新しい羆王(ボマイ)と形見の風船

アほリ

1#偉大なる父を継ぐ者

 森の羆王、ボマイは死んだ。


 巨熊ボマイがこよなく愛し、そして自らのシンボルである風船。


 新しい風船欲しさに、うっかり人里に出てしまった。



 ダーーーーーーーーーン!!



「パパぁーーーーーー!!」


 待ち構えていた地元の猟師に撃たれた父羆の『先代』ボマイに、子羆は大声で泣いてすがった。


 「パパぁーーーーーー!!死なないで!!」


 「ぼうず・・・よく聞くんだ・・・

 俺はここで死ぬ・・・」


 「そんなぁ!!」


 「だから俺の話を聞け!!お前は・・・俺になれ!!」


 「パパに・・・?!」


 「そうさパパにだ。ぼうず・・・名前無かったな・・・俺の名前を継げ!!

 『ボマイ』だ!!俺の名前『ボマイ』だ!!」


 「『ボマイ』・・・」


 「そうだ!!王になれ!!『羆』の『王』に・・・」




 ダーーーーーーーン!!




 「きゃっ!!」


 「ぼうず!!長居はするな!!逃げろ!!早く逃げろ!!逃げて逃げて逃げ延びて、他の仲間達がひれ伏す『羆の王』となれ!!」


 『先代』ボマイは、そう子羆に告げると息を引き取った。


・・・・・・・


 『ボマイ』の名前を継いだ子羆は、その後父の『先代』を彷彿させる逞しい風貌に成長した。

 それは、既に『羆王』の貫禄のオーラが漂う位だった。


 しかし、うしても拭いきれないひとつの試練が待ち構えていた。


 『羆王』としての信頼。


 『新生』ボマイは、森の仲間達に威厳でも見せつける為に遠吠えしてみた。


 「がおーーーー。」


 「何?この低調な遠吠えは?怖くない怖くない。」


 「何の威厳も感じない。これで『羆王』の子かい?」


 草葉の仲間達は、一斉にブーイングした。


 更に悪いことに、『新生』ボマイに追い討ちをかけるように、1匹のスズメバチに刺されて悶絶するのを見て森の動物達は腹を抱えて爆笑したのだ。


 「ぎゃははははははは!!!!!大傑作だぁーーー!!まじうけるーーー!!」


 「こんなのが『羆王』ボマイの息子かよぉぉぉーーーー!


 「笑うなおまいらーーー!!俺は『羆王』ボマイだぁーーーー!!」

 

 涙目になった『新生』ボマイは、自信を失って洞穴で塞ぎこんでしまった。



 ある日の事、森に密猟者がやって来た。



 ダーーーーーーーーーン!!


 ダーーーーーーーーーン!!

 


 密猟者の襲撃から逃げ惑う森の動物達。


 慌てたのは、『新生』ボマイ。


 必死に森の動物達を安全な場所に誘導してもきりがなく、密猟者がどやどやとやって来る恐怖に苛まれた。


 ・・・俺は・・・この森を司る羆王ボマイ・・・だ・・・


 ・・・この不届きな人間に・・・見せつけてやれ・・・羆王ボマイの威厳を・・・


 ・・・俺は羆王ボマイの『息子』じゃねぇ・・・!!


 ・・・俺が、羆王ボマイだ・・・!!


 『新生』ボマイ、父の『先代』ボマイに憑いた瞬間だった。




 「がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!!」




 凶暴な羆の吠え声に仰天した密猟者は大急ぎで森を去って行った。


 こうして、森の危機を救った『新生』ボマイは名実ともに『羆王』ボマイとなり、この森を司り生き物達を仕切る長となった。


 復活した『羆王』ボマイ。


 しかし真の『羆王』ボマイになるには、まだ物足りなさが拭いきれなかった。


 それは・・・

 





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