十五、紺碧の空に溶ける青

◆◆◆



 ステラミラの右眼が、万華鏡を内から外に広げたかのように光を放つ。


 取り込んだ魔元素マギアスティを光源に変え、輝く多彩な光。


 ーーああ、あの眼が欲しい。


 利き手を伸ばす。


 強張っていたはずの身体はすんなり動き、もう片方の手で、ポケットに突っ込んでいた、オニキスとヘマタイトを握る。


 自分の勝利、自分の望み。


 青い石を手に入れること。



 青い石と、同化すること。



  ーーいつからだろうか。


 不動産の仕事をする内に、与えられた箱を、相手に差し出しているような気になったのは。

 小さな子のいる家族連れに、これから結婚する恋人達に、子供が独立したご夫婦に。

 独りで生きると決めた人に、独りになった人に、猫と暮らす人に。


 それぞれの人生を彩る、キャンバスであったはずの、家。


 いつからだろう。


 空っぽなハコを、いずれ入る墓石を、勧める仕事だと、思うようになったのは。


 最新の設備が付いていて、駅から近い。


 眺望が素晴らしい、生活に便利な、お客様にとって、最高のーーお墓。


 絵を描く時間が取れなくなり、だんだん絵が描けなくなった頃。


 それでも何とかしたくて、絵の具の素材に興味を持った。やがて、ミネラルショウで、石を集め出した頃。


 自分は、自分が空っぽになって、張り付いた笑顔になって、空っぽのハコ売りをしている気がしていた。


 全ての色が失われ、モノトーンの世界になる。



 ーー空っぽの箱は、墓と同じ。


 




 魔法のランプの魔神に願えるなら、あの眼が欲しかった。



 青い石の中にずっとずっと、閉じこもり、胎児のように丸まっていたいのだ。



 「ステラミラ、自分の願い事を言わせてくれ。右眼の中に、閉じ込めて欲しい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る