三、半球の青天
〈というわけで、契約をお願いします!ニャ!〉
◆◆◆
取って付けたように、
空の色は青くなっている。雲は少し。天気予報で言うところの、快晴だ。
さっきまで、空全体が映画のスクリーンになっていた。
さらに音響もサラウンドスピーカーのような立体音響で、臨場感ある大迫力の映像。
自分が死んだ時間から遡り、社会人成り立てや学生時代、美術部の頃、幼少期、赤ん坊、妊娠中の母、見守る父……からそれぞれの祖父母達、さらに曾祖父母達……。画面が分割され統合され、途中速度が上がったり下がったり早送り、重要箇所なのか一時停止しながらも遡りまくって……。
縄文時代の土器に夢中になってたら恐竜が出たな。
加速度的に遡りがあったらしい。それとも、情報量が多過ぎて記憶がとんでるか。
そこからさらに遡り、隕石がぶつかったり、地球と月がくっ付いて離れたところは曖昧なイメージが残っている。
最後は太陽系が誕生するところを見たような……。
〈どうやら、やはり理解できていないようだね?ニャ!〉
語尾の無理矢理感がひどい。急にキャラ作りを意識し出したのだろうか。
「確認させて欲しい。標本名と、契約とやらに当たっての説明を求めたと思うが、この映像は何だったんだ?」
〈契約前の説明機会は平等に、これが標本実験契約における共通原則ニャ。どれだけ低次元の復元体だとしても、適用されるんだ、ニャ〉
低次元の復元体?
〈でも低次元の者達には、理解できる範疇を超えてるニャ。この映像は、そうした低次元の存在向きに作成された、この星系の成り立ちをわかりやすく示すものだニャ。契約時に高次元の存在が有利過ぎるため、低次元の者達への差別を無くそう!と言う声が広がってこうなったニャ〉
少し面倒くさそうに喋る猫型物体。
よくわからないが、商品説明用のプロモーションビデオのようなものだろうか。
〈復元体は実験契約を結ぶと、新たな名前を付けるニャ。それが標本名ニャ。復元前の事は無関係と見なされるため、また実験協力関係である事を示すためニャ。実験協力後には報酬、つまり何でも望みを叶えるニャ〉
何でも望みを…叶える?つまりそれは、
「生き返ることも可能なのか?」
〈とっても簡単なことだ、ニャー。この三次元世界に関しては出来ない事はほぼ無いニャー。規定に違反しない限りはな、ニャー〉
語尾が気になって入って来ない。
「その…先程から、語尾に不自然な言葉が付いているのはなんなんだ?気になって話が全く入って来ないんだが」
〈それは失礼したニャー。異文化コミュニケーションにおける相互理解において、言語理解は避けて通れないニャ。しかしそこを魔力で意思疎通可能になればどうなるか?ニャ。
魔力で言語同時翻訳を可能にしたってことか?それと語尾が変なのは何の関係が?
〈言語翻訳について、独特のニュアンスや方言などもどこまで反映出来るのか、
ええと、つまり
「実際はニャ!という語尾はついてないけれど、語尾に該当する言葉は発している。それがこちらの言語でどのように反映するか確認したい、ということか?」
〈飲み込みが早くてびっくりニャー。その通りニャー〉
躑躅色の物体がニヤリとする。
〈大分馴染んできたようで何よりだニャ。これなら説明の手間が省けそうだニャ。一気に進めていいかニャ?実験協力するなら、契約後の説明も含めて話をするニャ。望みは何でも叶えるから、生き返ることも可能ニャ。もし実験協力する気がないニャら、復元体は消去して、二度と再生しないニャ〉
話を聞きながら、自分がアラジンと魔法のランプの世界に紛れたような気がした。空想物語の世界、願いを叶える、条件、契約……。
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