第2話 カマヌの森の狩猟者見習い 下

 「…?」笑い声?

 ゆっくりと目を開けると、なにやら楽しげな笑い声がする。


 その声の方を見ると、焚火を囲んでクラウトとシスティナ、タイロンとカンガルーの亜人、そして、少年が談笑をしていた。

 丸い屋根で円形の建物から女性が食べ物を持って出て来た。

 アサトはゆっくりと体を起こすと、女性が気付いて指を指す。

 すると、一同がアサトを見た。

 システィナがお椀になにやらよそって、こちらに笑顔で向かってくる。


 …なにがあったの?


 「アサト君、大丈夫?」と言いながら、アサトの脇に座りお椀をアサトへと渡した。

 アサトは訳も分からず、とりあえず、そのお椀を手にして口にすると、ほんのりと甘く、そして優しい味のスープである事がわかった。

 「ぼくは…」と言葉にすると

 「にぃ~ちゃん、いきなりとおちゃんに喧嘩売って、『』んだよ」といい、その飲み物を一気に飲んで少年が大きく笑った。

 「とおちゃん?」と言葉にすると、システィナが頷く。

 「そうみたいだね、ここはバシャラさんの家の土地なんだって、そこでバシャラさんと息子のデシャラ君が特訓中にアサト君があらわれて…」

 「…あっ、そうなんだ…」とアサト。


 どうやら、ここはカンガルーの亜人のバシャラさんって言う人の土地だったようだ、そのバシャラさんが息子のデシャラに特訓をしていたみたいだ。

 デシャラは、カンガルーの亜人とミオーネと言いう人間の合いの子で、見た目は人間なのだが。

 よくみると、尻尾を腹に巻き、チャ子とおなじような髭を持っていた。

 耳も頭にあり、さっきはなにか布を頭に巻いていたので分からなかっただけであった。


 「こちらにどうぞ」とミオーネがアサトを呼んだ。

 アサトとシスティナは、一同がいる場所に移動した。

 もう、すっかり夕暮れである、風にカマヌの枝が小さく揺れている。


 「今日は、この場所に泊まってゆくといい、『アルパイン』の村までまだかかるからな、夜道は危険だし、妻も料理を用意してくれているようだ」とバシャラが言うと、アサトは一同を見た。クラウトは小さく頷いて

 「お言葉に甘えよう」と言葉にした。

 「君らは…狩猟者か?」とバシャラが言うと、一同は頷いた。

 「…そうか…」

 「…んじゃ、『』のにいちゃん知ってる?」とデシャラが言葉にした。

 「『』のにいちゃん?」とアサトが言うと、デシャラは大きく頷いた。

 一同は顔を見合わせると、クラウトの表情が少しだけ曇ったが、他は知っている者はいなかった。


 「そっか…あのにいちゃん面白かったのになぁ~」と言いながら、焚火の横に立てられてあった串にささっている肉を食い始めた

 「ふっ、」と何かを思い出したようにバシャラが笑った。

 クラウトはそのバシャラを見て、言葉にする

 「なにか…思い出しました?」と…

 「あぁ…、そうだな…」と言いながら、コップの飲み物を飲んだ。そして…

 「彼は…とても面白い子だったな…」と言い、話し始めた。


 バシャラの話しでは、2年ほど前にこの地に来た狩猟者。

 名前は、もうすっかり忘れたが、とにかく、いつも言っている言葉が『』だったようだ。

 彼らは6人のパーティーであり、かなり騒がしいパーティーで、そのリーダーが『』と発しているモノ、そのリーダーに何故か対抗意識を持っている者も記憶に残っていた。


 そのリーダーは、バシャラが格闘の訓練を息子としていると、アサトと同じようにやって来て倒されたらしい…が、それから『』と言って、1週間ほどバシャラに戦いを挑んできていたみたいだった。

 仲間も申し訳なさそうと言うか、半分あきらめているようで、迷惑ついでにミオーネの仕事の手伝いをしてくれていたようであった。


 とにかく、おかしなパーティーだったみたいだ。


 バシャラに勝てない事を分かったのか、旅をして必ず強くなって帰ってくると言い残し、この地を去ったらしい。


 とにかく…面白く気持ちのいいパーティーだったらしい。


 「僕も、大きくなったら『』のにぃちゃんみたいに旅をして、とにかくぶっ飛ばしまくるんだ」とデシャラが言葉にすると、バシャラが小さく笑った。

 「狩猟人…、それも生き方だがな…、私の仕事は、この地で、この土地を守る…それも生き方…」と言うと

 「バシャラさんは、狩猟人だったんですか?」とシスティナが聞く、その言葉にバシャラは遠くを見ながら小さく笑った。


 その笑った意味は分からない…でも…


 「こいつには、たくさん好きな事をしてもらいたい…合いの子で生まれた人生を恨んでほしくないし、この世界で生きた事を楽しんでもらいたい…」と言うと、バシャラの隣にミオーネが座り、愛おしい瞳でデシャラを見た。

 「いずれ…この子も、ここを守る事になるだろう、わたしがここを守れるうちは、この子には色々な経験をしてほしい…」と言うと、ミオーネがバシャラの手を握った。


 アイゼンが言っていた言葉を思い出していた…、この世界を楽しむ…。この世界を見て、感じて、生き方を決める…。

 デシャラは、いずれこの広大なカマヌの木の森を守る…でも、その前に、世界を知り、この世界で生きた喜びを感じて欲しいと言う、親心…、アイゼンの提案も…親心だったのか…それとも…ナガミチの…。

 アサトは、バシャラ親子を見て、心が温かくなった気持ちがした。


 翌日、一行は朝食を頂くと、バシャラの案内で、ミツバチの巣箱を見させてもらった。

 この巣箱は、カマヌの花の蜜専用のミツバチで、一つの箱に数万匹いると言っていた。

 その箱が10個はあった。


 バシャラの土地には、数万本のカマヌの木があると言っていた。

 今は、まだ花の咲く時期では無いので、周辺の土地の整理をしているらしい。


 アサト達は、バシャラが水場の整備をしていると言っていたので、午前中はその整備を手伝い、そして昼ご飯をいただくと、『アルパイン』へと向かった。

 別れ際に、バシャラが一同に向かって、「旅は、己を強くする…。そして、かけがえのないモノを与えてくれる…さて、君たちは、これからの旅で何を見つけるのかな…」と小さく笑った。

 その言葉になんの意味があるのか分からないが、その言葉はなんとなく気になった。

 たぶん、バシャラさんも狩猟人だったのだろう、そして、旅をして、この生き方を決めたのだ。

 こういう生き方もいいのかもしれないと思ったのか、それとも…。

 アイゼンが言っていた、旅をして、世界を感じろ…、その言葉が蘇ってきていた。

 カマヌのハチミツをひと瓶貰い、アサト達は、『アルパイン』へと向かって進み始めた。

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