2#風船を嫌った羆王

 それは、秋が深まった森での出来事。


 「おーい!ボマイ様!!」


 『新生羆王』ボマイの塒の洞穴の前で、キタキツネのチャンタが声をかけた。


 

 のそっ、のそっ、のそっ、のそっ、



 「やあ、キタキツネのチャンタか。育てた子の『子別れ』、ご苦労様ですなあ。」


 「うん。毎年、俺が手塩にかけて育てた子達に『試練』を与えるのは辛いですよ・・・

 でも、それが『父キツネ』の義務ですから・・・

 でね、」


 「・・・・・・?!」


 「な、何強張ってるの?『羆王』。この俺がくわえてる、飛んできた風船が気になるの?

 この風船ねぇ、俺が『子別れ』終えて感慨に耽ってた時に脚もとに転がってたんだ。

 哀しい思いが、この風船で癒せたんだけど・・・

 ねぇ、この風船で俺と遊ばない?

 だいぶ萎んでたから、俺が気合い入れて息を入れてパンパンに・・・」


 「ぐお・・・!!」


 『羆王』のボマイは、突然険しい顔をして唇を震わせた。


 「ど、どうしたの?!『羆王』。先代は風船が大好きだったのに・・・」


 「『先代』と俺を比較しないでくれ!!

 俺は、人間のものには・・・!!俺の『先代』は!!人間のものに気をとられて・・・人里に・・・!!

 ぐおーーーーーーーーー!!がおーーーーーーーー!!」


 取り乱した『新生羆王』ボマイは激昂して立ちあがり仁王立ちして、牙を剥いて吠えかかってきた。


 「いいよ。変わっちゃったな・・・『先代』は、風船を見たら真っ先に風船を突いたり、飛ばしたり、割ったりして子熊のようにはしゃいだのに・・・

 『先代』の方が良かったな・・・」


 キタキツネのチャンタは拾った風船をくわえると、項垂れてとぼとぼと去っていった。


 「・・・・・・。」

 

 洞穴に戻った『新生羆王』のボマイは、頭を逞しい腕で抱えて踞った。


 ・・・俺は・・・


 ・・・俺は・・・


 ・・・もう、人間が与えた『欲望』に惑わされないと決めたんだ・・・!!


 ・・・父は・・・先代『羆王』は・・・人間に与えられた『欲望』に殺された・・・!!


 ・・・『風船』という名の『欲望』に・・・!!


 ・・・俺は・・・俺は・・・『風船』が嫌いだ・・・!!なのに・・・


 

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