第4話 『アルパイン』の村にて… 下

 頬のキメがランタンの小さな光に照らされている、そこに見える瞳は、ランタンの光を見つめていた。

 「うん…そうだね。もう1週間だけど…、今までと違う生活ペースだったからね…、不安?」と言うと、小さくうなずく。

 「そうだよね。狩りに行っても、どこかでアルさんやインシュアさんに頼っていたから…まだ狩りはしていないけど…するようになった時に感じるんじゃないかな…もう、自分らでやらなきゃならないんだって…」と言葉にした。


 その言葉は、紛れもなく本音である。

 ここはシスティナの不安を払拭しなければならないのに、本音と言うか不安を口にしてしまった。

 なんて愚かな…、自分からみんなを連れ出してきたのに…こんなんじゃ…でも、前から思っていた事なんだ。

 アルさんやインシュアさんがいない状況は…。


 「…よかった…」とシスティナが言葉にする

 「よかった?」とアサト、と言うか、思ってもいない反応だったので、思わずシスティナを見て言った。

 「うん、…不安なんだよね…これからは…どんな敵があらわれるのかな…」と言うと、小さく瞼を下ろすと

 「…仲間…、女の人がいいな」と微笑みながら言う

 「女の人?」と聞くと、小さく頷き。

 「うん、なんか…、わたし…、身近な友達は、あのパーティーの人だけだったから…。」といい、また顔を膝に埋めた。


 システィナの不安は、これからの旅のこと…。

 前は大丈夫と言っていたが、今は、自分が大変な状況へと進んでいると実感しているのではないかと思う…。

 実際、クラウトやタイロンは旅をしていたようだから、このような状況は慣れているのかもしれない、けどシスティナやアサトは慣れてない…不安で一杯なのだ…。

 その状況、と言うか、同じ心境なんだと思って、システィナは良かったって言ったんじゃないかと思う。

 それに…、仲間は女の人…だよね…、システィナの不安を取り除く事や相談事が出来たら、異性よりは同性の方が話しやすい事もあるのかもしれない、その事はあとからクラウトと相談してみようと思った。


 「…仲間は沢山できるよ…、そして、女の人も…それまで…、…もし、なにか困ったことがあったら言って。ぼくは…あんまり力になれないかもしれないけど…仲間だから」と笑って見せると、システィナは、アサトへと顔を向けて小さく微笑み、そして小さく頷いた。


 システィナの香が漂ってくる…今夜は、眠れそうにないな…。


 結局、あの後、近くのパーティーの人が来て明け方近くまで話をした。

 システィナは、早々に切り上げて馬車へと戻った。


 その人の名前は、ガッキアと言う。

 一人で話している、大変に面倒な人だったが色々情報を持っていた。


 その情報によれば、彼らはグルヘルムからデルヘルムへ遠征に向かう途中であり、今のグルヘルムは、王都第2将軍『へラベル』と言う者が来て『第3次討伐戦』の準備をしているとの事だった。

 過去2戦の戦いから、今回は移動式の大型弩砲と言う兵器を使用するらしい。

 移動式の大型弩砲とは、テコを用いて弦を引き絞り、極太の矢を打ち出す兵器のようだ。

 長さ2メートルのイミテウス鋼の刃をつけた矢を放つ兵器で、対ドラゴン戦をも想定した兵器のようである。


 その移動式の大型弩砲を20機。


 グルヘルム近辺で組み立てているようであったが、まだ全機完成の予定はついていないようであった。

 それが出来次第、18000人の軍勢を持って『第3次幻獣討伐戦』を行うらしい。


 他に、ゲルヘルムとグルヘルムのちょうど中間の黒鉄くろがね山系の山に、秘湯を見つけたと言うことである。

 見つけたのは他のものだが、その地域には、なにやら恐ろしい肉食の動物が出るようだ、大きさは体長50センチ程の黒い生き物。

 見た目は可愛い動物なのだが、獰猛でとても危険であるが、3から5匹ほどの群れでいるので始末できれば問題は無いとの事だった。

 名前は『ラスマカ・デビル』と言うらしい、通称『デビル』と言うようだ。

 死肉を漁るのが習性のようだが、たまに生き物も襲うみたいである。


 あと、ゲルヘルムの近くの森にある洞窟にオーガが住みついたようであり、今はまだ、近隣の村や町には被害が出ていないが、警戒はしているようである。


 それと、『』の情報も教えてくれた。

 どうやら、ゲルヘルムから女性を誘拐し、食料を奪って、ゲルヘルムより、北北西10kmほどのところにある『』にて、毎晩のように宴をしているようである。


 そこから、『ゲルヘルム』方向へ2kmほどのところに、第2次幻獣討伐戦に参加した国王軍の敗残兵が野営を張っていて、数は約800名であったが、このゲルヘルムの事案には目をつぶっていて、かなり非難を受けているようだ。

 というか、5日に1回、ゲルヘルムにくるオークの群れは、その野営地の前を通っていたが、それでも一人も武器を持つものがいないそうである。

 『』と言われているみたいだ。

 街の狩猟者や衛兵が、毎日のようにその遺跡に行っているが、誰一人としてオークプリンスに手を出す者はいなかったようだ。


 このガッキアのパーティーも怖いもの見たさに行ったが、オークプリンスは出てこなかったらしい。

 遺跡のなかにいて、出てくることはほとんどないようである。まっ、宴がはじまれば出て来るのではないかと言ってはいたが…。


 『』…、見てみたい気がするが…。


 最後に、お得情報を貰った。

 この『アルパイン』から『ゲルヘルム』の陸路、次の遠征の区切り地点『』には、大きな一枚岩があるようだ。

 その近くに林があり、その林の中に洞窟がある。

 どうやらその洞窟では、不思議な赤い石が採取できるようだ。

 最近、『リベル』のお供らがその場所辺りを縄張りにしているが、ほとんどがゴブリンなので結構簡単に採取できるみたいだ。


 このガッキアのパーティーも前日に採取してきたらしい、その石を見せてもらったが、深紅の色であり『』と彼は言っていた。

 他にも採取できるようである、『』と言う、七色に見える石は高額で取引されるようであるが、レアも激レアみたいな感じの話しであった。


 とにかく、この話好きのガッキアのおかげでいろいろと情報を得た。


 すでに空は白々してきていた。

 眠くなったのでテントに戻る事にすると、ガッキアも自分のテントへと戻って行った。


 翌日、と言うか、そんなに寝ていない。

 システィナに起こされ、一応朝食をとった。

 朝食の席で、昨夜のガッキアの話をすると、とりあえず、次の遠征の区切り地点『』まで行き、到着した翌日にでも、その洞窟に行ってみようと言う話になった。


 そして、2の鐘が村に響き渡るころには、『アルパイン』の村を後にした…。

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