第1話 カマヌの森の狩猟者見習い 上

 デルヘルムからゲルヘルムまで、およそ1200kmと言う。

 1日で進む距離を60kmと目標に考えて、20日。

 ゲルヘルムにて依頼クエストや狩りなどをして、5日ほど過ごしたらグルヘルムへと向かう。

 ゲルヘルムからグルヘルムまでもおよそ1200kmと言う。

 この距離も、1日で進む距離を60kmと目標に考えて20日…そこで、依頼クエストや単独の狩りなどを行って5日ほど過ごしたら、東海岸へと向かってみる。

 東海岸は、グルヘルムからやく600kmとの事なので、10日かけて行き、そこで2日ほど休養をとってから、グルヘルムに戻り、ゲルヘルム…そして、デルヘルムへと帰るプラン。


 なにか不測の事態があるかもしれないとの事で、8日ほど多く見て、約120日の遠征をクラウトが考えていた。


 デルヘルムより真東に行ったところに『アルパイン』と言う比較的大きな村がある。

 デルヘルムからゲルヘルムまで、このような街や村が何か所かあり、そのような場所で夜を過ごす予定である。

 遠征の区切りとして、7日目の宿泊予定地は、この『アルパイン』を目的に進む事にした。


 遠征はいよいよ始まった。

 朝の8時にデルヘルムを出て、すでに4時間。

 これと言った襲撃も無く、東へと進んでいた。

 時折見える動物も新鮮であり、小さな村があれば立ち寄り、村人などから情報を得た、と言っても、話題はほとんど『幻獣討伐戦』と『オークプリンス』の事であった。


 アサト達のように、旅をして狩りをする者も多いようだ。

 村には、狩猟者達が野営をはっている所もあり、デルヘルムからゲルヘルムの通り沿いは、ゴブリンが主に出るようである、道を外れると、オークや亜人の一団がいるようで、かなり組織化しているグループもあるから気を付けた方がいい、とアドバイスをもらった。


 そう言えば…レイン一味は、昨日、王都より出向している大使により、囮を行った罪が確定して、デルヘルムより北西にある、黒鉄くろがね山脈山系にある自然の牢獄に、禁固50年の刑を受けたようである。

 50年は厳しいが、確かに、犠牲をさせた数を考えると、極刑になってもおかしくないほどの罪に思える。


 またゲルヘルムより出向大使が訪れ、今回の事案について、グルヘルムの出向大使と協議の上、『』として認め、三つの街で統一した刑法を成立させた。

 なお、この刑に対しての極刑は無く、地下に幽閉し、地下への坑道を堀ると言う重労働の刑に服すようである。

 なので、レインの一味と言うか、レイン以外は、精神に異常をきたしていたので、重労働は出来ずに、地下に幽閉され治療されるようだが、レインは、死ぬまで穴を掘って暮らすことになるようであった。


 話しをきけば、このような囮を使って狩りをしているパーティーは少なくないようであるが、この事案により、申告されれば、街の衛兵の拘束が可能になるために、数は減るのではないかと言う。


 昼食をとると、少し休んでから進路を進み始める。


 アサトは、極力軽装で馬車と並走をしている、修行は怠るなとナガミチとアルベルトの言いつけ通りに、ひたすら走り、そして、距離をあけて進むと、馬車が来るまで基礎トレーニングをしている。


 表立った戦闘も無く、村の空き地を借りて野営をして1日目が終わる。そして、翌日、8時には出発をする。

 再び、軽装のままに馬車と並走をして、基礎トレーニング、そして、昼飯、少し馬車で休ませてもらったら、再びトレーニングを開始する。

 遠征に出てもやる事は同じ…、何かを期待していたが、思ったほどに戦闘と言うか、争いも無く、行き交う商人や狩猟者が多い事にどこか安堵を覚えていた。


 6日目の夜、いよいよ翌日は、『アルパイン』に着く、と言うところで、タイロンが『アルパイン』の事を話しはじめた。


 『アルパイン』の村は、村にしては大きな場所で、人口も2000人は居るのではないかと言う。

 その村の特産品は、カマヌハニーと言うハチミツ。


 『アルパイン』周辺に生息する、カマヌと言う花の蜜から作られたハチミツのようだ。

 先住民だった、『アルパイン』周辺に存在する亜人らは、カマヌの事を、「復活の木」、「癒しの木」などと崇め、樹液や葉を薬として用いていたようである。


 カマヌハニーには特別な殺菌成分が含まれ、高い殺菌効果を発揮すると言われ、胃腸炎などの治療にも使われているようであり、大きな街に行くと高額で取引されているようであった。


 そのカマヌは、12月の4週間しか咲かないようであり、今の季節は時期では無い。

 ただ、その4週間は、『アルパイン』周辺の山々は、カマヌの開花で一面が真っ白な綿雪が降ったような状況になり、かなり見ごたえのある自然現象がみられるようであった。


 小さな山々を通ると、そのカマヌの木々が目に入って来た。

 今は緑の葉がちらちらと見えているだけで、花の眼はつけてはいなかったが、うっそうと、山全体に緑の葉をつけた木々が広がっているのがわかる。

 これが全面に白くなるのなら、物凄いだろうと感じる程にうっそうと木々が広がっていた。


 その木々の間に、石で出来ているであろう丸い建物のような物が目に入ってきた。

 ここ周辺には、カンガルーの亜人が住んでいるようだが、とても内向的でありながらも攻撃的な種族のようである。

 敵対することは無いが、1対1の戦いを申し出てくるモノもいるようであった。

 言わば…清純格闘派的な種族なのであろう。

 カンガルーの亜人と『アルパイン』の人間との間には交流があるようだ。

 どうやら、このカマヌのハチミツを採取しているのがカンガルーの亜人で、そのハチミツを『アルパイン』の商人が購入しているようであり、カンガルーの亜人は、その『アルパイン』で生活物資を購入してもいるようである。


 一行が山々を通っていると、なにやらその建物付近で格闘している者が見えた。

 一人は…顔が長く、耳が立っている…ロバ…じゃない…カンガルーだろう、そのような顔を持ち、体は背筋を伸ばした格好で、手にはグローブみたいな丸い手袋をつけて、尻尾を振って立っていた。

 その相手をしているのが…少年…と言うか、チャ子位の少年が、そのカンガルーと対峙している。

 どう見ても…戦っているようである。


 「アサト君!」と馬車の前部分に乗って、前を見ていたシスティナが、訓練の為に馬車と並走をしていたアサトを見て声をかけた。

 そのシスティナを見ると、

 「子供が戦っている」と声にする、その言葉に、タイロンも中から小さな窓を開けて外を覗き込んだ。

 アサトは馬車の反対側へと移動して、その方向を見ると、確かに少年がカンガルーの亜人を相手に戦っていた。


 その少年が踏み出してパンチを繰り出すと、亜人はヒョイッとよけて、カウンターを思いっきり少年にぶちかましていた!

 少年は数メートルとばされる。


 アサト一行は、!!!!!と驚いた。

 というか、人間があんなに飛ぶものなのか!と言う気持であった。

 「…アサト!」とタイロンが小さな窓から太刀を渡すと、アサトは受け取り、その場所へと駆け出した。


 …なんだ…あの…亜人…と思いながら、太刀の柄に手を置くと…。


 さっき飛ばされた少年が、また亜人に突っかかってゆく…。

 「…あぶない!」と叫ぶアサトに、亜人が気付くと、その亜人のみぞおちに少年のパンチがヒット!したはずだが…。

 その少年は、亜人にパンチをしたまま動きが止まる。

 その少年を亜人が見下ろすと、ヒョッと小さく蹴り上げて…の、回し蹴りをくらわした…少年は、ふたたび数メートル飛ばされた。


 アサトは、少年をみながら亜人の前に立つと、アルベルト並のひややかな視線で見降ろされた、身長は2メートルでもあろうか…、

 「なにをしているんですか…子供ですよ?」といいながら、太刀の柄を握る。

 亜人は涼しい顔をしながら、ファイティングポーズをとった。

 アサトも鞘から刃を抜こうとした瞬間!どふっとみぞおちに一撃。


 蹴りであろうか、なんか、胃から、さっき食べた昼食とともに胃液が込み上げて来るような感覚がすると同時に、こめかみに何かが当たったような………。


 そして…。

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