護のもとに5年。

 この地で生活すると、突如、いにしえの賢者らを殺害して、この地を去ったらしい。


 それから、その彼の行方は知られていない。

 ただ、時同じくして魔物を狩る者…、人を狩る者…、怒りに満ちた剣を振り、そして、人ならぬモノを仲間にして、あるモノを探しているモノがいると言う話が、この世界に流れた。

 そのモノが探しているモノの名は『』…。

 その武器は、元の世界で『秘密結社』の黒魔術と言うモノにより、召喚された神と名乗るものが与えた7つの武器…。


 そのモノは、神の名において、総長を殺害したと言う。

 そのモノが探しているモノこそが、総長を殺害した凶器であり、魔を斬るモノであると言う。

 だが、総長ギヨーム・ド・シャルトルは、はたしてだったのだろうか…。


 そのモノは、一つの国をも崩壊させたと言う噂を生み、また、誘惑の蛇姫を嫁にもらったとの噂も生み、世界の混沌の一部だと言う噂を作り出していた。

 彼の目的は…この世界の破滅…、そして、元の世界での目的でもあったようだ…。

 世界を神に返す為に生まれた子供、そのモノは、自分を『この世界の終焉をもたらす者『』』と名乗ったようである。


 残ったいにしえの賢者は7名。

 その力を使い、この者を狩る為に再びいざないを始めたのが、約180年前と言う。


 この話は伝承であり、真実と言えるかは分からない…。

 ましてや、いにしえの賢者と言うモノの存在も確認されていない…、だから…伝承の域。

 だとその賢者は言った。


 「ラグナロク?」とアサトが言うと、フード姿の賢者が小さく頷いた。

 「実話…なんですか?」とシスティナが言葉にすると、賢者は小さく微笑む。


 この『ウルラ』は、1メートル50センチの石の壁で囲われた小さな村で、住民の数も300名ほどしかいないようである。

 範囲も狭く、村の周りは赤い土が覆っていた。


 『アルパイン』とは、大違いである。

 一行は、『アルパイン』を出て、緑の山々と草原を6日ほどかけて進み、赤い大地へと出た。

 そこで昼食を取った後、ガッキアの言っていた森に立ち寄って、その洞窟を確認してからこの『ウルラ』へと来ていた。


 宝石のとれる洞窟の近くには、確かにゴブリンが何体かでうろうろしていたのを確認すると、明日は、荷馬車をこの『ウルラ』において、洞窟の攻略をする事に決めた。


 『ウルラ』に着くと、野営の準備を整え、クラウトがお世話になった事のある上級神官へ挨拶に行った。

 すると、海を隔てた大陸より『賢者』が訪れているとの事で、その賢者に会う事になったのだ。


 この村は、神秘の村と言ういわれのある村であり、ここに住む者の半数は神官である。

 また、この村の近くにある大きな岩山は、昔から『』と言われたほどに有名であり、その大きな岩山には、神が降りるとの言い伝えもあるので、神官や賢者が巡礼に参る土地でもあった。


 この世界の賢者は、上級神官を経てから、世界に点在するいにしえの神殿を巡礼したのちに、与えられる職業のようである。

 賢者になれば、いにしえの伝承や、古今の伝承を民に伝える事が仕事になるようで、アサトらはこの伝承の話を聞いていたのだ。

 ただ、この賢者も言っていたが、これは伝承であり、事実を知る者はいないとの事、結局、信じるかどうかは自分次第なのである。

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